2月下旬から3月初めにかけて、「報道されない原子力の不都合な真実」と題された講演会が
九州各地を駆け巡りました。
それは、NPO法人『たんぽぽとりで』が企画したもので、玄海原子力発電所(佐賀県)で、
まもなく(順調にいけば今秋11月にも)行われようとしている日本初のプルサーマル計画とはどういうものなのか、その実態を九州に住んでいる人々に是非知ってほしいという思いが込められた講演会でした。
講師は長年原子力問題に携わってこられたお二人で、作家の広瀬隆さんと
元慶応大学教授の藤田裕幸さん。
私はお二人のお話は以前聴いたことがあったし、特に10年ほど前に聞いた広瀬さんの燃料電池のお話は、未来エネルギーへの希望の光を初めて感じることのできた、とても衝撃的なものでした。
そんなことも思い出しながら、なんとなくわくわくした気分で佐賀会場へ向かった私は、その2時間半後には、自分の無知と呑気さを思い知らされ、愕然として帰途に就いたのです。
まず初めに、藤田さんのお話で特に目から鱗だったのは、「原発は過剰設備である」ということ。
TV等のCMで私たちはいつも聞かされています。
「現在使ってる電気量の三分の一は原子力発電によるものです」と。
そういうふうに伝えられると、たいていの人が、「それじゃあやっぱり原発は必要よね~。我が家の電気量を三分の一減らせって言われたら困るもの。夏場の暑い時の冷房制限も辛いし…」と思ってしまいますよね。
ところがどっこい。現実は、原発がなくても電気量は賄えていた!のです。
例えば2005年の火力発電の発電能力(設備容量)は1億7577万kwもあるけれど、
その稼働率は半分以下の49,5%。(8700万kw)
水力発電は4736万kwの発電能力の20,8%しか稼働していない。(985万kw)
一方、原子力発電は4958万kwの発電能力の70,2%を使っている。(3480万kw)
つまり、この年の総発電量1億3165万kwというのは、火力発電を75%稼動するだけで
賄える量だったことになります。
原子力発電所が必要だと思わせるために、わざと火力発電や水力発電の稼働力を抑えていることが、客観的な数値からはっきりわかりました。
しかも、この割合は、九州電力の場合、さらに顕著です。
2007年度のデータによると、火力発電の稼働率は37,5%、水力発電の場合は15,1%、
そして原子力発電はなんと86,1%も稼働していたのです。
もう一つ、耳にタコができるほど聞かされていた言葉として、「原子力はクリーンエネルギー」というのがあり、電力会社に言わせれば、「CO2をたくさん発生する火力発電は、いくらその能力があってもそれに頼るわけにはいかない、それは地球温暖化を招き、環境破壊につながる」との大義名分に繋がってきたのですね。
このCO2の換算の仕方に関してもまやかしはたくさんあります。
原発の燃料のウランをウラン鉱山から掘り出し、発電後の核廃棄物の処分や保管(何百年にもわたって厳重に)にかかるCO2排出を考えれば、火力発電をも実ははるかに上まわるわけです。
が、仮にそれを抜きにしても、原発がもたらす放射能汚染という一点を考えただけで、どうしてクリーンだなどと言えるのか不思議でなりません。
しかもその汚染は、たいへん危険なもの! 今だけでなく、未来永劫にわたって続くのですから。
そして、その危険性は、ふつうの原発をはるかに超えてプルサーマルで発揮されるようです。
まず第一に、プルサーマルで使われるMOX燃料(プルトニウムとウランの混合酸化物燃料)が放出する放射能は、ふつうの原子炉で使われてきたウラン燃料と比較してγ線で20倍、
中性子線で1万倍、α線で15万倍という、とてつもない危険物だそうです。
さらに、これをプルサーマル燃焼させた場合、その発熱量も高いことから、使用後のMOX燃料は
「地下に埋められる温度に下がるまで約500年かかる」と、2004年7月「核燃料サイクル開発機構」が発表したそうです。
埋められないような熱いものを移動させるのもかなり困難でしょうし、できたとしてもどこが受け入れてくれるでしょう?
