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戦争と平和のリアル

2017年08月04日 | 社会・経済

「戦争したいのは誰なのか」戦争と平和のリアル

       望月衣塑子「歴史に学ぶ」2017/5/31

   2016年4月、科学者の国会ともいえる、日本学術会議の大西隆会長が、あくまで私見としながらも、それまで日本学術会議が掲げてきた「軍事研究の否定」を覆すかのような発言をした。それを受け、日本学術会議内に「安全保障と学術に関する検討委員会」が立ち上げられ、2017年3月までに全11回の委員会が開催された。そこには毎回、委員会閉会後すぐに報道席から委員席に駆け寄り、いわゆる、ぶら下がり取材をする東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者の姿があった。望月記者は武器輸出関連企業や防衛省、国会議員にも取材を続けてきた。

 武器輸出に向けた動きが活発化

 「私はもともと社会部で千葉や埼玉の県警や東京地検特捜部などを取材、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑などを担当してきました。しかし出産後、経済部に配置換えになり、正直戸惑っていました。そんな私に、上司がすすめてくれたのが武器輸出問題でした。2014年4月、第2次安倍内閣が『防衛装備移転三原則』を21人の閣僚のみで閣議決定、武器輸出の方向に大きく舵を切った頃です」

 輸出、となれば確かに経済の問題でもある。しかし軍事にも政治にも、さして興味のなかった彼女が、いわば周辺取材である日本学術会議の委員会に毎回参加、積極的にかかわっているのはなぜなのか?

「まず手始めに、関連企業や防衛省、国会議員など様々な人を相手に、それまでの人脈がほとんど使えない状態で取材を始めました。当初は企業には取材拒否され、関係官庁からは締め出され、防衛省幹部からは説教されるといった状態が続きました。それでも、実態として武器輸出が解禁になったことで、にわかに武器輸出に向けた動きが活発化していくのを見ていて、大きな危機感を感じたのです。

 14年6月、パリにおいて隔年で行われている世界最大規模の陸戦兵器およびセキュリティー関連製品の展示会『ユーロサトリ』に、初めて日本のブースができ、日本企業が参加しました。それまでも海外にある子会社が参加したことはあったものの、解禁というお墨付きを得た感があったのではないでしょうか。

 15年5月には、海洋防衛およびセキュリティーの国際的総合展示会『MAST Asia 2015』が日本で初めて横浜で開催されました。イギリスの民間企業マスト・コミュニケーションが主催するこの展示会は、防衛省に加え、外務省と経済産業省とが後援しました。

 アメリカの軍事企業大手ロッキード・マーティン社をはじめとする防衛企業や団体が125参加し、日本からも海上自衛隊と、三菱重工業や日立製作所、川崎重工業など企業13社が参加しました。NECと極東貿易は日本ブースとは別に、単独で社名の入ったブースを出していました。欧米を中心に中東やアジアなど39カ国の海軍幹部も参加し、来場者数は予想を倍近く上回る3795人だったそうです。

 政府や防衛省は“防衛装備品”という言葉を使っていますが、その内容は武器そのものです。経済産業省のホームページでも『防衛装備とはなんですか?』という問いに『防衛装備とは、武器及び武器技術のことをいいます』と回答しています」

 韓国PKO部隊に武器弾薬を無償提供

  防衛装備という冠のついた防衛省の外局「防衛装備庁」が設立されたのは同じ2015年10月のことだった。

「武器輸出三原則の見直しについて注目されるようになったのが第2次安倍内閣になってからということもあり、これを推し進めてきたのは自民党という印象を持たれる方が多いのではないでしょうか。

 実は民主党政権下、鳩山政権のときすでに、当時の北澤俊美防衛相が見直しを検討したいと発言していました。次の菅直人政権下でも見直しを盛り込む方向だったものの、社民党との連携を重視し、見送る結果となりました。しかし野田佳彦政権下では改めて見直しの可能性を示唆、イギリスのキャメロン首相との会談で、アメリカ以外ではじめて、武器の共同開発を進める方針で合意したという経緯があります。

