京丸園(浜松市)の雇用を増やす機械化
産業の現場で機械化といえば「人減らし」が目的と相場が決まっている。ところが、真逆(まぎゃく)の道、つまり雇用を増やすために必死に知恵を絞る現場がある。
静岡県浜松市の農事組合法人(株式会社)、京丸園(きょうまるえん)はミツバなど野菜を水耕栽培するほか、田畑でコメ、ゴボウなどを作り、全国30市場に出荷する。52人中、障害者が22人を占める。
社長の鈴木厚志(すずき・あつし)さん(44)は、地域と共存する農業を目指し、13年前から障害者の雇用を増やしてきた。利点は大きい。まず、職場に支え合いの心が生まれた。そして、障害者に合った仕事をつくり出すために不可欠な現場作業の見直しが、経営の効率化を促している。
その取り組みの中で「機械化」が浮上した。障害者の中には、こみ入った状況判断は苦手でも、単純作業の繰り返しが得意なひとも少なくない。そこで、まず野菜の包装に使う樹脂トレーを単純な手作業で洗う機械を作った。
今、開発中なのが、水耕栽培の野菜に付く羽虫を駆除する機械。下向きに伏せた大型の換気扇に自転車の車輪をつけた。野菜が育つ棚の上をなめるように移動させ、虫を吸い上げる。作業は機械をゆっくり押すだけ。農薬も使わなくて済み、野菜の高付加価値化にもなる。
開発を頼んだ地元の機械メーカーからこんな声が返ってきた。「今まで人を減らす機械化ばかりやってきた。本来やるべきは、人に使ってもらう機械作りだったのではないか」。
(朝日、2009年08月19日。川戸和史)