家待・越中編（一）（17）立つ日近づく

【掲載日：平成23年2月4日】

都辺みやこへに　立つ日近づく
　　　　　　　　　飽あくまでに　相見て行かな　恋ふる日多おほけむ


天平十九年〔747〕四月二十日　
四月末日を限っての　　租税目録の中央報告
家持待望の　　上京である
遠路旅故ゆえの　餞はなむけ宴うたげ
四等官目さかん　秦八千島はだのやちしまの館やかた

大嬢おおいらつめ待つ　都への　出いで立ち
内心の喜び　　胸に伏せ
餞はなむけに応える　家持

奈呉なごの海の　沖おきつ白波　しくしくに　思ほえむかも　立ち別れなば
《奈呉なごの海　白波なみ次々に　寄せて来る　名残り次々　出かけ行くんで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八九〕
わが背子せこは　玉たまにもがもな　手に巻きて　見つつ行かむを　置きて行かば惜し
《八千島おまえさん　玉たまやったなら　手巻まいて行く　残して行くん　辛つらいでわしは》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九〇〕

同　四月二十六日　池主館やかた
再度の　餞はなむけ宴うたげ

玉桙たまほこの　道に出で立ち　別れなば　見ぬ日さまねみ　恋しけむかも
《都への　遠い旅路に　出て仕舞もたら　暫しばらく逢えん　寂さみしいこっちゃ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九五〕

わが背子せこが　国へましなば　霍公鳥ほととぎす　鳴かむ五月さつきは　さぶしけむかも
《守殿あんたはん　行って仕舞しもたら　ほととぎす　鳴く時期来ても　楽しないがな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―内蔵縄麻呂くらのつなまろ―〔巻十七・三九九六〕
吾あれなしと　な侘わびわが背子せこ　霍公鳥ほととぎす　鳴かむ五月さつきは　玉たまを貫ぬかさね
《気き落ちしな　わし居おらんかて　ほととぎす　鳴く時期来たら　糸通とししとき》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九七〕

『玉を貫ぬかさね』を聞き
池主　古歌を引き合いに　詠よむ

わが屋戸やどの　花橘たちばなを　花ごめに　玉たまにそ吾あが貫ぬく　待たば苦しみ
《実ィ成るん　待てんよってに　花混まぜて　糸通としするわ　家の花橘たちばな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―石川水通いしかわのみみち―〔巻十七・三九九八〕

宴うたげ名残なごりは　尽きず
守かみ家持館やかたに　席移し　二次の宴うたげ

日増しに　　強くなる　別れの思い
喜び隠しでない　心底しんそこの辛つらさが　歌に滲にじむ

都辺みやこへに　立つ日近づく　飽あくまでに　相見て行かな　恋ふる日多おほけむ
《都行く　日ィ近ちこなった　飽あきるほど　顔合わそうや　寂さみしなるから》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九九〕