無党派層5000万人が「そろそろ狩るか…」自民下野に動く日
Mag2 2024.05.02
by 『きっこのメルマガ』
立憲民主党の候補が、3選挙区すべてで“ゼロ打ち”当選した先月28日の衆院補欠選挙。自民党が「完敗」したのは事実だが、立民が「完勝」したと捉えるのは間違っていると釘を刺すのは、『きっこのメルマガ』著者で人気ブロガーのきっこ氏だ。今回の投票率はいずれも過去最低を更新、約5000万人の無党派層が動いておらず、これでは政権交代などおぼつかないというのがその理由。きっこ氏は、立憲民主党が野党共闘で「時限的消費税減税」を掲げないかぎり、政治的無関心層を動かして政権交代を実現するのは難しいと予測する。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:補選から解散総選挙へ
自民党「全敗」は当然の結果、衆院補選
4月28日(日)に投開票が行なわれた衆院補選は、島根1区は亀井亜紀子氏が当選、長崎3区は山田勝彦氏が当選、東京15区は酒井菜摘氏が当選と、3選挙区すべてで立憲民主党が勝利しました。それも、開票が始まった20時ちょうどに3人揃って当確が出るという、いわゆる「ゼロ打ち」でした。
この結果を受けて、新聞各紙は「自民全敗」と報じましたが、自民党支持者の中には「自民党は3選挙区のうち1カ所しか候補を擁立しなかったのに『全敗』と報じるのはおかしい」と言っている人もいます。
しかし、この3選挙区は、もともと自民党の議席だったのです。つまり、自民党は3選挙区に候補を擁立して全勝して、ようやくトントンだったのです。
それが、保守王国である島根1区で惨敗しただけでなく、長崎3区と東京15区には候補を擁立することすらできなかったのです。これは、政権与党として「敵前逃亡」と同じくらい恥ずかしいことであり、自民党は選挙の前からすでに負けていたのです。
そして、この結果は多くの人たちが予想していたことであり、何なら自民党内部にも「全敗」を覚悟していた人が数多くいました。
だが立憲民主党の「完全勝利」ではない。選挙結果分析
それでは、まずは3選挙区のすべての候補の得票数と得票率を見てみましょう。
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得票数と得票率だけ見れば、3選挙区ともに立憲民主党の圧勝と言えます。また東京15区に関して言えば、日本共産党が阿吽の呼吸で候補擁立を見送ったことが、この結果につながったと思います。
そして、れいわ新選組の山本太郎代表が応援に駆けつけた無所属の須藤元気氏も、立派に善戦したと思います。
その一方で、前原誠司氏率いる教育無償化を実現する会が推薦した日本維新の会の金澤結衣氏、日本保守党の飯山陽氏、都民ファーストの会と国民民主党が推薦した自称無所属の乙武洋匡氏などの「ネオ保守」たちは、自民党の受け皿になり切れず、逆に自民票を奪い合う形で自滅したように見えます。
個人的には、鳴り物入りで出馬した乙武洋匡氏が、小池百合子都知事や国民民主党の玉木雄一郎代表などの応援を受けながら、5位に惨敗したことが意外でした。
一時は自民党も乙武氏を推薦しようとしていたので、この点だけは推薦を見送った自民党の判断が正しかったようです。もしも自民党が乙武氏を推薦していたら、自民党のダメージはさらに拡大していたでしょう。
選挙結果からきこえる、無党派層の声なきメッセージ
今回の結果から読み取れることは「有権者は決して保守系の政治を望んでいるわけではない」ということです。
確かに「ネオ保守」の候補らも一定数の得票は得ていますが、現実的には「イデオロギーより生活」「防衛より社会保障」「軍拡より子育て」と思っている国民のほうが多数だったのです。
しかし、それなら今回は立憲民主党の完全勝利なのかと言えば、そうとは言えません。
今回の投票率を見ると、島根1区だけは54.62%と何とか過半数を守りましたが、それでも3年前より6ポイントも減らして過去最低。東京15区は40.70%と3年前より13ポイントも減らし、長崎3区に至っては35.45%と3年前より16ポイントも減らし、いずれも過去最低を更新しました。
