良書である。
はじめの「JAPANデビュー」の保守派を独断的に批判するくだりは、リベラル左派の論客かと錯覚したが、読み進めるにつれ左右どちらにも偏らない中道的なバランス感覚を感じた(それでもJAPANデビューについての意見にはいささか反論もある)。
また政治的な提言も非常に建設的かつ有効的なものに思えた。
米国追随一辺倒でもない。
中国にもむやみに近づかない。なぜなら対等に話し合える国ではないのだから。
まずは日本と台湾、そして韓国との関係を緊密かつ良好にすることがアジアの安定をもたらす、という著者の主張には私も同感である。
以下は本書を読んだ上での雑感である。
台湾と台湾人は総じて親日的である。
台湾に住んだことはないが、台湾人の妻の話などを聞くにつけ、それは確かなことのようである。
そのこと自体は日本人として、素直に嬉しい。
しかし、私は日本の保守派の人たちが「台湾人は親日である」というときの「親日」には、どこかに違和感を覚えていた。
何かが微妙にズレていると・・・
彼らは言う。
「台湾人は日本の統治時代にとても感謝しているんだ」
「日本時代に生きた台湾の老人たちはみんな日本統治を懐かしんでいるんだ」
彼らの主張を聞くと、あたかも台湾の老人たちが手放しで日本時代を賞賛しているかのようだ。
しかし実際は戦後の中華民国政府と比較して、相対的に日本政府の統治の方がよかったと思っているに過ぎない。おそらく誰もあの頃に戻りたいと思っている人はいないであろう。
またどんなにひどい時代に生きたとしても、人の心理として若かりし頃を懐かしむのは自然なことだ。それは何もあの時代がよかったからという理由にはならないのである。
保守派の自己陶酔的な親日観は、木を見て森を見ず、である。
つまりはピントがズレている。
物事の一面だけを捉えて、それを全体に敷衍しているにすぎない。台湾が親日な理由として、統治時代のことしかネタにできないようでは、いつまで経っても台湾のことを本当に理解することはできないだろう。
もちろん日本時代に身命をかけて台湾に尽くした八田與一氏の功績などは、美しく尊い生き様として末永く伝えられるべきである。個々の宝石のような人生は、人類の遺産として大事に伝えていかなければならない。
しかし、個々の業績が素晴らしいからと言って日本統治が賞賛できるということにはならないのである。
そして、現在、日本時代の老人以上に著者が萌日(もえにち)と言ってはばからないほど「日本好き」を牽引している台湾の若者たちがいる。
彼らにとって、日本が好きな理由に日本時代云々ということは、まったくと言っていいほど関係がない。
彼らが惹かれるのは、あくまでも戦後日本が醸成してきた平和的な民主主義の雰囲気と、日本人の本来穏やかな国民性とが相まって生まれたサブカルチャーが中心である。
アニメ、漫画、芸能、ファッション、ゲーム、AV・・・
こうしたものへの興味がきっかけとなって、さらに日本の歴史や文化に関心を持つ人たちも増えてきているようだ。
今度は台湾のよさをもっと日本の若者に伝え広めていき、双方向の良好な関係を築いていきたい。
韓国ドラマはいざ知らず、住んで楽しいのは韓国より台湾であろう。
台湾は日本人にとって韓国や中国とは比較にならないくらい居心地のいい国なのだから。
眼から鱗の洞察力に優れた分析も多く、台湾に10年在住しているだけに説得力のある文章に感じた。
右も左もノンポリも、日本と台湾の関係に興味がある人は必読。いや、台湾に関心がなくても、日本の将来の外交について憂慮している人にはぜひ読んでもらいたい。台湾は日本にとって、なくてはならない良き友人なのだから。
蛇足だが、
・日本人は他人に厳しいが、自分にも厳しい。
・中国人と韓国人は、自分に甘く他人に厳しい。
・台湾人は自分に甘く、他人にも甘い。
という著者の分析は言い得て妙だと思った。
もっとも日本人も、自分に甘く他人に厳しい人が増えてきているように思うが・・・。