亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

利上げ前倒し観測を消化する市場

2021年11月25日 19時46分58秒 | 金市場

欧米はホリデーシーズン入りで今夜のNY市場はお休み。26日も半日取引ゆえに実質連休ということになる。11月24日の金市場は、前日までの大幅下落に対する押し目買いがアジアからロンドン時間を中心に見られた。しかし、NY時間には引き続きファンドの見切り売りで戻りは抑えられることになった。1800ドルに接近はしたものの、跳ね返されて結局前日終値近辺の1784.30ドルで終了ということに。

この1週間でFRBによる利上げ前倒し観測が広がった金市場では、それまでの「インフレ対応」の金の「買い」でなく「インフレ抑制に乗り出すFRB対応」の金の「売り」に売買行動が逆転することになった。正確にはNY金が1870ドル台まで買われる前の時点の状況に戻ったことになる。11月2日以前の市場センチメントを指す。NY金先物市場でのこうしたファンドのスタンスの変化が、そのまま足元の価格動向に反映されている。

金市場内でのセンチメントの反転は、心理的な節目の価格1800ドル割れというテクニカル指標の悪化もあり、当面は積極買いを手控えさせることになりそうだ。

ただし、FRBをして警戒感を高めさせるほどのインフレ高進について、その抑制策としての利上げは、新型コロナ禍から立ち直りの途上にある経済にとって阻害要因となるのは言うまでもないだろう。引き締めが過ぎれば景気回復の腰折れも否めず、難しい政策バランスを求められるものでもある。FRBにしても当面はインフレの高止まり、あるいは、さらなる高進も視野に入れていることから、政策面での不透明感はぬぐえない。ここにきて先物市場でのファンドの買いポジションの急激な解消(手じまい売り)の一方で、繰り返しになるが金ETF(上場投信)への資金流入が見られているのは、中長期の視点でのリスク対応の押し目買いが入っているものと思われる。ただし、水準を押し上げるほどの力はない。センチメントのサポート役にはなる。

米労働市場は確かに緩和策終了に向けたグリーンライトが点滅し始めている。

11月20日までの週の失業保険新規申請件数は前週比7万1000件減の19万9000件と、1969年11月中旬以来52年ぶりの低水準となった。市場予想(26万件程度)を大きく下回り、新型コロナパンデミック前の21万件台も下回った。ホリデーシーズンで統計にイレギュラーがあったとしても、基調を変えるものではあるまい。内容はテーパリングの早期終了を後押しするものといえる。

また、10月の個人消費支出(PCE)は前月比1.3%増と、9月の0.6%増から伸びが加速し、市場予想の1.0%増も上回った。インフレ高進の中でも消費行動には影響が出ていないことを表し、10-12月期序盤の米国経済が再び加速していることを示している。

一方、FRBが物価の目安としている変動の大きい食品とエネルギーを除いた「コア個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)」は前月比0.4%上昇、前年同月比では4.1%の伸びとなった。1991年1月以来30年ぶりの伸びとなる。9月はそれぞれ0.2%上昇、3.7%上昇だった。ただし、他の物価指標から加速が予想されていたこともあり、市場への影響は目立たなかった。パウエル議長も11月FOMCに際に、さらなる上振れの可能性に言及していた。

さらに、この日の午後、注目の11月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が公開された。ここにきて多くの政策当局者がインフレの高止まりが長期化することを想定し、さらなるインフレ圧力の高まりを警戒していることが明らかになった。量的緩和の縮小(テーパリング)ペースを速めることを支持する意見が多いことが判明したが、この辺りはすでに先週のクラリダFRB副議長、ウォラーFRB理事の発言で表面化し金の下げのきっかけとなっていた。

ただし、その一方で慎重意見もみられている。サプライチェーン(供給網)問題や新型コロナの感染状況になお不確実性があることから、「今後の経済データに対して忍耐強い態度をとることが適切だ」とする意見が出ている。ブレイナード理事か?テーパリングの開始では一致しているものの、その先の利上げ時期を左右するインフレ見通しに関してはメンバー間で見方にばらつきがあるとみられる。この点で、参加者の経済予測が公開される12月のFOMCが注目される。

にわかに市場を席巻した利上げ前倒し観測だが、インフレを含む経済環境の変化がFRBが想定した以上に進んでいることを表しており、その対応の難易度は上がっている。FRBはうまくコントロールできるのか、それ自体がリスク要因とも言える。

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1 コメント

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Unknown (fairlane)
2021-11-26 00:20:06
マエストロ グリーンスパンが、04~06にかけてFFレートを1%から5.25%まで上げたとき、金価格も連れてどんどん上がっていきましたが、その再現はもうないのかなぁと 本当に利上げするとセオリーが通用しないことをあの時思い知りました
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