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俳優・勝地涼くんのこと。

『カリギュラ』人物考(2)-3

2009-04-03 02:24:24 | カリギュラ
横田栄司さんのエリコン

 

『カリギュラ』のキャストがまだ小栗くん、勝地くんしか発表されてなかった(役名もわからなかった)頃、原作を読んだ方がブログで「勝地くんはシピオンかエリコンのどちらかだろう」と書いていたのを目にしたことがありました。
横田さんのエリコンを見たあとだとイメージしにくいですが、確かに30歳という年齢設定を気にせずに(この設定も古いバージョンにあったもので、カミュが戯曲に手を入れたさいに削られたので絶対的ではない)、「大勢に反して暴走する皇帝に最後まで尽くした腹心」というキャラクターとして捉えれば、勝地くんが演じておかしくないかもしれない。もっと生真面目な性格のエリコンになっていたでしょうが。

以前イギリスで『カリギュラ』が上演されたさいには、エリコンはもっと道化た、ゆえに敵も含め皆に愛される笑いに満ちたキャラクターとして演出されていたという(※1)
そう言われてみればエリコンの露悪的な皮肉っぽさと時々妙に饒舌な自分語りを始めるところは、確かに道化めいているかもしれない。
しかし横田さんのエリコンはその露悪的な皮肉な態度を滑稽に見せるのでなく、世知に長けた野性的な大人の男として見せていた。下品な台詞もいやらしさも不快ではなく、匂うような男の色気を漂わせている。

これは声による部分も大きかったかもしれない。横田エリコンの声がいいとの前評判は聞いていたので、最初もっと太い朗々とした声を想像していたのですが、実際に舞台を(テレビで)見てみると、よく通り、聞き取りやすいものの、思ったよりも高めのずっとソフトな響きの声でした。
貴族たちに対するときは笑いを含み少し節をつけたような台詞まわしが、真剣な顔を覗かせるときには静かで穏やかな、深みのある声音に変わる。
とくに第一幕第四場で三日の放浪から立ち戻ったカリギュラに対するときの「こんにちは、カイユス。」に始まる会話中の口調は本当に優しくて、彼がこの青年をいかに愛し労わっているかが伝わってきます。

魅力的な男性が揃った舞台でしたが、「青年」ではない「大人の男」だったのは彼一人(ケレアも「男」と表現するにはまだ少し青い感じ。「青年」という表現のほうがしっくりきます)。戯曲の描写を越えた魅力を十二分に放っていました。
公演のポスターになぜ横田エリコンが入ってなかったのかが今さらながらに不思議です。

 

※1-東浦弘樹「カミュの『カリギュラ』の演出をめぐって―アントニオ・ディアズ・フロリアンと蜷川幸雄―」(『人文論究』第五十八巻第一号、関西学院大学人文学会、2008年5月)。「カミュのテキストでは、エリコンは、貴族を軽蔑し、カリギュラに従うシニカルな人物とされているが、ディアズ・フロリアンは大胆な改変を行い、この人物を女々しくて滑稽な道化的人物に仕立て上げた。鼻を赤く塗ったこのエリコンは、カリギュラからも、貴族たちからも、馬鹿にされながら愛される人物であり、始終他の登場人物の前に跪いては、子犬かなにかのように頭を撫でられており、皇帝の使い走りをするのが嬉しくて仕方がない様子だった。」

 

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