本の迷宮

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午後の日射し (萩尾望都)

2007-11-14 09:10:51 | 漫画家(は行)
(ビッグゴールド 1994年14号掲載)

これは「イグアナの娘」の単行本(小学館発行PFコミックス)に収録されている作品。(だから画像は「イグアナの娘」の表紙になってます)
「イグアナの娘」も、この「午後の日射し」も50ページの短編だ。
長編が上手い作者は短編も非常に上手い。
たぶん最初に考えたストーリーを練りに練って余分なエピソード部分を削っていって描くのだろう。だから、これらの短編はきっと長編にしようと思えば長編でも十分描いていくことの出来る作品になっているように思う。


さて今回取り上げた「午後の日射し」、
中年の夫婦の何気ない会話から始まる。

居間でテレビの前で新聞を読みながら片手にテレビのリモコンを持ってごろりと寝転がっている夫。
妻はそんな夫の後ろで家計簿をつけている様子。
テレビの中では芸能人の離婚会見らしきものをしている。
妻:ねえ あなた。
夫:んー。
妻:16年も夫婦でいて、
さっぱり別れられるものかしら、
ねえ。
夫は妻の顔を見ようともせずにビールを飲みながらつまらなそうに、当然のように答える。
夫:夫婦なんて他人だよ、
結局。

次のページをめくると、
凍りついた妻の表情・・・。
そして妻の心の中・・・。

そのとたん
さあっと世界の色彩がはがれおちた。

ページ全体に広がるどこにでもあるような住宅街の風景。
しかし、そこには誰もいない。
”色彩のはがれおちた世界”なのだ。


導入部分の2ページで、ここまで表現してくれるのかと思うと、嬉しくなる。
倦怠期を迎えた夫婦の話・・・と言ってしまえばそれまでなのだが、
妻の心の揺れを見事に描ききっている。
そしてまた”絵”に関しては、
”中年”と言われる年代をリアルに表現しているのだ。

夫の頬のたるみ、脂ぎった吹き出物のある顔、頭頂部から白髪が増えつつある頭。前頭部の髪は後退しつつある。体はでっぷりと所謂”中年太り”
妻は二重あごになりつつある顔。体全体も若いころに比べるとかなり肉付きがよくなってきている。
髪型は若いころとあまり変わってないが、それがある意味古臭さも感じられ自分自身が年を取ったことを認めようとしない(したくない)女心を表現している。口元、目の下など時々年を感じてしまう表現になっている。
細かく見ていると、作者がいかに隅々まで計算しつくして描いているかがよくわかる。


不倫願望がほんのちょっぴり顔を覗かすが結局今が一番いい。というラスト。


主人とわたしは他人だけど、
いちばん近い他人だわねえ。


何気ないどこにでもある光景だが、キラリと光る小品だ。


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