ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

机、父、約束

2022年10月25日 | 随想録
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 子どもの頃に怒って家から飛び出したものの帰りたくてたまらなくなって、でも家に帰ってドアを開ける勇気もなくて、暗い外をあてもなく歩いたことを、今でも夜道をひとり歩く時に思い出します。


 幼稚園の時、ひとつ違いの姉が小学校への入学祝いとして学習机を買ってもらったんです。
 抽斗がたくさんあって赤い椅子もついている、いかにも勉強したくなるような机でした。
 それまでぼくたちきょうだいが使っていた机は、抽斗がふたつの、正座して使うものでした。
 姉の新品の机を見たぼくの目は、きっとキラキラと輝いていたことでしょう。
 ところがぼくの机はなかった。


 父はいつだったか、「机を買う時は姉弟一緒に買ってやる」と言ったことがあったんです。
 その言葉を覚えていたぼくは怒り心頭に達し(^^;)、即座に家出を決行!(←ちなみにこの短気なとこも父譲りです)。
 最初は元気いっぱいで近くの公園などをウロウロしていたんですが、当然行くところもなく、お腹もすいてくるし、あたりはだんだん暗くなり不安が膨らんでくるしで、とりあえずノコノコ家へ帰ったんですね。
 でも玄関に入る勇気がないもんだから、裏口の壁にもたれて所在なさげにしていたら、ガラッ!と戸が開いて、父が出てきたんです。
 すごい剣幕でした。


 父は裏の物置きにぼくを引っ張って行き、柱にロープで縛りつけました。
 父はぼくに、「なんでこんな遅くまで外をほっつき歩いていた!!!」と怒鳴りつけます。
 頭ごなしに怒られたぼくはふてくされて返事もしません。
 父は父で激怒しています。
 強情なぼくは意地でも口をきいてやるもんか、と膨れっ面をしていましたが、悔しくてとうとう
 「お姉ちゃんに机を買う時はぼくも一緒に、と約束したのに」と言い返したんです。
 そうしたらなぜか涙が次から次から溢れて、止まらなくなりました。


 ぼくの言い分を聞いた父は、しばらく黙っていましたが、大泣きしているぼくからロープをほどいてくれました。
 そして何も言わず家に入っていきました。


 翌日幼稚園から帰ってみると、部屋にはぼくの新しい机が届いていました。
 姉の机と同じ型で、椅子は青色でした。


 親父の思い出といえば真っ先にこの話が思い出されます。
 法律に携わる仕事をしていながら、「友人のために」と連帯保証人(!)になって、多額の借金を背負いながらも「友達が困ってたからしかたない」と言っていた、怒ると怖かったけれどお人好しの親父でした。


 10月25日は亡き親父の誕生日です。
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