トランプ次期大統領が示す不安材料:
今日までフルーのことばかりで、ちっとも振るわないではないかと言われる前に、少し正常な話題も採り上げてみたくなった。少し無理をしてやってみよう。それはトランプ次期大統領である。これまでに”President elect”となった人がこれほど事前に活動をし、更に具体的な政策めいたことを具体的に公表したという記憶がない。もしかすると、それほど関心がなくて注意していなかっただけかも知れない。
しかし、ここ数日間のメキシコに工場を設けること等をフォード等に回避せよと命じたのと同じことを、Twitter(これなどは酷いカタカナ表記の中でも最も酷い部類で、何とか原語に近づければ「トウイター」だろうが)で発表しておられたが、返す刀でトヨタにも警告を発せられた由だ。彼の場合に怖いのは「全てをご承知で言っておられるのか、またはそういうことに無頓着で言いたいことを自由に発信されたのか」が解らないことにあるように思える。
先ずはお解りであるかないの点だが、お解りになっていて頂きたい最初の問題は「アメリカの低質の労働力とその中に今や少数とは言えないと危惧する”minorities”が数多く含まれていること」ではないか。1994年7月に(未だアメリカの人口が2億6,000万人だった頃)USTRの代表だったカーラ・ヒルズ大使は「アメリカの労働力が抱える基本的な問題に①識字率の向上と②初等教育の充実がある」と指摘され、同時期にFRBのポール・ヴォルカー議長は「③numeracy(=一桁の足し算・引き算が出来る能力)の向上が必要」と認められた。あれから23年経って人口は6,000万人も増え、minoritiesがその大半を占めるのではないかと危惧されている。
そういう状態のアメリカで上記の①~③の問題点がどれほど改善されたのだろうか。私はこれまでにこれらのアメリカが抱える基本的な問題点を繰り返し指摘してきた。2000年代に入ってから、私はある紙パ関連の現場を歩く機会を得たが、その管理職の1人は「未だにこんなことをやっているのだ」と、ある具体的な不良品の見本を見せてくれて自虐的な笑いで話しを締めくくった。ここなどは一般的に見ても水準が高い会社だったので、驚くと言うよりも矢張りそう言うことかと感じたのだった。
トランプ次期大統領はこのようなアメリカの労働力の質を何処まで把握された上で、アメリカ国内に生産拠点を移せと主張されたのだろうか。アメリカの自動車が世界市場で敗退(どうも世界で、だけではないようだが!)された主たる原因に品質、それも労働力に欠陥があったとご承知なのだろうかと疑う。もしも本気で国内の雇用を増やそうとされるのならば、上記の①~③がどれほど改善されたかをお調べになるべきだろう。もっと偉そうなこと言うのをお許し願えば、90年代にWeyerhaeuserが日本市場で何故成功したかの歴史をひもといてみられたら如何だろうか。
疑問点のその2はTPPからの脱退を声高に言われた以上、アメリカがこれまでに締結してきたNAFTAの現状をご存知なのかという辺りだ。大統領の権限はそれを超えるものだとでも言われるのかなと、不思議に思ってしまう。メキシコで生産される自動車に高率の税金を課すと言われ、既に2社が工場新設を諦めたが、そこには何か別の何かの配慮があるのかなと考え込まされる。
以上要するに、トランプ次期大統領は当然ご承知であるべき事柄を全く度外視したかのような発言をされるのは「知っていても敢えて言うのか」または「知らずに、兎に角打ち上げておこうと言うのか」が遠く離れた我が国にいては全く解らないのだ。私は正直なところ、22年以上もの間に特にその労働力の質の改善と向上には本当に苦労し努力してきた。だが、国内の一般市場では「アメリカの労働力の質が世界的には低い部類に入る」との冷厳な事実は認識されていないと思っている。何分にもその労働力で作り出す製品が「世界最高」と信じられているのだから。