・・・ 「それから」を読む ⑦ ・・・
♠ 淋しきは女の弱さ 断りし後にやさしくなりてしまいぬ 松井多絵子
前回を書いてから3週間も過ぎてしまった。あのとき平岡の妻からお金を貸してほしいと言われた代助は、兄嫁に頼む。彼女はきっぱりと断る。 「無職で親に養われているアナタが友達にお金を貸すなんて、しかも私に金策を、。」 兄嫁は自分の言い分をはっきり言えるアッパレな女だ、明治時代にこんな女がいたとは」。強い女が好きな私はうれしくなった。しかし、次回には兄嫁の使者が代助のところに親書を届ける。「先日は失礼しました。二百円だけ都合しますからお友だちのところへ届けるように」 と書かれ小切手が添えてあった。 「だから女はダメなんだ」 私は失望した。親戚や縁者に好く思われたいために自分を犠牲にしてしまう女は実に多い。
100年も前から小切手があったのだ。当時の200円は今は200万円位だろうか。その小切手を持って代助は友人の平岡を訪ねる、彼は留守だが妻の三千代がいた。「これだけじゃダメですか」 と言いながら代助は小切手を渡す。大金を貸すのに、「いい恰好」 をする代助。もし自分が働いて稼いだお金なら、こんな甘い言葉は言えなかっただろう。「それから」 を執筆した頃の漱石は書くことに追われた毎日、大勢の家族のためにも稼がなければならなかった。高等遊民に対しての批判が代助に向けられていたのかもしれない。
6月18日の 「それから」 は三千代が代助を訪ねてくる場面から始まっている。三千代は百合の花を提げている。「いい香でしょう」 と言うが代助は少し眉をひそめる。「あなた、何時からこの花がお嫌いになったの」 昔、三千代の兄が生きていた時分、代助が百合の花を持って谷中の三千代の実家を訪ねたことがあったのである。そのうちに雨が益深くなった。「いい雨ですね」 と代助が言えば 「ちっとも好かないわ。私、草履を穿いて来たんですもの」 「帰りは車をいい付けてあげるからゆっくりなさい」 「先達ての二百円は借金の返済に使うつもりが毎日の暮らしや色々の出費に、、」と三千代が言い訳をする。
「どうせ貴女に上げたんだから、どう使ったって」 代助はなんともカッコイイことを云う。雨が頻りなので、帰るときは車を雇う。寒いので、セルの上へ男の羽織を着せようとしたら、三千代は笑って着なかった。ここで先週は終わったが、恋が始まる気配がしてくる。ふたりの妖しい恋の気配が漂いはじめた、雨の夜。何時頃だったかは書かれていない。
6月22日 松井多絵子
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