【掲載日:平成22年5月14日】
我が背子が 着る衣薄し 佐保風は
いたくな吹きそ 家に至るまで
坂上郎女は 竹田庄に居た
〈とうとう来るか そろそろ許してやらねば〉
一族の結束を促し
政界上層との繋がりを付け
大伴家躍進の 礎作りに邁進の日々
点睛は 家持と坂上大嬢との 結びつき
〈こちらの 心積もりも知らず
勝手に女を邸に引き入れ 生活を始める
かと思えば あちらの女 こちらの女と
通い詰め 相聞の遣り取り
少しく目立つ顔立ちをいいことに〉
〈十五・六の頃 家に遊びに来ては まだ十にも満たない大嬢に 構いながらの気寄せ
格好の 取り合わせと 思うたわ
大嬢の兄慕いを見 代歌を作ってやったな〉
月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長く恋ひし 君に逢へるかも
《三日月の ような眉毛を 掻いたんで 恋焦がれてた あんたに逢えた》
―大伴坂上郎女―〈巻六・九九三〉
振仰けて 若月見れば 一目見し 人の眉引 思ほゆるかも
《振り仰ぎ 三日月見たら 一目見た おまえの眉を 思い出したで》
―大伴家持―〈巻六・九九四〉
〈帰りを気遣ったこともあった〉
我が背子が 着る衣薄し 佐保風は いたくな吹きそ 家に至るまで
《あんた着る 服薄いから 佐保の風 えろ吹いたんな 家帰るまで》
―大伴坂上郎女―〈巻六・九七九〉
〈これは 家持の気を引こうとした時のもの〉
我が背子が 見らむ佐保道の 青柳を 手折りてだにも 見むよしもがも
《佐保道の あんた見ておる 青柳 せめて一枝 見たいもんやな》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一四三二〉
うち上る 佐保の川原の 青柳は 今は春へと なりにけるかも
《佐保川の 河原の柳 青々と 春が来たんや 春やで春が》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一四三三〉
〈いやいや まだネンネの子 遣るに惜しいか〉
風交り 雪は降るとも 実にならぬ 吾家の梅を 花に散らすな
《風吹いて 雪が降っても 散らしなや まだ実ィ着けへん うちの梅花》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一四四五〉
「郎女さま 家持様が お見えです」
玉桙の 道は遠けど はしきやし 妹を相見に 出でてぞ吾が来し
《遠い道 苦にもせんとに 愛おしい 叔母に逢いに 出かけて来たで》
―大伴家持―〈巻八・一六一九〉
あらたまの 月立つまでに 来まさねば 夢にし見つつ 思ひぞ吾がせし
《ひと月が 経ってもあんた 来んよって 夢にまで見て 待ってたんやで》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一六二〇〉
いそいそと 出迎えに立つ郎女
ふと見ると 顔を赤らめ 目を伏せている大嬢
郎女の頬に 笑みがこぼれる
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