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俳優・勝地涼くんのこと。

『機動戦士ガンダム00』(1)ー30(注・ネタバレしてます)

2025-07-29 20:05:24 | ガンダム00

リボンズがヴェーダを深奥部であるレベル7まで掌握してイオリアの冷凍睡眠体が現れた時、アレハンドロは「やはりいたか、イオリア・シュヘンベルグ。世界の変革見たさに蘇る保証もないコールドスリープで眠りにつくとは」と口にする。
「やはりいたか」という台詞が示すように、数十年単位の遠大な計画の立案者が存命中にはまず出ないはずの結果をそれでも何とか自分の目で確かめたいと願うこと、そのために目覚めないかもしれない危険を冒しても冷凍睡眠という手段を取ることは感情的に見て自然であり、だからこそアレハンドロも予測しえた。
しかしヴェーダの完全掌握・冷凍睡眠体への攻撃を機に発動するようなトラップを仕掛けていたイオリアが、自身(それも抵抗できない状態の)を敵の目の前にさらすような真似をするだろうか。裏切りも想定していた以上、ここで現れたイオリアの冷凍睡眠体も敵の攻撃を誘うための罠の一環、身代わりであったと見るべきだろう。
ただそうなると本物のイオリアはどこかで密かに眠り続けていることになる。しかしセカンドシーズンラストでアロウズが解体され真の統一―多様な価値観を持つ諸国の平和共存へと世界が舵を切り待望の純粋種のイノベイターが誕生した後も、劇場版でELSとの対話がなされた後もイオリアは登場しない。
「世界の変革見たさ」で冷凍睡眠についたのなら、計画の最終段階と言われる「来たるべき対話」も実現した以上は目覚めるべき時を迎えているだろうに。200年前も人との付き合いを嫌って離島に引っ込んでいたような人物だから、騒がれたくなくて表舞台に登場しないだけで、物語に出てこずともどこかでひっそりと生きていたりするのか?

個人的には“どこかで眠っている本物のイオリア”などはいないと考えている。彼は自らが変革後の世界に蘇ることより、永遠と言っていい寿命を持つ忠実な腹心に変革の過程を見守りかつコントロールさせることを選んだのではないか。
SFでは極限まで進化したコンピューターが人類を逆に支配するというストーリーがしばしば描かれるが、感情というものを持たない(持たせていない)、理解しないヴェーダにその心配はない。感情がなければ支配欲も人類を軽侮する気持ちも生まれないからだ。
感情を持たないために人間の行動を予測できないという欠陥は生じるものの、感情を持ち身体的にも人間に近い生体端末・イノベイドが人間とヴェーダの橋渡しをすることでそれを補う。今度はそのイノベイドの中から人類を見下し「これはイオリア・シュヘンベルグの計画ではなく、僕の計画になっていたのさ」などと嘯く輩が出現する可能性が出てはくるが、唯一無二のヴェーダと違いイノベイドは取り替えが利く。計画を歪めるイノベイドは「処分」すればよいし、それはヴェーダなら容易いことだろう。
実際リボンズがヴェーダを完全掌握したはずがかえってオリジナルのGNドライヴにトランザムシステムを目覚めさせてしまい、マイスターについてのデータも完全消去されてしまった(正確には閲覧不可能になっただけで消去はされていないと思うが)。
いかに賢しらぶってみても、結局イノベイドがヴェーダを支配することなどできないのだ。一見ハッキングに成功したと見えても真髄まで外からコントロールされることのない、最も安定して信頼できるシステムにイオリアは自分の代行を託したのだと思う。

・・・最終的にティエリアは記憶も人格も保ったままヴェーダの一部となったが、ひょっとしてイオリアも自身の意識をそのままヴェーダに移設したりしているのだろうか?
ティエリアの場合、もともとヴェーダの生体端末として生み出されたイノベイドだったから意識のデータ保存が可能だったが(サーシェスに銃殺されたはずなのにティエリアと結託してリボンズの隙をついて彼からヴェーダのアクセス権を奪ったリジェネも、肉体を失ったことでヴェーダの一部となったのだろう)、イオリアの意識を同様の方法でヴェーダに移行できるものなのか。
イノベイドは電子回路の脳を持つロボットというわけではなく、イオリア計画に参与した科学者たちの遺伝子から造られたクローン体を特殊ナノマシンによって強化したもののようなので、ナノマシンによって脳内をデータ化することができるのならイオリアもナノマシン入りの薬を飲み続ければイノベイド化=意識のデータ化が可能だっただろうか。
個人的にはこれは難しいと考えている。ナノマシン入りの製剤を投与することで人工的に人間をイノベイターに進化させる方法はリボンズがルイスに対し試しているが、確かに彼女は当時脳量子波が使えるようになったし劇場版時点ではイノベイター予備軍としての兆候を示しているものの、小説版によれば「真のイノベイター覚醒者である刹那・F・セイエイほどの能力を持ちえず」「強制的な改造によってダメージを負った」とある。
おそらく胎児、受精卵の段階からナノマシンを投与され続けたイノベイドと違い、人間として体が出来上がってから後天的にナノマシンを投与された人間の場合、すでに完成しているシステムを強引に書き換えるようなもので障害が発生しやすいのだろう。まして十代だったルイスはまだしも、すでに中年を過ぎていたイオリアがルイスよりも200年前の段階で自身のイノベイド化―意識のデータ化に成功したとは考えにくい。
Wikipediaの『ガンダム00』の記事によると、“イノベイドの細胞はヒトの遺伝子から合成された疑似細胞で自力で新陳代謝が行えないため細胞を完全に再構成するナノマシンを組み込まれている”とのことなので、疑似GNドライヴのビーム兵器の毒性によって細胞障害を負いナノマシン入りの錠剤を服用することで細胞分裂を行っているルイスは身体的条件がイノベイドに近く、それも彼女が人造イノベイターの実験体として選ばれた一因だったのかもしれない。