結論として、きわめて危険な使用済みMOX燃料は、引き取り先もなく、地下に埋めることもできず、玄海原発の敷地内の貯蔵プールで大事に大事に保管し続けなければならないということ・・・それが現実のようです。
六ヶ所村の再処理工場の例を見なくとも、そのようなプールがいずれ満杯になるのは子どもでも予測できることですが、その先のことを電力会社はどう考えているのでしょうか?
しかも、この地震列島で・・・。
では、なぜこのようなリスクを抱えてまでプルサーマルを強行しようとするのか?
その疑問に対する広瀬さんの説明はこうです。
それは、全国の原発から発生する使用済み核燃料=高レベル放射性廃棄物の最終処分場がないこと。全国の原子炉の運転を続けるためには、その廃棄物を六ケ所村で再処理して、それを再び燃料として利用しようと考えるしかなかったと。
もともと六ヶ所再処理工場で取り出されるプルトニウムは、高速増殖炉「もんじゅ」で使用するためのものだったのだけれど、その「もんじゅ」は19995年の事故で不能となり、六ヶ所再処理工場を実現するために生み出した口実がプルサーマル計画であったと。
その六ヶ所工場も、昨年11月からガラス固化不能状態に陥っており、高レベル放射性廃液がどんどん溜まっているらしいけれど…。
しかも、その六ヶ所再処理工場の運転に必要な再処理費とMOX燃料加工費の合計は、
12兆1900億円。同量の発電を通常のウラン燃料でやれば9000億円ですむという。
知れば知るほど、考えれば考えるほど、恐ろしくてバカバカしい! それがプルサーマル計画の全容でした。
でも、なぜ、こんなバカバカしい計画を実行しようとするのでしょう?
すべて白紙に戻せばいいではありませんか。
プルサーマルだの、増殖炉だの、無理なことはやーめた!と白旗あげて、そんなものに費やすお金と時間と知恵を、自然エネルギー開発のために使えばいいではありませんか。
住民はもちろん、すべての国民にとっても、日本列島にとっても、地球にとっても、誰にとっても、
電力会社自身にとっても、それが一番いいことのはず・・・なぜ、そうしないの?
それに対する答えは、広瀬さんも藤田さんも同じ。
その答えはただ一つ。核兵器用プルトニウムの確保のためだそうです。
それだけは、これまで信じられませんでした。
唯一の、二度にわたる被爆国が、そんなことを考えるわけがない・・・と思ってきました。
「非核三原則」を有するこの国が・・・。
しかし、藤田さんが用意された資料には、次のように書かれていました。
「わが国の外交政策大綱」(外交政策企画委員会、1968年~1969年)
第二部「安全保障に関する施策」第9項
「核兵器については、NPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともに、これに対する掣肘を受けないよう配慮する」
非核三原則なんて嘘っぱちじゃないですか!
「持ち込ませず」の原則が崩れていることは誰の目にも明明白白だけれど、「持たず」「作らず」は
生きてると信じてたのに・・・
作る意志がない無いならば、「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルを常に保持する必要」は
全くないし、そうではないから「当面」という言葉がついたのでしょう。
全く政治家も政府も、嘘つきの詐欺師集団ですね。
でも、詐欺師の皆さん方に、私は言いたい。
人間、いつでもやり直しはできますよ。
間違いに気づいたら、正せばいいのです。
放射能は半永久的に溜まり続けます。
一日でも、一時間でも、一分でも早く止めたら、それだけ地球の汚染が少なくなります。
詐欺師を選んでしまった私たち自身にも、私は言いたい。
プルサーマルって知ってますか?
知らなかったら、一緒に勉強しましょう。
知らないことは恥ずかしいことではないのですから。
知ろうとしないことが問題なのです。
一日でも、一時間でも、一分でも早く、地上からすべての原発が消えてなくなる日を夢見て・・・。