新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

続・ビジネスマンの服装学

2023-01-19 09:03:57 | コラム
服装学の細部を語ろう:

アメリカ人の会社に入って「服装」について見えてきた事はと言えば「その地位に相応しい服装が求められている」という事だったと思う。「そんな事は当たり前だろう」と言われるかも知れないが、それが先頃詳細に述べた“A New Dress for Success”(邦題「出世する服装」)にあるような細かい決め事なのだ。簡単に言ってしまえば「あのような決め事に従って、上に行けば行くほどそれなりに服装に気を遣うし金もかけていくようになる」のである。

それと共に気をつけなければならないことがある。その一例を挙げておくとジョン・モロイは「黒いコートを着てはならない。それは支配階層のものではないから」としている。「そう言われて見れば、そうだな」とは感じていたが、アメリカは車社会の国なので、冬場でもコートを着て外を歩くことは少ないのだ。

だが、私は黒いコートを着て前を開けたまま闊歩する人を見つけた。それは誰あろうドナルド・トランプ前アメリカ大統領だった。彼は常に労働者階層などに気を遣っている人だったから、あの階層にも受け入れられるよう、服装にも気を配っていたかと疑うのだ、もしかすると彼の出自は・・・ともなってしまうのだ。

アメリカの支配階層の人たちと私が言う「経営者」たちの服装を見ていると、確かにジョン・モロイが指摘するような決め事を守っている人もいれば、「何も今更服装に金をかけて金持ちだと見せる必要もあるまい」と、どちらかと言えば玖頓着に見える人に分かれていたと思う。私が尊敬して止まないCEOのジョージ・ウエアーハウザーなどは70年代の会社の高度成長期には全く無関心だったが、大会社に育て上げてからは恐ろしいほどに隙が無い格調高い服装になっていた。

私が「生涯最高の上司」と褒め称える副社長兼事業部長は名家の出身でもなく一流私立大学のMBAでもなかったが、地方の営業所長から本部の部長、事業部長から遂には副社長に昇任するにつれて、服装に気を遣うようになって行った。それは、地位に相応しいブランドを選ぶようになるし、高額になっていった。その表れの一つがスーツケースからブリーフケースにいたるまで、私などは手を出すことも考えなかったアメリカ最高のブランドで、黒に統一していくようになって行った。

本部の部長から社員教育の分野に転じていき、リタイア後にはシアトルの大学院大学の教授にもなった名家出身のW氏(MBA)は、私が交通事故の被害から復帰したお祝いにと革製の書類ケースを買ってくれた。その際に「こういう物はイニシャルを印字するのだ」(personalizeと言うのだそうだ)と教えてくれた。そう言われて見れば、彼らの持ち物にはイニシャルが入っていることが多い。

ネクタイの話に行こう。既にフランスのかの有名ブランドのHermesは貶してあったが、私はアメリカ製のブランド物のネクタイは縫製もしっかりしているし、生地のバイアスもキチンと取れているし、結び目から皺になりにくく堅牢であるから長持ちするので、有名なフランスやイタリアのブランド品よりも頼りになると認識して使ってきた。

アメリカのブランドと言ってもPoloやBrooks Brothersなどは人気があるかも知れないが、嘗ての高給ネクタイのブランドなどを承知している人は少なかったと思う。私が最も沢山持っていたのがCountess Maraで、表面にCMがデザイン化されて刺繍されていた。最も格式が高かったのがSulkaで、歴代大統領が好んで締めておられたと聞いている。

この「サルカ」を知っている人はアメリカでも少なかったし、嘗て帝国ホテルのアーケードにあった店に出ていた程度だった。Sulkaの本店はニューヨークだと聞いていたが、恐ろしいほど格式が高い洋品店である。何時だったかサンフランシスコの店に入ったことがあった。すると、アフリカ系の男性店員が寄ってきて「当店と知って入ってきたのか」と居丈高に訊いてきた。「知らないで入ってくるか」と切り返すと、ひたすら恐縮して分厚いカタログまで持ってきて「是非、ご贔屓に」と言うのだった・

これには訳があるのだ。余り広く知られていないことで、アメリカの小売業では販売員たちは概ね個人事業主のような形で働いており、歩合制であるから「自分の顧客網」を築き上げておかなければ生活が成り立たなくなるのだ。だからこそ、Sulkaのような高級店で何かを買おうとする見込み客は大事にする必要があるのだ。この店のネクタイはそれほど高額ではないが、靴などは軽く500ドルもするのだから、販売員たちは固定客の確保に血眼になるのだ。

恐らく長い間私だけしか語ってこなかったと思う「アメリカのネクタイのストライプ」に触れていこう。これを承知していれば、「そのネクタイはアメリカのブランドですね」と指摘出来るのだ。それは「アメリカのネクタイの縞柄は右側から左側の下に流れていく形になっていて、ヨーロッパの製品とは正反対(近頃は「真逆」になってしまったが)のデザインなのだから。

困ったことにアメリカと安保条約を結ぶ同盟国の我が国の業者は何故かアメリカ縞のネクタイを市販していないのだ。私は何時か、「ヨーロッパgそれほど有り難いのか」と、アメリカを怒らせなければ良いが半ば本気で懸念している。

故安倍晋三元総理は流石に私が「アメリカ縞」と呼んでいるこのデザインのネクタイをしておられたのが記憶に残っている。だが、不思議なことに安倍氏の盟友だったトランプ元大統領は滅多にアメリカ縞のネクタイを締めておられなかった。もしかすると倒産したと聞いているSulkaを入手出来なくなったからかと疑ったが、バイデン大統領はアメリカ縞のネクタイを復活させておられた。すると、結成されと噂もあるトランプ党はあのデザインを嫌っているのかなどと考えて見た。

このようなことを言い出したらキリがないが、次回は靴のブランドなどを語って見ようと考えてる。