新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

長年の対日輸出の経験から考えれば

2016-07-04 17:04:48 | コラム
「お客様は精々王様」程度の国から見れば我が国は:

私は経験上も貿易というものをこう考えております。素材産業等の原料を長年我が国に向けて販売してきたのです。私はその取引先が他社乃至は他国のサプライヤーに切り替えることが先ず不可能な製品を長年対日輸出しておりましたので、マスコミや実務経験に乏しいとしか思えないエコノミスト様たちのご高説には、疑問を呈したくなります。我が国の市場の特性というべきかも知れぬ感情的な面が顕著な点は、アメリカでは簡単に理解出来ていませんでした。

需要家乃至は最終ユーザーは主たる原料をスポット契約で購入することは先ずあり得ないので、関税がどうしたの、為替が不利な方向に振れたからと言って、輸入を中断するとか、仕入れ先を突如切り替えるとか、その事業乃至は最終製品の製造販売を中止することなどはビジネス上の道義的にもあり得ないのです。彼らはサプライヤーとも長契するのが普通であり、客先とも契約しています。輸入の場合は先ず「コストブレイクダウン」を公開し、商社が介在する場合には最終ユーザーと細部まで了解の上輸入業務を代行します。

為替変動の処理方法も事前に契約し、お互いに損得が発生しないように調整します。この契約の詳細の打ち合わせはそれそれは綿密に行われます。我々には為替変動なる現象を断言すれば、関係がないのですが、中間に立つ商社の苦労は十二分に解っております。商社と我々サプライヤーとの間にも契約はあります。輸入(我が方にとっては輸出)の仕事というものは、売買の約束の成立も重大ですが、こういう細部まで細かく話し合うものであり、銀行や(失礼)官庁の方々には簡単に窺い知れない点が多いと思うのです。その成り立ちを20年以上も言わば当事者の如くに経験した者からすれば「部外者が何をお解りかな」と言いたくもなります。

為替の予想の難しさなどは、理屈ではないことなのですが、予約などを迂闊にするととんでもない損失を生じるし、すべきか否かを最終ユーザーの意向を確かめようにも専門家でもない需要者が確たる意見がない場合もあって、容易ではありません。私は為替変動の影響を受ける当事者ではありませんでしたが、その話し合いに立ち会うこともありましたし、その面での経験豊富な方々の話も聞ける立場にあったので、知ったかぶりをしているのです。

しかし、マスコミが今回のUKのEU離脱の結果となった国民投票のような場合には、如何にも何でも知っているかのように「関税がかかるのなんの」と騒いだのは誠に烏滸がましいことと批判したくなるのです。需要者は為替の変動があろうと、関税がかかろうと買わねばならぬ製品は買い続けます。そこで損失を生じても耐えてしまうのが我が国のビジネスの世界の美しい面ですが、アメリカ人には理解出来ないのです。

結論の如きことを言えば「対日輸出の仕事の中で最も難しいことと言えるのが『何時、どれだけの幅の値上げを打ち出して十分な利益を確保するか』」なのです。それは「アメリカの企業経営には損をしてまで売る」という哲学がないからです。「イヤなら買わなければ良いじゃないか」などと言えば出入り禁止になりかねません。でも、禁止すると肝心要の原材料の供給が途絶えるのです。評論家の方々にも是非ご経験願いたい難しさと苦しさでした。アメリカではお客様は精々「王様」程度ですが、我が国では「お客様は神様だ」の地位におられるのです。この文化の違いを完全に理解したアメリカのサプライヤーはそう多くはいなかったでしょう。



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