 自民党が与党に復帰した第2次安倍内閣の下、13年12月に『国家安全保障会議(日本版NSC)』が発足、同月、緊急の必要性と人道性が極めて高いという理由から、南スーダンの韓国軍の国連平和維持活動(PKO)部隊に対して、1万発の弾薬の無償提供を許可しました。

 それまで自民党政府においても、『国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO法)』第25条の『物資協力』に武器や弾薬、装備は含まれないとしてきたのに対し、安倍政権は『PKO法には武器弾薬という適用除外は明記されていない』と説明、この弾薬無償提供について過去の政府答弁との整合性を主張しました。適用除外が明記されていないものが無償提供できるとしたら、歯止めがないのと同じです」

 これらと同時期に進められていたのが、オーストラリアの潜水艦事業の受注だった。当時、首相が親日派のアボットで日本に有利という下馬評はあったものの、防衛省内でさえ、機密の多い潜水艦の輸出はハードルが高すぎると話す幹部がいた。それでも日豪首脳会談や外務・防衛閣僚会議などが行われ、16年2月には三菱重工業の宮永俊一社長自らが現地入り、4月にはそうりゅう型潜水艦「そうりゅう」と現地海軍とで共同訓練も行うなど積極的な活動が見られた。ところが……。

「アボット首相から親中派のターンブル首相に代わった15年9月から、潮目が変わった、という声がありました。それが的中、16年4月26日、受注先がフランスに決まったという発表がされたのです。関係者にはまさに衝撃の結果だったことでしょう。

 一方で、安堵の声も聞かれました。潜水艦というのは、1400社がかかわり、機密性の高い技術や部品が集約されています。その機密流出を阻止する対策や支援体制は皆無で、受注が決まってからそれらを決めるとしていることに、不安を感じる関連企業の人たちが数多くいたのです。安全保障関連法にしても、テロ等準備罪(共謀罪)にしても、何かにつけて現政権は早急がお好きなようです。

今回の件ではまだ不安要素があります。フランスが受注したとはいっても、原子力潜水艦を通常動力型の潜水艦にするという案のため、実際には“絵に描いた餅”という声があがっています。そうなれば、また、日本の出番とばかりに売り込みが始まる可能性もあるのです」

 テロリスト掃討作戦で犠牲になる市民

  この間に、望月氏は一人の少女の存在を知る。彼女の名前はナビラ・レフマンさん。12年10月、パキスタンにおいてアメリカと多国籍軍がイスラム過激派掃討作戦として行った無人攻撃機による誤爆で祖母を失い、自らも含め兄妹や従兄弟たち9人がけがを負った。

「無人攻撃機の残虐性を訴えるため世界中を回っていたナビラさんは、15年11月に来日、超党派議員団に面会を求めました。面会が実現しないまま帰国したと聞き、どうしても彼女の思いを知りたくなりました。そこで、ナビラさんを支援する現代イスラム研究センターの宮田律(おさむ)理事長を通じて、パキスタンにいる彼女の弁護士を介し、『爆撃でテロリストを殺せたかもしれませんが、テロ行為は増えています。爆撃ではなく、教育による支援で私たちを悲劇から救い出して欲しい』との切なる思いを聞きました。

   テロリストの掃討作戦では、標的のテロリストの他に多くの市民が犠牲になっているという事実があります。

 16年10月12日から15日には、東京ビッグサイトで『2016国際航空宇宙展』が行われました。宇宙展とはなっていますが、レーザー誘導弾やオスプレイ、空対空ミサイルなども出展されていました。

   この年から、日本ではドローン市場に特化した国際展示会も行われており、17年も3月23日から25日まで、千葉の幕張メッセで『Japan Drone 2017』が開催されました。日本ではドローンに関して運送業や物資支援に有効といった報道がメインですが、アメリカ空軍のデータによれば、アフガニスタンでは通常の戦闘機よりも、自国の兵士の犠牲のないドローンによる空爆の比重が高まっています。近代の戦争は地上戦ではなく、航空優勢を確保できた者が勝つという構図になっているからです」

