新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

3月6日 その2 我が国の対外国交渉術に思う

2019-03-06 17:12:58 | コラム
相互の文化・思考体系・歴史を何処まで理解できていたのか:

トランプ大統領対金正恩委員長会談の結果を見て、自分が経験してきた国際的交渉事を敢えて振り返ってみました。相互に解り合えて信頼関係が構築できて、穏やかな話し合いが出来るようになる為には1度や2度会談しただけでは達成は難しいと言えると思います。

私は永年「アメリカの大手メーカーの一員として、彼らアメリカ人の文化に基づく視野から、我が国の政治・外交・経済等を論じてきた、言わばコラムニストである」と自認してきました。そういう視野から見ると「我が国の政治やビジネスの面で余りにもフェアープレーを尊重し、善意に溢れ(性善説信奉で)、常に交渉相手(他人)の立場を思いやり、その顔を立てて上げねばという心の温かさがあると感じておりました。そこには『誤魔化してまで勝とうとは考えていない国民だ』と言いたくなってしまう優しさがあったと言える」のです。私には我が国は非常に温情的で惻隠の情があると思わせられていました。

だが、我が国の文化や思考体系と、そういう美しい物の考え方や物の見方を理解していない諸外国の連中は、その点を甘さと見る傾向があり「そこに付け込むこと」ばかりに力を注いでいたと感じていました。特に厳しい反論であるとか論争を避ける傾向があり、先方の無理無体の言いがかりに対しても真っ向から否定しないので、先方はややもすると日本側が認めたと勝手に解釈することが屡々だったと思います。

そういう我が国の綺麗であり且つ優しさの表現であることを本当に理解して、相互の文化の違いまでを十分に認識して日本市場に進出してきたアメリカの会社には成功例が多かったと思います。手前味噌ですが、私は副社長兼事業部長に「日本の伝統的文化と思考体系と優しさと謝罪の文化を弁えずして、日本市場での成功はない」と説いて、「日本とアメリカの企業社会における文化の違い」のプリゼンテーションをして、事業部全体の日本市場の理解度を高めようと働きかけました。

そのプリゼンテーションも「アメリカ側から見た日本との文化と思考体系の違い」を論じました。アメリカ側が容易に理解できなかった相違点の一つには、彼らの思考体系では「得意先の主張や反論を会社側に懸命に伝えようとする日本人社員は不届き者であり、何処から給与を貰っているのかすら認識できていない」というのがあります。アメリカ人が最も評価する社員とは「先方の言うことは無視してでも、会社側の意向を相手に完全に理解させ受け入れさせる命令忠実行型社員」なのです。この違いを弁えていないと、厳しく叱責・説諭され指導されることだってあります。

私が難しいことであり困ったことだと思ったのは「多くの日本人社員は得意先の意向を十分に聞き入れ、それに基づいて上司乃至は会社に提言するべきだと考えている者が多い」点でした。こういう日本式勤務態度は評価されないのです。そこで、日本人社員の圧倒的多数は会社側の意向というか命令に忠実になって、得意先が言うことに聞く耳持たずという姿勢を採らざるを得ないのです。即ち、「我が社の意向を受け入れるか否かを明確にせよ」と迫らざるを得なくなります。この辺りを如何にこなして得意先との信頼関係を築き上げるかが非常に難しいのです。

こういう企業社会だけではなく、西欧と我が国との文化の相違の谷間に落ちてもがき苦しんだ経験があって、初めて「違いがわかる男」になり得て、何とかその会社で生き長らえていけるようになるのです。思うに、民主主義のアメリカと絶対君主の金正恩委員長が君臨するDPRKとでは大いなる文化と思考体系と命令系統に違いがあって、首脳会談の議題を設定しようと努めた事務方には大いなる苦労があったことでしょう。私には一致点や妥協点を見いだせる話し合いであったとは思えないのです。


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