「東京新聞」社説 2025年4月10日
トランプ米政権が約60カ国・地域を対象に「相互関税」を引き上げた。24%が課せられた日本は引き下げを求め、赤沢亮正経済再生相がベセント財務長官ら米国側との閣僚協議に臨む。
協議の出発点は米政権の理不尽な関税引き上げだ。日本政府は不当な要求に屈してはならない。
トランプ政権は相互関税の税率算定の根拠に「非関税障壁」を挙げているが、実際には貿易赤字額を基に大ざっぱに計算されたとみられている。米側の目的は不公正な貿易ルールの是正でなく、貿易赤字額の削減にあることは明白だ。乱暴な手法には抗議する。
米通商代表部(USTR)のグリア代表は日本に自動車や農産物の「市場開放」を求める考えを表明したが、日本の関税の平均実行税率は2023年時点で3・9%と欧州連合(EU)などより低く、当時の米国の3・3%と同程度だ。米国側が「非関税障壁」と指摘する項目も、多くは国際的な枠組みに沿ったものだ。
1期目に中国に認めさせたように、一定額以上の米国産品の輸入を迫る可能性もあるが、理不尽な要求を受け入れてはならない。
トランプ大統領は日本との関税交渉開始が決まるやいなや、反対していた日本製鉄によるUSスチールの買収計画について再審査を指示した。買収問題を関税交渉で日本から譲歩を引き出す材料にする可能性もあり警戒が必要だ。
日本は関税を巡り米国と交渉する最初の国になりそうだが、米国にとっては事を荒立てない「御しやすい国」と足元を見られた可能性がある。しかし、日本が安易に譲歩すれば交渉を控えたほかの国々にはあしき前例となり、米国の理不尽な要求が際限なく続くことになりかねない。
交渉を担う赤沢氏は石破茂首相の最側近とはいえ、外交経験に乏しい。米国相手に一対一の交渉は難しく、日本は独仏などと連携して対応に当たるべきだ。
2期目のトランプ政権で政治リスクが極めて高くなった米国への依存度を引き下げることも、中長期的には考えなければなるまい。
待ちきれない春。