 軍事関連費が戦後最大に

 こうした動きとは別に注目を集めたのが、冒頭に挙げた日本学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」である。通常の委員会を受けて、2017年2月4日には公開シンポジウムも開催され、同会議の会員以外も含め300人以上が参加し、議論を重ね、3月24日には声明が発表された。

「声明案を4月7日の総会にかけるべきとの意見もありましたが、前倒しで幹事会の場で声明が決定しました。総会決定の重みが薄れたとの指摘もありましたが、大西会長ら軍学共同の推進論者が委員にいる中で、1950年の『戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない』、67年の『軍事目的のための科学研究を行わない』の二つの声明を継承する、との方針を、具体例を提示しつつ何とか打ち出しました。しかし、防衛装備庁が始めた助成金制度への応募禁止には言明できなかったことへの懸念もささやかれています。

 大学への研究費を削るいっぽうで、この制度については、初年度から毎回研究費の金額がアップし、平成29年度は、28年度の6億円から110億円と18倍になりました。応募数は27年度の109から28年度は44と激減しましたが、29年度はどうなるのか、心配です。

 大学における軍民両用のデュアルユース品の研究・開発に拍車をかけるのは“国策”という言葉かもしれません。しかし、国策として原子力発電事業に舵を切った東芝は、皆さんご存知の通り、大きな危機に瀕しています」

 増額しているのはこの研究費だけではない。2016年12月22日に閣議決定した予算案では、日本の防衛関係費は5年連続で増額、5兆1251億円と戦後最大となった。

「今年の4月24日に、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が、『2016年世界の軍事費』を公表しました。

  1位はアメリカで年間6110億ドル(約67兆円)、意外に思う人もいるかもしれませんが、日本は461億ドルで前年と同じ8位に入っています。先日、国産初の潜水艦が話題になった中国の軍事費は、あくまでSIPRI の見積もりになりますが2150億ドルで第2位です。

 私は、日本は防衛費を増加して抑止力とするのではなく、したたかに外交戦略、対話戦略を続けるしかないと思います。こんなことを言うと、理想を語ってどうすると反論する人がいます。しかし、対中国で考えると、軍事費にこれだけの差があり、戦闘機の数も圧倒的に少なくては、対抗できるはずがありません。だからといって中国と同等の軍事費を捻出することも不可能です」

 “いつか来た道”を歩んではいけない

  それでも、北朝鮮の脅威から、防衛費増額に賛成する人が増えつつある。また、今後、トランプ大統領からアメリカ基地への思いやり予算(「在日米軍駐留経費負担」)の増額要求があるかもしれない。アメリカが守ってくれることに期待する国民はこれにも反対しないかもしれない。

「国民の空気が、軍事拡大が必要である、という方向に変わっていくことが怖いですね。それは、日本が“いつか来た道”を歩み始めるということにほかなりません。

 これまでは、武器輸出で自国製の武器を売り、それが使われたとき日本は、間接的に戦争しているのと同じことになる。そうなれば武器関連の企業に限らず、研究開発している企業、大学や研究機関もテロの標的になる危険性が数段アップすることにつながると警告してきました。しかし、いまや、間接的ではなく、直接戦闘に加わる危機がすぐそこまで来ているのかもしれません。

 取材をしてきた関係者の中には、あくまで個人的な意見、あるいは名前を出しては困るとの前置きをして、本音を語ってくれる人たちがいます。その多くが、戦争をしたいなどとは考えていません。いったい戦争をしたがっているのは誰なのでしょうか?

 先の戦争に向かわせたのは、政府や軍人だけではありません。何かに誘導されて国民自身が戦争を後押しする。

そんな時代が繰り返されないことを、切に願っています」

 

望月衣塑子  東京新聞社会部記者

   1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞に入社。社会部記者として千葉、埼玉など各県警、東京地検特捜部、東京地方裁判所、東京高等裁判所などを担当。出産後、経済部に復帰。現在は社会部に戻り、武器輸出、軍学共同などを主に取材。主な著書は『武器輸出と日本企業』(2016年、角川新書)、共著は『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(16年、あけび書房)。(2017.5)


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