旅芸い者放浪記

前沢政次 ブログ

夕張への共感(後)

2012-06-04 23:06:22 | 地域協働
 このような地域に対する責任を担うとき必要なことは何であろうか。地域医療の原則論について考えてみたい。
①地域医療の主人公は地域住民である。
 主人公が医者になったとき、すでに医療の崩壊が始まっている。医者は謙虚に住民の思いを注視し、彼らの言葉から医療観、健康観を想像し、必要があれば静かにゆがみを和らげる。住民の持つ治癒力、生命力を少しでも引き出す。つまりは患者の背景や生活を垣間見ながら丁寧に診療をしていくことである。
②住民との接点を多くして、住民の保健ニースを把握していく。
 それにはあらゆる機会をとらえて住民と懇談していくことである。また、保健統計や保健師など専門職の意見もよく聴くことが必要である。住民から直接要望を聴くだけでなく、客観的な視点を通してニーズの把握ができてないといけない。
 村上氏はこれらの理論は知っているはずであるが、どれだけ実践できたのかに疑問が残る。かつて事務長を務めた佐藤友貴氏はある研究会で会ったときに、その地道な努力を怠っている所長に困り果てたともらしていた。
③行政ととことん協働する。
 指定管理事業者であってもそうでなくとも、自治体立の医療施設で働く場合は方針に関して行政当局との十分な話し合いが必要である。特に施設の開設者である首長と管理者である院長・所長が二人三脚で進まなければ、住民から信頼される医療は成り立たない。
 村上氏は話し合いの苦手な人のように思われる。医療に関する自分の考えを全面的に支持してくれる人とはうまくいく、つまり自分の考えを押し通すことができるが、方針のズレがあった場合は交渉し、妥協点を見つけることは不得手のようである。その象徴的な出来事が旧瀬棚町が3町合併によって町長が交代したことである。平田泰男町長から高橋貞光町長への交代劇に柔軟に対応することができなかった。
 夕張に移ってからも十分な話し合いがなされたのかどうか不明であるが、村上氏から前市長であった藤倉肇氏あてに公開質問状が出されるなど、常に不協和音が聞かれていた。この5年で市長が3人とめまぐるしく変わるのも不幸であった。また、夕張再生のビジョン、特に産業をどうするのかの見えてこないことに、地域づくりを志向する医者としていらだちを覚えることもいたしかたない。しかし、行政と話し合っていく忍耐は医師の側に必要である。
 最後にマスコミにもお願いしたい。地域医療の主人公は住民である。医師を英雄視して報道することは慎んでもらいたい。そして、村上氏を攻撃することも控えてほしい。彼にもう一度地域医療とは何であって、何でないかを考える機会を与えてほしい。
 絶対に正しい地域医療はない。医療を利用する人の思いもさまざまである。地域医療は住民と行政と保健医療福祉担当者が少しずつ知恵を出し合って作り上げていくものである。その歩みはマスコミが取り上げられないくらいゆるやかである。試行錯誤の繰り返しである。人の目に見えない事柄も多い。地域が医療を育てることも間違いない事実である。
 今、地域と協働する医療を志して地道に取り組んでいる若き医師たちがわずかながら増えてきている。彼らの基本にあるものは住民への信頼とユーモア、そして楽天主義である。
 夕張市もそういう医師たちと出会い、医療を組み立てなおしていかれることを日々祈っている。