えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

うずく、まる 中家菜津子

2015-06-24 09:00:35 | 歌う

             ☯ うずく、まる 中家菜津子 ☯

 数日前の「天声人語」によると~人の感情を読み取り身振り手振りを交えて会話するロボットが発売されたそうである。価格は19万8千円。有名作家の作風を分析し、小説を創作させる試みもある。しかし人工知能に詩は書けるか。~ 詩は無理だと思う。短歌も詩であるが、定型に慣れてしまった私には、詩は途方もなく難しくて書けない。刊行したばかりの中家菜津子の✿ 「うずく、まる」 に私はいま翻弄されている。

 ◓ 遠くからあなたがつれてきた雨は歌を覚えて銀色に降る

 ◉ まっすぐな一本道の果てに立つポストに海を投函した日

 ◉ 果てしなく椅子がならんだ草原でとなりにすわる約束をする

 この3首は新鋭短歌シリーズの『うずく、まる』に収められている中家の短歌である。彼女は3年前に「未来短歌会」の会員になったが、詩人としてかなり活躍していたらしい。新鋭の集う「加藤治郎欄」のなかでも異彩を放っている。まるで抽象画のような歌に戸惑いながらも新鮮なフレーズに私はほろ酔う。私の歌が古くさいような気がしてくる。

 ◉ 海色のセーターを着て海にゆくもう十分にさみしいからだ

 ◉ 火を飼ったことがあるかとささやかれ片手で胸のボタンをはずす

 ◉ うす青い果てにあなたといるときは雲か水面かもうわからない

  相聞歌が生々しくないのは海、雲などが作品を清々しくしてしまうからだろう。歌集名の
「うずく、まる」も独特である。私が「うずくまる」のは失意の時だ。しかし彼女はしゃがみこんでしまわない、起き上り立ち直るであろう。ロボットが出来ない詩を書けるのだから。

 ◉ 浴室ははるか遠くに思われて南半球の雨音を聴く

        この歌は強引だなあと呟く私に、南半球の雨音が聴こえてくる深夜。

                                6月24日 松井多絵子                  


直木賞の候補者たち

2015-06-23 08:52:16 | 歌う

            ・・・ 直木賞の候補者たち ・・・

♠ いくたびも候補になりしこと知りて繰りかえし読む或る小説を  松井多絵子

 昨日朝刊の本の広告に✿西川美和・『永い言い訳』、今日の朝刊にはさらに大きな広告の、✿馳星周・『アンタッチャブル』、直木賞ノミネートとして宣伝されている。発表は7月16日、候補の作家は6人。芥川賞も同時に発表されるから7月16日は夏の文芸祭りの初日、その後は受賞者の顔がテレビに新聞に大きくあらわれ、この夏をさらに暑くするだろう。

 直木賞候補の1人の西川美和は映画監督、「ゆれる」「ディア・ドクター」などの作品で知られているらしい。今年2月、文芸春秋社から出版された小説『永い言い訳』は、「突然の事故で、妻が、母が、。残された者の幸福と不確かさを描いた感動の物語」であると。、広告。

 馳星周の『アンタッチャブル』は 警視庁公安部の「アンタッチャブル」と捜査一課の「落ちこぼれ」コンビが爆破テロの脅威に挑む。『不夜城』から19年、馳星周史上最も”キケン”な男が登場。これは新聞の広告文。ほか4人の候補作は✿門井慶喜『東京帝大叡古教授』
✿澤田瞳子の『若冲』 ✿東山彰の『流』 ✿柚木麻子『ナイルパーチの女子会』など。

 6人の候補者たちのなかには歴史学者として評価されている人もいる。映画監督や他の分野からの越境も多い。今年の芥川賞候補の又吉直樹は「お笑い」で活躍している。7月16日夜に笑顔になれるのは、「あら、あの人が?」 かもしれない。

                                      6月23日 松井多絵子 

        

    俳句情報・新刊句集

 ♦ 榎本好宏句集 『南瞑北瞑』 第9集 (飯塚書店・本体1500円)

         未帰還と書かれ裔なし盆用意

 ♦ 西宮舞句集  『天風』 第4句集 (角川学芸出版・本体2700円)

         かりそめのいのち息づく蛍の火


「それから」を読む ⑦

2015-06-22 08:42:45 | 歌う

           ・・・ 「それから」を読む ⑦ ・・・

 ♠ 淋しきは女の弱さ 断りし後にやさしくなりてしまいぬ   松井多絵子

 前回を書いてから3週間も過ぎてしまった。あのとき平岡の妻からお金を貸してほしいと言われた代助は、兄嫁に頼む。彼女はきっぱりと断る。 「無職で親に養われているアナタが友達にお金を貸すなんて、しかも私に金策を、。」 兄嫁は自分の言い分をはっきり言えるアッパレな女だ、明治時代にこんな女がいたとは」。強い女が好きな私はうれしくなった。しかし、次回には兄嫁の使者が代助のところに親書を届ける。「先日は失礼しました。二百円だけ都合しますからお友だちのところへ届けるように」 と書かれ小切手が添えてあった。 「だから女はダメなんだ」 私は失望した。親戚や縁者に好く思われたいために自分を犠牲にしてしまう女は実に多い。

 100年も前から小切手があったのだ。当時の200円は今は200万円位だろうか。その小切手を持って代助は友人の平岡を訪ねる、彼は留守だが妻の三千代がいた。「これだけじゃダメですか」 と言いながら代助は小切手を渡す。大金を貸すのに、「いい恰好」 をする代助。もし自分が働いて稼いだお金なら、こんな甘い言葉は言えなかっただろう。「それから」 を執筆した頃の漱石は書くことに追われた毎日、大勢の家族のためにも稼がなければならなかった。高等遊民に対しての批判が代助に向けられていたのかもしれない。

