【掲載日:平成21年7月29日】
後れ居て 恋ひつつあらずは 追ひ及かむ
道の隈回に 標結へ我が背
【穂積皇子の参籠した崇福寺址の礎石】

「選りによって 赤兄の血を引く 皇子などと」
高市皇子は 苛立っていた
二十歳近く違う異母妹 但馬皇女を 迎えたのは 皇女が 母氷上郎女を 亡くした時だ
親代りの八年 但馬は十五才になっていた
太政大臣・高市の許 政務で 訪れる異母兄穂積皇子に 皇女は 恋の火を灯した
(高市兄様が嫌っていても いいの わたしは)
秋の田の 穂向きに寄れる 片寄りに 君に寄りなな 言痛くありとも
《なにやかや うるそう言われ 辛いけど あんたに寄りたい 稲穂みたいに》
―但馬皇女―(巻二・一一四)
(しばらく 別にするか)
穂積皇子に 天皇の勅が降りた
近江朝鎮魂供養での 志賀の山寺への参籠の命
(離されて たまるものですか)
後れ居て 恋ひつつあらずは 追ひ及かむ 道の隈回に 標結へ我が背
《残されて 泣いてるよりは 追うて行く 通る道々 (追っ手止める)標縄張れあんた》
―但馬皇女―(巻二・一一五)
思わぬ後追いに 憤懣やるかたない 高市
皇女を 離れの部屋に閉じ込める
(ここまで なさるか それでも・・・)
人言を 繁み言痛み 己が世に いまだ渡らぬ 朝川渡る
《あんまりに やかましよって 心決め 一線越えた うちのせい違う》
―但馬皇女―(巻二・一一六)
高市の憂慮をよそに 皇女は 信じた道を行く

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