再び、日曜日の街頭チラシ配り。
今日は「水問題を考える市民の会」として、佐世保の水事情の実態を伝え、
石木ダムの必要性の無さを訴える内容のチラシでした。
2時間で用意したチラシ900枚すべて配布しました。
はじめの1時間は市議のYさんも手伝ってくださって、総勢7人でした。
今日は、通りかかった2人の男性の方と、石木ダムについての話ができました。
一人目の方は、「うーん、実は迷ってるんだよ。前はぜったいダムは要ると思ってたんだけどね」
と言われたものだから、ここぞとばかりにいろんな情報を伝えました。
漏水のこと、現在は本当は水が足りていること、
それでも心配なら、ダム以外の代替案があることなどなど。
「そうか・・それなら僕も要らないと思う。署名とかはやってないの?」
(こちらでは珍しい、標準語を話すおじいちゃんでした)
「近いうちに始める予定なんですが、今日はやっていないんですよ。
署名用紙ができたら、またこの辺でやりますけど、ここはよく通られますか?」
「うん、よく通るよ。そのときはまた声をかけてください。
それに、これは大事な話だが、僕はもう年なので、すぐに忘れてしまう。
また、説明を聞きたくなったら、あなたさんはいつもここにいるんですか?」
「いいえ、いつもいるわけではありません。
こちらに連絡先が書いてありますので、こちらに質問でもご意見でもいつでもどうぞ」
「いや、僕はあなたさんの説明を聞いたわけですから、
その説明で疑問がでてきたら、あなたさんが答えてくれなくちゃあ」
「たしかにそうですね」
私はバッグのところまで走り、中から名刺を取り出し、戻ってきておじいちゃんに渡しました。
彼は、「いやー、久しぶりに名刺をもらったなー」とにっこり。
「頑張ってください」の言葉を残して去って行かれました。
二人目の方、こちらは超頑固な推進派。
チラシを受け取り、数行目を走らせるやいなや、
さっと突き返し、「政権が変わったからいうて、のぼせあがんなよ!」の言葉。
「のぼせあがってなんかいません。政党活動でもなんでもありません。
私たちは普通の市民として、佐世保市の水道問題を前から考えてきましたし、
その中で石木ダムの必要性に疑問が出てきたから訴えているだけです」
「いま水道料金の値上げが検討されているのはご存じだと思いますが」と言いかけると、
「そがんことはわかっとる。ライフが火ばつけたけんね。
ばってん、しょんなかと。水は必要じゃけん。水が足らんっちゃけん」
「いえ、実はですね、現在では水はほとんど足りているんですよ。この表を見てください…」
と、チラシに書かれている表を示しながら、ここ数年の一日平均配水量は8万トン以下で、
佐世保市の水源からは一日に10万トンが配水可能で・・・というようなことを伝えると、
「飲み水がありゃいいていうもんじゃなかと。水が十分ないと、町は発展せんと。
あんたたちはそげんこともわからんで、よけいなことばして」
「でも、水をたくさん必要とする企業ばかりじゃありませんし、
福岡や松山のように水不足でも発展してる都市はあるんじゃないのですか?」
「よそのことはどうでんよか!とにかく佐世保は水がないから発展せんとじゃ!」
「おいはね、佐世保で生まれて佐世保でずっと暮らしよったから、よお知っとる。
小学校に行きよったころから何回も断水は経験しとると。
そんころからダムを造ろうとしとったとよ。
そいが、あんたたちのような馬鹿な連中が反対ばすっけん、いつまでたってもでけんで…
あんときすぐ造っとったら、工業団地がでけて、オイたちはそこの工場で働くことがでけたと」
「そうでしたか…」
(1972年ごろ、針尾工業団地なるものを造ろうとしていた話はきいていた。
そのための工場用水確保が当時の石木ダム建設の目的だったことも。
そして、その夢叶わず、いまそこがハウステンボスになっていることも。
その当時この男性は学校を卒業して、地元での就職を希望していたのだろう)
「ダムができんばっかりに大阪に行ってさ、その後も関西ば転々として、
だいぶ前に帰ってきたばって、まーだできとらんやなかね。
こんままやったら、若っかもんは働くとこののうて、
オイのごと、都会に出ていくばっかりたい」
「おっしゃることもわかります。では、もっと水を確保できれば、
それはダムにかぎらなくてもいいのでしょう?」
「なーんができるとね、ダム以外で」
「雨水利用とか再生水の活用とか方法はいろいろありますが、
海水淡水化と言って、海の水を真水に変える方法があるんですが…」と言いかけたら、
またもや制され、
「あー、そがんとは何も役に立たん!」
「オイは、よー知っとう。あの水で洗濯すると、シャツが黄色うなってどがんならん」
「えっ!?それはいつ頃のお話ですか?今の海水淡水化装置はとても性能がよくて…
私は福岡の海水淡水化施設に見学に行きましたが、
水道水と同じ無色透明で、水道水よりも無味無臭で…」
「あんたも福岡から来たとや?このごろ福岡のもんが長崎の問題にあれこれ口出して…」
「いえ、私は佐世保の者ですよ。それに福岡だけでなく、沖縄でも使われてますし、
海外では日本以上に深刻な水不足の国々がありますからね。中東やアフリカなど…」
またしても
「そんなことわかっとう!」と遮って、
「オイはそのナイジェリアで2年間働いとったと。工場の中にそがん装置があって、
その水ば使うとったと。もう20年以上前たい」
「そうですか…。
でも、科学技術は日進月歩ですから、当時よりは海水をろ過する技術も格段に上がって
今は安心して飲んだり洗濯できるきれいな水が作れるんですよ」
「いやー、あてにはならん。目に見えんバイキンやら、毒になるものが入っとるかもしれん。
あんたは海の水のことはよう知っとうとね?」
「いいえ」
「そうやろう?この辺の海は、もう汚れっしもうたよ。
海底には得体のしれんゴミがいっぱいよ。魚も捕れんごとなってきた」
「水俣病のことは知っとろうが。あっちは汚れた海の魚を食べてああなったんじゃが、
こっちも汚れた海の水を飲まされたら、どがんことになるのか。。」
「そがんことはぜったいイヤじゃ。やっぱり、水は天からのもらい水じゃ!それが一番じゃ」
「そうですね。それはいやですね。でも、ほんとにそんなに汚れてるんですか?