 6月18日の 「それから」 は三千代が代助を訪ねてくる場面から始まっている。三千代は百合の花を提げている。「いい香でしょう」 と言うが代助は少し眉をひそめる。「あなた、何時からこの花がお嫌いになったの」 昔、三千代の兄が生きていた時分、代助が百合の花を持って谷中の三千代の実家を訪ねたことがあったのである。そのうちに雨が益深くなった。「いい雨ですね」 と代助が言えば 「ちっとも好かないわ。私、草履を穿いて来たんですもの」 「帰りは車をいい付けてあげるからゆっくりなさい」 「先達ての二百円は借金の返済に使うつもりが毎日の暮らしや色々の出費に、、」と三千代が言い訳をする。

 「どうせ貴女に上げたんだから、どう使ったって」 代助はなんともカッコイイことを云う。雨が頻りなので、帰るときは車を雇う。寒いので、セルの上へ男の羽織を着せようとしたら、三千代は笑って着なかった。ここで先週は終わったが、恋が始まる気配がしてくる。ふたりの妖しい恋の気配が漂いはじめた、雨の夜。何時頃だったかは書かれていない。                                       

                         6月22日  松井多絵子


☀ヤル気があれば

2015-06-21 09:16:20 | 歌う

、             ☀ ヤル気があれば ☀

 ☀ わたくしをヤル気にさせた向日葵が咲いていたのはこの辺だった  松井多絵子

 「男女の能力は変わらない。意志があれば道は開ける」と、航空業界をめざす女性にエールを送ったのは47歳の藤明里。18日のパリ航空ショーの会場で開かれた国際航空女性協会総会の講演で藤明里は、彼女が機長になるまでの経験を語った。東京都出身の藤さんは「お客さんを運ぶ仕事」をする航空学校へ進学をしたかった。でも身長が155㎝、当時の基準に6㎝も足りなかった。米国の操縦士養成学校に留学、自家用と操縦士免許を取得。

 海外で免許を取ったパイロットの採用と養成を始めていたJEXの試験に合格。08年2月、機長に必要な定期運送用操縦士の免許を取得し機長昇格訓練を受け続けた。12年4月から副操縦士として活躍、機長になるための34時間以上の搭乗をクリアし、今月2日に認定審査に合格した。

 藤明里(ふじ あり) は女性で日本初の旅客機機長になった。女性の同僚は結婚や出産を機に退職することが多かった。 「個人の努力は必要だが、パートナーや会社の支援も欠かせない。自分が信じた道を、あきらめずに進んで欲しい」 と花の都の6月のパリで語った。明里さんが操縦士の資格を得るための資金はどれ位だったか分からない。親に出してもらい、バイトや派遣社員などで働き親に返済したとか。結婚しているらしいが子供はいないとか。かなり恵まれた女性らしい。だからあえて難関に挑戦したのだろうか。

 ★ エアバスの空より夜の東京を星の都のように見ており

        ヤル気があって、アキラメない人が 成功するのですね。

                       6月21日  松井多絵子

                            

 


もうじき芥川賞が

2015-06-20 09:10:42 | 歌う

              ✿ もうじき芥川賞が ✿

 ♦ 賞を逃してしまいし人こそ哀しけれ盛夏の日々をひりひり過ごす  松井多絵子

 真夏がはじまる7月、梅雨があけてふいに向日葵の大輪の花が咲くように7月16日は芥川賞の決定の日である。まるで彗星が現れるように受賞した人がテレビ、新聞、雑誌に現れる。テレビには本人の顔よりはるかに大きな笑顔、それを見て受賞し損ねた作家はさぞ不快だろう。悔しさをバネに直ぐに原稿用紙に書けるだろうか。体は熱いのに心は寒く、ひりひりしている。昨日の朝刊に第153回芥川賞・直木賞の候補が発表された。先ず芥川賞を。

 この7月の♦芥川賞候補として注目されているのは✿又吉直樹(35) 彼はお笑いコンビの「ピース」として活躍し、多くのレギュラー番組をかかえる売れっ子である。いわゆる純文学作品が候補となる芥川賞で、人気タレントの作品が候補になることは異例だ。候補作♦「火花」は若手芸人2人の濃密な青春を描いた小説。創刊81年の文芸誌が「火花」の掲載により創刊以来はじめての増刷を記録した。単行本の累計は42万部に達し、今年上半期の文芸書のベストセラーでも軒並みトップになった。

 5月の三島由紀夫賞で「火花」は、「見事な青春小説」と選考委員の作家・辻原登氏は評価したが、決選投票の末に受賞を逃した。お笑い界からの越境では昨年の 「うみべのキャンパス」で♦谷川電話さんが第60回角川短歌賞を受賞している。「泣かせる」のは易しいが「笑わせる」のは難しいかもしれない。

 芥川賞の候補は♦ピースの他に♦内村薫風  ♦島本理生 、♦高橋弘希  ♦滝口悠生 
♦羽田圭介 この6人の中から誰の作品が選ばれるのか。すでにベストセラー作家になっているピース は外されるかもしれない。ダブル受賞ということもある。暑くなく寒くもない、さくらんぼの実るこの心地よい初夏を候補者たち6人は寛げないだろう。そして受賞を逃したひとの盛夏のきびしい暑さを私は思ってしまうのである。

                          6月20日  松井多絵子、