☀「朝日歌壇7月15日」☀
<永田和宏選>
★友人が「ウチの裏山」と言ひて来し大いなる山が世界遺産に
(山梨県) 塩島 敏子
今日は海の日。海の歌を取り上げるつもりだったが、富士山の歌が多い。富士山が世界遺産に登録された頃の投稿歌であろう。「3・11」の後から、近いうちに富士山が噴火するかもしれないとマスコミが騒ぎだした。もし噴火したら富士山がなくなってしまう。私はあわてて富士山をめぐるツアーに参加した。「富士スバルラインの周遊」、「本栖湖の芝桜」、「富士五合目と忍野八海」などなど。どのツアーも参加者が少なかった。「まさか、と思うけど3・11だって、まさかでしたもの」という人々。わたしも同感。今だってそう思う。
その富士山が世界遺産に登録された。もし噴火したら「負の世界遺産」ではないか。しかし、近頃のマスコミは「噴火」などと騒がない。噴火させたくないのだ、私たち日本人は。
山梨県の塩島敏子さんの友人は富士山を「ウチの裏山」と言う。麓の住人には単なる裏山かもしれない。富士山の魅力は、何と言っても雪を刻む三角形の上半身の美しさ、しかし裾野は登山者で騒がしく、散乱するゴミに悩まされているかもしれない。「ウチの裏山が世界遺産になった。へえー」って感じ。 「近所のノッポのあの娘がミス・ユニバースになった。まあー」そんな感じだろうか。
しかし、あらためて「ウチの裏山」を見上げ、その偉大さに感嘆しているような気がする。私の少女期までは、実家の世田谷区の2階から富士山の上半身が見えた。あれから半世紀も過ぎたが、今でも富士山は私の山である。どうか末永く穏やか山であってほしい。
7月15日 塩島敏子さん 夕暮れの富士山によろしく。 松井多絵子