壁際椿事の「あるくみるきく」

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『マリアの父親』(たくきよしみつ著)

2012年04月27日 | よむ

『マリアの父親』(たくきよしみつ著)を読みました。

原発を題材に取り、資本主義というシステムの矛盾や限界をテーマに書かれた小説です。資本主義のシステムとは、昨日のブログで『絶望の国の幸福な若者たち』から引用した「自動的な服従のシステム」と同じかな。

主人公、てっちゃんは、四国のG岬近くのホテルに勤めるコック。G岬で行われた自然保護団体、山彦塾のイベント会場で、男心をくすぐるマリアと、彼女の連れのデンチと出会う。じつは、マリアとデンチは、ミリペンの里という身寄りのない子どもを受け入れる慈善施設の出身。ミリペンの里は英国発の世界的な慈善団体で、孤児の中から優秀な子どもを選抜している。(なぜか、ミリペンの里では、1972年に『成長の限界』を出したローマクラブを連想してしまいました)

なぜ、慈善団体が、優秀な子どもを選抜するのか? 既存の政治家や学者は、大人ゆえ先入観から自由になれず、判断において何らかのバイアスを受けてしまう。それに対し、子どもは純粋に論理だけに頼り(あるいは直感も使い)、分析する。このピュアな頭脳を欲しいわけです。

デンチは天才的頭脳の持ち主。ミリペンの里上層部の指示で、資本主義の行き着く先を、コンピュータ使ってシミュレーションする仕事をさせられる。その結果、数十年後、石油の枯渇と共に、文明が危機に直面すると予想する。一方で、石油に代わるエネルギーとして原子力が注目を浴びているが、その欺瞞もデンチは見通してしまう。

ミリペンの里を抜け出し、まるで宗教の布教のように文明の限界を説いて回るデンチとマリア。彼らを捕まえようとする、資本主義のシステムを従来どおり維持したいミリペンの里の上層部、暴力団、政官界の黒幕……。という話です。

小説は、たくき氏のデビュー作で、1991年に小説すばる新人賞を受賞。手持ちの単行本は1992年1月25日、第1刷となっています。3・11以前、阪神淡路やオウム事件(1995年)よりも前です。山彦塾はオウムを連想させますが、それ以前に書かれているんです。すごい先見性といわざるをえません。ご興味のある方は、ぜひ。



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