もし、そうなら、その汚れはどこからきてるんですか?
やはり、川から流されてきてるんじゃないんですか?
それこそ工場廃液とか…。ダムも川の途中に造るわけだし…。」
「ばっかだね。ダムは天からのもらい水ば溜めるっとやなかね。
川の水いうても上流の方やけん、工場なんかありゃせんよ」
(ごもっとも。私がバカでした)
「でも、だとしたら、私たち人間だけがきれいな水を飲んで、川は汚れたまま、
海の水も汚染されて、魚や海草がダメになってもいいんですか?
やっぱり川そのものをきれいにしたいですよね」
「欧米などでは、ダムは川の環境破壊に繋がるといって、もう造ろうとしてないし、
コンクリートの護岸を壊して、自然な川を取り戻そうとしているんですよ」
「よその国はよその国たい。日本にはダムは要ると!特に佐世保にはダムはいると!」
「でも、石木ダムは佐世保にできるわけじゃないですよね。お隣の川棚町に造るわけで…。
そこに住んでらっしゃる人たちは、ぜったいここに住み続けたいと言い続けておられるわけで…
その方たちの権利を奪うことが私たち佐世保市民にできるんでしょうか?」
「権利とか何とか難しかことはよか。とにかく水は要ると。」
「わかりました。でも、ですよ。ダムがあればぜったい安心ですか?
昔のような大渇水がおきたら、石木ダムがあっても給水制限は避けられないと
水道局も言ってますよ」
「そりゃ、そうたい。石木ダムはたいして大きゅうはなかもんな。
ばってん、なかよりゃよかたい。なかったら、もっと断水とかが続くんやけん」
「その点、やはり海水淡水化施設があれば安心ですよ。海の水なら渇水の心配はないでしょ?」
「いえ、おっしゃりたいことはわかります。ただ、現実も見てください。
福岡も水不足で苦しんだ末、あの施設を造り、現在、一日5万トン近くの真水を造ってます。
その量は市民の生活用水に換算すると25万人分にもなるんですよ」
「しかも、玄界灘のきれいな海水を真水にして、残りの濃縮された海水は下水処理水と混ぜて
福岡湾に流しているんですが、そのおかげで福岡湾がきれいになっているそうです」
「たぶん安心できないとおっしゃるでしょうが、もしも、もしもですよ。
ほんとうにきれいな安心できる水を海水から造れるのなら、
海水淡水化施設こそ、水不足を解消する手段になりますよね?」
「…。まあな。ばってん、福岡と違うて、こっちじゃそりゃいつになるやらわからんと」
「とにかく、今はダムが一番よかと。ダムば早よ造らんば。
あんたちが邪魔すっけん、ますます遅れよる!これ以上よけいなことはすんな!」
そう言って、去っていかれました。。
子どものころの辛い渇水体験。
社会人になろうとしたとき、地元に職場がなくて都会へ出ていかねばならなかった悔しい思い。
過酷な水不足環境の海外での労働経験、そこで出会った未熟な海水淡水化装置。
一人の人生経験の中で水にまつわる記憶の数々。
辛い思い出がしっかり沁みついていた。
いま、彼の中では、新しい情報や理屈など、なんの役にも立たないかのように見える。
伝えることの難しさを改めて感じるとともに、
私もたくさんのことを教えてもらいました。
私には水にまつわる、沁みつくほどの思い出など何もなく、
空気のように当たり前のものとして、その恵みを受けてきて、
ただ、知識や情報だけを頼りに訴えている。
この男性とのやりとりをブログ上に再現しながら、
薄っぺらな自分の姿を認識することができたのは、とてもよかった・・・。