新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

良い時に辞めたものだね

2019-06-09 14:14:17 | コラム
製紙とその流通業界の苦悩:

先日、久しぶりに出会った嘗ては同じ紙流通業界で知り合った学校年齢1年下のI氏と、紙業界の来し方と現状を語り合ったものだった。「来し方」を語ったのならば行く末もあるのではないかと言われそうだが、この点は大変遺憾ながら語り合うまでもなく余りにもハッキリとしているのだ。簡単な例を挙げておけば、先日も採り上げたことで「アメリかでは新聞用紙が今日までの間に過去最高から80%も需要が衰退していた」という例で十分だろう。

同氏とは再会を約して別れたが、その前に「何度でも同じことを言うが、お互いに良い時期に働き良い時に辞めたものだった」としみじみと回顧したのだった。重ねて言えば、印刷(紙)媒体の将来はそれほど明るくないということなのだ。現に何処かの大都市の議会では今頃になっても「ペーパーレス化」を目指そうなどと言っていたではないか。事の序でに悲しい例を挙げておけば、紙流通業界(その昔は社名に洋紙店が付いていた)の大手2店が合併して本来ならば売上高は500億円台になっていたはずのものが、近年では160~190億円の間で推移しているという状況なのだ。

私はここまでの売上高の減少はICT化の進み方と時代の変化とがもたらしたことだと認識しているし、あらゆる点から考えて、製紙のみに止まらずあらゆる産業界にとっては大変好ましくない現象だと思っている。

因みに、当方は紙流通業界の国内市場向け販売担当からアメリカの紙パルプメーカーに転進した、最初で最後の例だと思っている。その転進先のアメリカ紙パルプ森林物産業界で最大手の上位2社のうちだったW社は、一昨年10月で完全に紙パルプ業界から撤退してしまっていた。私がリタイアした24年後のことだった。アメリかでは紙パルプ産業の先行きに対してこれほど解りやすい見通しを立てているのだ。

話題の方角を一寸変えて、時代の変化を示していると思わせられた例を挙げてみよう。それはPresident誌の19年6月17日号に下記のような記事を発見して「時代が変わったのだな」と痛感させられたのだった。

>引用開始
○○さんが受けたいじめはITツールの中で行われた。「業務のタスクを社員みんなで管理するタスクツール、顧客管理ツールというものがあります。やるべきことを付箋みたいにリストアップして、それがどれくらいに進んでいるのか部署のチームのメンバーでシェアーするというものです。『例えば、クライアントA社との商談は、現在アポ打診を通っており、打ち合わせのスケジュール待ち』といったように進捗状況を共有できるとか、次に自分がすべきアクションを上司が書き込むケースなど様々です。(以下略)
<引用終わる

一読して「これが日本語の文章か」と疑いたくなったが(勿論、専門語なのだろうカタカナ語の多用に胸が悪くなる思いに囚われたが)、一読した直後では何が言いたいのか把握出来なかった。暫くして何が言いたいのかは理解出来たが、現在の会社組織ではこういう手法を使って社員を管理しているのかと、矢張り驚かされた。進捗状況その他は各担当者が直属の上司にメールででも報告し、彼乃至は彼女が把握おけば済むことではないのかなと思わせられた。言うまでもないことで、アメリカのように個人の主体性に任されている組織ではこういう事態は生じる訳がないと思う。

だが、全てを「皆で一丸となってやろう。チームワークを重視しよう」という我が国の組織ではそのグループ内の意思の疎通(「コミュニケーションを取る」などと言う妙なカタカナ語交じりの表現を私は採らない)を常に十分に図っておこうとの精神の発露だなと思って読んだ。そこに加えてICT化の進歩でそういう意志の疎通と意見の交換を可能にするツールが導入されたのでは堪らないなと痛感させられた。

W社ジャパンでは私がリタイアした2年後だったかに全員にPCが与えられて、マネージャーが報告書の原稿を書いて秘書さんがタイプするという習慣がなくなったと聞いた。私の元の秘書さんからは「良き時にお辞めになって頂いたので、私がPCの扱いをお教えする手間が省けたのは結構でした」と皮肉を言われてしまった。これも大きな(あるいは小さな?)時代の変化を表している事件?だったと思う。同時にPresident誌の記事は「将にICT化の進歩による時代の変化を表しているのだろう」と感じた。

これから先にはICT化というかデイジタル化というのか、銀行などが怖れているAIによる人員削減などがイヤと言うほどすすむのだろうから、PCが秘書さんの仕事の負担を軽減する程度の軽症では事は済まないと思う。そこで、話はI氏と語り合った「我々は良い時期に働き、良い時に辞めたねものだね」に戻ってくるのだ。



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