・吾作を運ぶとき猛がひかるに「ひかるさん 川から水汲んできてください」と言ってるような。
いつもの「お嬢さま」でもなく子供の頃のような「ひかるちゃん」でもない呼び方にちょっとドキっとしました。
途中から「ひかるさん」呼びになる第三部を彷彿としたりもします。
・発動機にガソリンが入ってたことについて責められる猛をかばう吾作と、班長なんだから自分の責任と押し返す猛。
二人の男気が光る場面。話を聞いているひかるの表情も「私のせい・・・」的な反省が滲み出ていて上手い。
しかし本当にひかるの我が儘は猛の対外的評価を貶めてるなあ。猛が巧みに申し開き(言い訳)できる性質の男じゃないだけになおさら。
・今の日本には本物の男が少なくなった、誰も自分のことばかり、おまえには本物の男になってほしい、と語る伝衛門。その低く落ち着いた声と風貌は、まさに彼が本物の男であることを納得させる。
でもこういう立派な人ほど報われないというか、一人息子はああだし後(第三部)には大河原のいいなりにならざるを得ないし・・・。
・絹は猛とひかるの仲を牽制する一方、友春にひかるの勉強を見てもらうとか、ひかるに彼を案内させるとか、二人をくっつけたがってるかのような言動。
使用人との仲は論外にしても、未婚の娘が男と二人きりになるのも(当時の社会としては)問題あるような気もする。
ちなみに旧作では友春はもっと出番が多くて、絹に悪辣なまでの巧みさで取り入るところも書かれてたのですが、今回は少年編が一週分少なくなったのでそのあたりは割愛された模様。
・友春は番小屋にやってきて猛にラブレターの仲立ちを頼む。このとき猛は終始友春に小馬鹿にしたような視線を向けている。
以前ひかるにラブレターを渡す現場を見てることもあり、このお坊ちゃんのことが気にくわないんでしょう。
ひかるとの将来について友春が語るときには、何か言いたげに唇を動かすが結局何も言わない。言いたくても何も言えない。ひかるとの将来など夢見ようもないのだから。
友春が出て行ったあと、柱を叩く仕草が切ないです。
・友春の手紙を届けにきた猛にひかるは(当然)怒る。
猛が落ち着いてるのがひかるには余計腹立たしいのでしょうが、視聴者には猛が懸命に己の心を押し殺してるのがわかっているので、傷心のうえにさらにひかるに責められる猛が気の毒になる。
とくにラブレターを代わりに音読しろとは拷問同然。「大きな声で読むのよ」と追いうちをかけるし・・・。
まあひかるが怒るのは猛の想いを知らないからこそ、そして彼を好きだからこそなのだし、ひかるだって猛の態度に傷ついてるわけですが。猛の方はひかるの怒りの理由―自分への愛情―をどの程度理解しているのでしょうね?
・友春の手紙を読む絹と女中のおたき。あの手紙回収しなかったのか!?
猛が手元に持っとくのも変ではありますが、あんな皆が通るところに放置するのは・・・。
・『或る女』の舞台公演ちらしを見ながら、崇子先生の語る自由恋愛に思いをはせるひかる。
しかし当の崇子先生はその自由恋愛を相手の裏切りで失ったあげく、経歴に傷がついた、いわば「落ちぶれた」人なわけで。ひかるに自由な恋を説くにあたって内心何を思っていたのだろう?
若く無邪気なひかるを純粋に(自分の二の舞にはならないように)応援したかったのか、嫉妬してたのか。その後の超展開を思えば後者のような・・・。
・「(この家には)妖怪は出なくても狼が出るかもしれません」と絹が言った直後に猛が入ってくる。
絹がちらりと猛に向ける視線からしても「狼」ははっきり猛を指しているわけですね。
・温泉宿で窓を閉めようとした絹は、向こう側の部屋で文彦が芸者と乳繰り合うのを目撃してしまう。
文彦は両親が法事でこの近辺に来ることを知らなかったのか?もっと関係ない場所に泊まればよいものを。少なくとも外から丸見えってのは無防備すぎる。
文彦がアレじゃないと物語が成り立たないですけどね。
・伝衛門が文彦を殴るのを止めに入った番頭さん?は、文彦が息子と聞いて「他のお客さまには・・・(迷惑をかけないように)」と言い置いて出て行く。
客が暴力を振るわれているのを放置したのは、家庭の事情に深入りすると面倒だったのが第一でしょうが、状況を見て「このアホボンじゃ親が殴るの当然」と思った部分もあったんじゃ。
・伝衛門に勘当を言い渡された文彦が父を見上げる。目のうるみ方といい表情といい・・・藤間くんいい役者さんです。
・旦那様がいないから息抜きに盆踊りにでも行って女をからかおうと猛を誘う吾作。
腕を怪我しているのにのんきな(笑)。若い者は女がらみだと元気になりますね。
堅物で旦那に心酔してる猛のことだから吾作をたしなめるかと思いきや、「女はいいけど、盆踊りは悪くねーなー」と意外に乗り気。
女遊びには興味はないということで、文彦と比べたら罪のないハメの外し方ですが、語尾の「ねーなー」という口調に昔の野生児の面影がよぎってちょっとドキッとしました。
・猛と吾作が二人盆踊りの身振りをしているところへお花がとびこんでくる。うわあ、これは見られたくない瞬間かも。
・ひかるが出てったきりだと告げるお花。伝衛門たちが出かける時に女性陣は「お嬢様は必ず守る」などと力強く宣言していたというのに。
お花の話を聞いた猛の「ええ?」という反応も「何やってんだよー!」と言いたげです。
・お花の話を受けて「俺はお嬢様を捜してくる」と吾作に言う猛は、ついさっき踊ってたときとはうって変わったきりっとした表情。
ひかるにさんざん振り回されている猛ですが、彼が一番格好良くなれるのもひかるがらみなんですよね。
・次のシーンでもうひかるに追いついている猛。うわ急展開。
第14回での刑事たちの発言からすると、ここで追いついたのではなく一緒に街中を腕組んで歩いたりもしたらしい。
舞台も一緒に見たんだろうか。そのへんもちゃんと見せてほしかったなあ。
・芝居について嬉々として語るひかるに猛は「芝居と現実では違います」と素っ気無い一言。
ひかるは「なんでそんなつまらないことを言うの」と言いますが、ひかるに恋してもかなわない現実を猛は思い知っていればこその発言ですね。
しかしその後に「意気地なしね」と続けてるのはそうした猛の煩悶を察したうえで「殻をぶち破る」よう唆してるようでもあります。
・猛にクッキーを「食べさせてあげる」と言うひかる。動かない猛に焦れて我が儘言ってるのはわかりますが、これでは犬に餌付けするみたい。
「以前のおまえの目はもっと獣のように光っていた」「相手がお父さまであっても首輪をつけさせまいと挑む目だったわ」と語ったあとだけに、現在の猛を飼いならされた犬のようだと揶揄してるように聞こえてしまうのですが。
(つづく)