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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

歴史編(10)雲だにも

2009年07月28日 | 歴史編
【掲載日:平成21年6月27日】


三輪山を しかも隠すか 雲だにも
          こころあらなむ 隠さふべしや

【初瀬川畔からの三輪山の眺め】


天智称制六年(667) 春 
新たな都 近江大津へ 湖畔の大宮処へ 

白村江はくすきのえの大敗を受け 
 要害の地と定められた新都 
  遷都の列は 延々とつづく 
   輿こし 馬 徒歩かち
それぞれの 歩みは おそい 

幾重にも重なる 平城ならの峰々
 春霞に うすく裾引き 
  うちつづく 道の隈々くまぐま
   若草の萌えたつ 川べり 
こころ 浮き立つ 春なのに 

住み慣れた 飛鳥の地 
 思い出深い 里の山川 
  二人心通わせた 宮の森陰 
舎人とねりらは うつむいて 進む

額田王おおきみよ 歌だ」
中大兄なかのおおえの声が 響いた
「新都へでたつ 寿ことほぎの歌だ」

沈鬱ちんうつな列のあゆみを にがく思う大兄おおえ
額田王ぬかたのおおきみに 命じた

旧都への思いに 沈んでいた額田王おおきみは ハッとした
(われは 歌人なり 
  みなの気持ちを 鼓舞するのが役目 
   ・・・されど いまは そのときではない 
    みなの思いを汲み その心を歌にする 
     それでこそ みなは付いて来る 
      これこそ大兄おおえのため)

味酒うまざけ 三輪みわの山  あをによし 奈良の山の 
  山のに いかくるまで   道のくま いもるまでに
    つばらにも 見つつ行かむを  しばしばも 見けむ山を 
      こころなく 雲の かくさふべしや

《三輪山 奈良山 遠ざかる 
  道まがるたび 隠れ行く 
    見つめときたい いつまでも 
      振り向き見たい 山やのに 
        心無い雲  隠してしまう》 
                         ―額田王―(巻一・一七)
三輪山を しかも隠すか 雲だにも こころあらなむ 隠さふべしや
《あかんがな うちの気持ちを 知ってたら 雲さん三輪山 隠さんといて》 
                         ―額田王―(巻一・一八)
額田王おおきみの真意を知らず
大兄おおえはひとり 唇を噛む




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