やはりイオリアという個人は200年前に寿命によりこの世から消滅しており、彼の意志を完璧に引き継いだヴェーダがイオリア計画を遂行していると見るのが妥当なのではないか。
中年以降の多くの人間がそうであるように天才イオリアと言えど自身の若い頃の常識に縛られて新しい思想・価値観に付いていけない部分は出てくるだろう。それなら常に最新の知識をアップデートし続けられるヴェーダの方が自分自身よりも計画を推進するに適している、そう判断したのかもしれない。
ちなみにイノベイドとは別口で「グリア細胞を強化され、脳量子波を使う」強化人間の製造を目指した超人機関の場合、「脳をいじくり回された」というハレルヤの言からするとナノマシン投与でなく(ないしは平行して)外科的手段を用いたようである(小説版では「体中を機械で改造され、脳にメスを入れられ、投薬を施され、極限状態での耐性テストを何度も繰り返されて造り上げられる」とある)。
これも被検体が子供とはいえある程度体も自我も出来ていたため、ナノマシンによる肉体改造だけでは上手くいかなかったからだと想像できる。まあ外科的に?「脳をいじくり回」しても成功例と呼べるのはピーリス一人だったわけだが・・・。

ならばなぜヴェーダはアレハンドロとリボンズの命じるまま、プトレマイオスのガンダム4機へのバックアップを切ってしまったのだろうか。国連軍との戦いの渦中という絶体絶命になりうるタイミングであり、その後もセカンドシーズン終盤でティエリアがヴェーダ奪還に成功するまでプトレマイオスクルーに基本的には力を貸すことはなかった。
(「基本的に」というのは、小説版によればセカンドシーズン開始の時点で「ヴェーダの一部機能が使える端末もまだ生きており、鍵を開けるような簡単なことはこの端末がやってくれる」といったアドバンテージは健在だからである)
その理由はヴェーダ奪還後にイノベイドと交戦したロックオンとハレルヤの台詞に示されている。「システムの助けがなきゃ、イノベイターもその程度かよ!」「ヴェーダに依存しっぱなしで、オレたちに勝てるわけねえだろ!」。
ヴェーダは至って優秀で便利なシステムだが、それゆえにヴェーダの方に人間を支配するつもりがなくても、人間の方からヴェーダへの依存状態に陥る危険がある。ガンダム4機の戦闘もフォーリンエンジェルス作戦まではヴェーダのバックアップのもと行われていたわけで、独立したシステムに切り替えヴェーダのバックアップを切り離せばパイロットに負担がかかることをスメラギもクリスも案じていたくらいだ。
実際にはバックアップがなくなったからといって特にガンダムマイスターたちの戦闘力が削がれた形跡はなく、ヴェーダのバックアップなるものはさほど影響力はなかったようだが、イノベイドの場合はまた事情が異なるのだろう。
小説版曰くバックアップを失ったヒリング・ケアは「己の半身を失ったような感覚に苛まれていた」という。これは精神面でのショックだけではなく、脳量子波でヴェーダとリンクしているイノベイドにとっては身体的欠損を被ったに等しいということなのではないか。プトレマイオスのガンダムマイスターの中でもティエリアだけはヴェーダのバックアップが切断した際に呆然自失状態に陥り、ヴェーダとリンクしていた彼自身が障害となって独立システムへの即時切り替えにも失敗している。
だがティエリアは仲間との絆、とりわけロックオンへの愛着を軸にヴェーダ喪失の衝撃を乗り越えた。マイスターを初めとするプトレマイオスクルー、リンダのようなラボの人間も含めたソレスタルビーイングの構成員がヴェーダに依存することなく自身の力と意志で戦えるように、アレハンドロらの介入がなくともある程度の時点でヴェーダのバックアップ・手助けを断ち切るのはもともとイオリアが意図していたところだったのではないだろうか。
「アレハンドロ・コーナー」の項の最後でちょっと書いたように、この世界をどうすべきか最終的に決めるのは今を生きる人間であるべきだとの想いもあっただろう。トランザムシステム起動とともに送られてきたメッセージにあったように「ソレスタルビーイングのためではなく、君たちの意志で、ガンダムと共に」彼らが戦ってくれることがイオリアの望みだったのだと思う。

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