かつて日本の無党派層は約30%でした。しかし、第2次安倍政権以降、安倍晋三元首相による「モリカケ桜」などの数々の疑惑が原因で国民の間に政治不信が広がり、無党派層が急増したのです。
2023年7月の最新データでは、ついに無党派層が約50%に達しました。この数字と今回の投票率を照らし合わせると「無党派層の大半が投票に行かなかった」という現実が見えてくるのです。
立憲民主党の政策や主張が評価され、有権者から期待され、ふだんは投票に行かない無党派層の何割かが投票所へ足を運び、その結果、前回より投票率が増加し、そのぶん立憲民主党の候補の得票数も増加し、それで当選したというのなら「完全勝利」と言えます。
しかし実際には、3選挙区ともに前回より投票率を下げた中での当選です。
SNSなどでは「立憲民主党が勝ったというより相手が自滅したという感じ」という声も多いです。
投開票日の翌日、4月29日(月)のTBSラジオ『生島ヒロシのおはよう一直線』に電話出演した森永卓郎さんも、次のように述べていました。
森永卓郎さん:立憲民主の政策が評価されたというよりは、自民党に政治とカネの問題でとてつもない逆風が吹いていたことが、今回の結果をもたらしたと思います。直す直すと言っていても、政治資金規正法の自民党案を見れば、直す気などまったくないことが世間には分かってしまっているので、自民党に投票できるような政治環境じゃなかったんです。
生島ヒロシさん:こうなって来ると、立民も今後はしっかりと共闘戦略とか考えて行くんじゃないですかね?
森永卓郎さん:今回は明確な選挙協力はなかったですが、東京15区では共産党が候補を立てないという少し距離をおいた選挙協力をしたことが功を奏したと思います。やっぱり野党はこれからまとまって行く方向になると思います。ただ、立憲は前回の総選挙で消費税の引き下げを掲げたんですけど、今はその看板を下ろしちゃってるので、そこをどうするかがこれから大きな問題になって来ると思います。
あたしも森永卓郎さんと同じことを考えていました。
一部の商品だけが少しずつ値上げされているような状況であれば、岸田首相が描いているファンタジー小説のように、労働者の賃上げが物価高騰に追いつくかもしれません。
しかし、現在のように何千品目もの食料品や日用品が一斉に値上がりし続けている上に、ガソリンなどの燃料も値上げが止まらない状況では、「給付金」や「減税」などの即効性のある政策でしか国民を救えません。
この流れで岸田首相が会期末に解散総選挙を強行した場合、最も有権者に訴えかける力のある政策は「減税」です。
与党の自民党も野党の「ネオ保守」の政党も右へならえで五十歩百歩の政策を掲げる中、野党第1党である立憲民主党が大躍進するためには、国民目線の減税政策で野党共闘を実現するしか方法はありません。
日本共産党や社民党やれいわ新選組と足並みを揃えて「時限的消費税減税」を掲げ、国民が「暮らしが良くなった」と実感できる政治を目指せば、ふだんは投票に行かない約5000万人の無党派層の何割かは重い腰を上げると思います。
岸田政権下で行なわれた前回2021年の衆院選では、自民党の比例票は約2000万票、立憲民主党の比例票は約1150万票でした。
つまり、投票に行かない約5000万人の無党派層の2割弱が「投票に行こう」と思うような政策である「時限的消費税減税」を掲げれば、立憲民主党は比例で自民党を上回れる可能性があるのです。
しかし、どんなに素晴らしい政策でも、実現能力が伴わなければ「絵に描いた餅」であり、有権者、特に無党派層からは見向きもされません。
そのために不可欠なのが、政権交代を視野に入れた野党共闘なのです。
保身に走った岸田首相が自滅の道を歩み始め、日本維新の会が大阪万博の強行で一時の勢いを完全に失い、似たような「ネオ保守」の政党や政治団体が乱立して自民党から離れた票を奪い合っている今こそ、国民目線の政策を掲げたリベラル勢力が大躍進できるチャンスだと思います。
立憲民主党、政権交代を望んでいるのか疑わしい「野党共闘」への対応です。
しっかりと国民目線でやってほしいものです。
園のようす。
散りゆく桜を眺め至福の一服。
チューリップ・ボケが咲きました。