息子を交通事故で亡くした元京劇役者と3人の若者の交流を、成都と四川大地震の爪跡も生々しい観音山を舞台に描く。監督は『ロスト・イン・北京』の李玉リー・ユー。
元京劇役者の越琴(張艾嘉シルヴィア・チャン)は、息子を交通事故で喪った悲しみに打ちひしがれていたが、悲しみを紛らわせるためか、空き部屋を賃貸に出す。その部屋を丁波(陳柏霖チェン・ボーリン)、南風(范冰冰ファン・ビンビン)、太っちょの3人が借り、不慣れな共同生活を始める。
3人は暇を持て余している今どきの若者らしく、夜遊びもするし決して行儀がいいとは言えない。現役の頃と同じように毎朝6時半から京劇の稽古をする越琴に辟易して、練習用のDVDを勝手にアダルトものに入れ替えるイタズラをしたり、越琴の息子の事故車を勝手に乗り回したり、クラブで歌手をしている南風が客から賠償金を請求された時には、越琴のへそくりを見つけ出して黙って使ってしまったり、やりたい放題。
息子を亡くして1年が過ぎた花火の夜、越琴は自害を図るが丁波たちに見つかり病院に担ぎ込まれて一命を取りとめる。お見舞いに来る3人に少しずつ心を開きはじめた越琴は息子が亡くなったことを話し、3人は越琴の絶望の深さを知る。越琴と3人は徐々に距離を縮め、観音山に行っては震災で壊れた寺院や仏像の修復を手伝い始める。。
越琴が当初3人を疎ましく思ったのは、3人が息子と同年代だったということも大きいのでしょう。仕事もせずふらふらと遊んでいるかのような3人を見て、なおのこと「なぜ息子が死ななければならなかったのか」という不条理さを感じたに違いありません。息子の車に同乗していて事故で片脚を失った元彼女につらく当たるのも、なぜ自分の息子だけが、という思いなのでしょう。
ただ、やり場のない怒りというかもやもやとしたものは、3人も何かしら抱えていて、多くは親との関係だけど、だからこそ越琴の語り出した息子のことを、親の側から見た子供への想いとして自分の親と重ね合せて考えたのではないでしょうか。
4人が暮らす成都は、近代的なビル群の脇にこれから再開発をする地区があり、地上げ屋みたいな輩が幅を利かせているのは日本のバブル時代を彷彿とさせます。中国のバブルが弾けるときが恐いですね。観音山は成都とは対照的に静謐とした雰囲気ですが、現地でも途中の町でも震災の爪跡が生々しく残っています。東北の復興もそうだけど、現地の人々の力だけでは遅々として進まないので、ボランティアをはじめとした被災地以外の人たちの協力が継続して必要だと強く思います。
3人が成都から観音山へ行くのに貨物列車の荷台に乗って無賃乗車していくシーンは、暗いトンネルを通るたびに「わーっ」と大声をあげたり、列車の速さで風を感じたり、開放感ある楽しげな雰囲気でした。車やバイクを飛ばすのと同じようにスカッとするのかも。
張艾嘉の感情を押し殺している演技が上手いなあ、と思いました。范冰冰も、父親との関係や丁波との関係で揺れ動く南風の気持ちをキュートに演じていました。
公式サイトはこちら。
9/29 新宿K'sシネマ
『コールド・ウォー 寒戦』 絶賛公開中!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます