新進の劇作家、加藤拓也氏の監督した『わたし達はおとな』を見ました。リアルな会話が心にせまる佳作です。二重の時間が区別なく並べられる映画の時間進行も斬新でした。
監督・脚本 加藤拓也
出演者 木竜麻生 藤原季節
この映画では出演者は自然な日常的な会話をしています。台本がありながら日常的なしゃべり方をするのはかなり難しいことです。しかし役者の演技は見事に日常的です。その結果、人間の良さもみにくさもはっきりと見て取れます。
最後に主人公とその彼が喧嘩になります。主人公の彼氏は冷静で論理的であろうとしながら、冷静さを失い、論理的に破綻していきます。主人公も感情的に自分勝手に論理を作っていきます。ふたりの気持ちは理解できるのですが、表に出てくる言葉は「おとな」のふりをしていながら「おとな」になっていません。そこにリアルな人間が見えてきます。
この作品では時間の描き方も独特です。主人公の妊娠が判明してからの時間軸と、主人公が妊娠にいたるまでの時間軸が明確な区切りもなく並べられています。そのため一瞬「アレッ」と思うのですが、その場面がどちらの時間軸にあるのかはすぐにわかります。関係がうまくいくときと、もはやうまくいかなくなったときの人間の違いが対比的に描かれます。おもしろい表現方法を発明しています。
若手表現者の表現を意欲的に追究する映画でした。