【掲載日:平成22年5月18日】
玉主に 玉は授けて かつがつも
枕と我れは いざ二人寝む
大嬢は 家持妻問い重ねの後 嫁いで行った
佐保大納言邸の 跡取り嫁として 同居の所帯だ
齢 十八の花嫁
甘やかされての育ちか 実家が恋しい
今日も今日とて 坂上郎女は 追い返しに 心を砕く
〈居て欲しいは やまやまなれど・・・〉
ひさかたの 天の露霜 置きにけり 家なる人も 待ち恋ひぬらむ
《もう帰り 露や霜かて 置くよって 家で待つ人 心配しとる》
玉主に 玉は授けて かつがつも 枕と我れは いざ二人寝む
《ご主人に お前返して もうわたし 枕と一緒に 寝さしてもらう》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六五一~二〉
〈そう言えば
昔 所有田地の差配で 跡見庄へ出向いた折
あの子 家で泣き暮れていたことがあった〉
常世にと 我が行かなくに 小金門に もの悲しらに 思へりし わが児の刀自を
ぬばたまの 夜昼といはず 思ふにし 我が身は痩せぬ 嘆くにし 袖さへ濡れぬ
かくばかり もとなし恋ひば 古郷に この月ごろも 有りかつましじ
《帰らへん 旅でもないに 門に立ち 別れ悲しむ 我が娘
夜るだけ違て 昼間でも 思い出したら 身は痩せる 嘆く涙は 袖濡らす
こんな心に 掛かるなら この故郷ひとり 幾月も じっと出けへん 心配で》
―大伴坂上郎女―〈巻四・七二三〉
朝髪の 思ひ乱れて かくばかり 汝姉が恋ふれぞ 夢に見えける
《髪乱し 寝られんほどに 母のこと 恋しがるから 夢見るやんか》
―大伴坂上郎女―〈巻四・七二四〉
〈帰したら 帰したで こっちが 寂しくなる 母娘なんやなぁ〉
うち渡す 竹田の原に 鳴く鶴の 間無く時無し 我が恋ふらくは
《鳴く鶴は 引っ切り無しや それみたい あんた思うん 絶え間あれへん》
早河の 瀬に居る鳥の 縁を無み 思ひてありし 我が児はもあはれ
《瀬早よて 羽根休め処 ない鳥か あんた心配 気ぃ休まらん》
―大伴坂上郎女―〈巻四・七六〇~一〉
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