☯ うずく、まる 中家菜津子 ☯
数日前の「天声人語」によると~人の感情を読み取り身振り手振りを交えて会話するロボットが発売されたそうである。価格は19万8千円。有名作家の作風を分析し、小説を創作させる試みもある。しかし人工知能に詩は書けるか。~ 詩は無理だと思う。短歌も詩であるが、定型に慣れてしまった私には、詩は途方もなく難しくて書けない。刊行したばかりの中家菜津子の✿ 「うずく、まる」 に私はいま翻弄されている。
◓ 遠くからあなたがつれてきた雨は歌を覚えて銀色に降る
◉ まっすぐな一本道の果てに立つポストに海を投函した日
◉ 果てしなく椅子がならんだ草原でとなりにすわる約束をする
この3首は新鋭短歌シリーズの『うずく、まる』に収められている中家の短歌である。彼女は3年前に「未来短歌会」の会員になったが、詩人としてかなり活躍していたらしい。新鋭の集う「加藤治郎欄」のなかでも異彩を放っている。まるで抽象画のような歌に戸惑いながらも新鮮なフレーズに私はほろ酔う。私の歌が古くさいような気がしてくる。
◉ 海色のセーターを着て海にゆくもう十分にさみしいからだ
◉ 火を飼ったことがあるかとささやかれ片手で胸のボタンをはずす
◉ うす青い果てにあなたといるときは雲か水面かもうわからない
相聞歌が生々しくないのは海、雲などが作品を清々しくしてしまうからだろう。歌集名の
「うずく、まる」も独特である。私が「うずくまる」のは失意の時だ。しかし彼女はしゃがみこんでしまわない、起き上り立ち直るであろう。ロボットが出来ない詩を書けるのだから。
◉ 浴室ははるか遠くに思われて南半球の雨音を聴く
この歌は強引だなあと呟く私に、南半球の雨音が聴こえてくる深夜。
6月24日 松井多絵子