【掲載日:平成21年7月13
日】
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あしひきの 山のしづくに 妹待つと
われ立ちぬれぬ 山のしづくに
【大津皇子墓 二上山雄岳頂上】

(遅いぞ 郎女)
大津は 待っていた
(いつも こうだ
わしが 待たされる)
山の端を離れた月が 中空に懸ろうとしている
(来るのか 来ないのか)
木々の葉は 山の湿りを吸い 露と化し 大津を濡らす
あしひきの 山のしづくに 妹待つと われ立ちぬれぬ 山のしづくに
《お前待ち 夜更けの露に 濡れてもた お前待ってて 雫に濡れた》
―大津皇子―(巻二・一〇七)
飛鳥随一の美貌 との誉れ高い
石川郎女
質実剛健 自由闊達 人望豊かな
大津皇子
結ばれるべくしての二人
大津の歌に 郎女は応える
われ待つと 君がぬれけむ あしひきの 山のしづくに 成らましものを
《うち待って あんたが濡れた 山雫 成りたかったな その山雫》
―石川郎女―(巻二・一〇八)
大津は 昂りを覚えた
(「わしの肌を濡らした露に 自分の肌も濡らしたかった」と 言うのか
あの面差しと同じに 蠱惑的な歌)
待ちぼうけの 悔しさは失せ
逢瀬は重なる
この石川郎女 じつは
政敵 草壁皇子の思い人でもあった
鵜野讃良の命を受け
大津の行状を探るは 津守の通
探索は執拗極め ついに密会現場は押さえられた
窮地に立つか 大津皇子
大船の 津守の占に 告らむとは 正しに知りて わが二人寝し
《見つかんの 分かってたんや 始めから 知ってた上で 二人寝たんや》
―大津皇子―(巻二・一〇九)
豪胆大津は 揺るぎもせず

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