本の迷宮

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腹話術 (高橋葉介)

2007-03-05 04:39:08 | 漫画家(た行)
(昭和54年発行)

カバー折り返し部分の説明文より

新鋭の柔らかな感覚が、奇妙な世界を創り出す。
夢の中の散歩のように、無限の世界(イメージ)が広がっていく。
作画の妙、アイデアの新鮮さ!
さあ遊ぼう、幻想の巷に!
さあ酔おう、ロマンの美酒に!
ヨウスケの短編集第一弾。


高橋葉介の初期の作品が13編入っている。


この頃の筆のタッチは今見てもやっぱり素敵だ。

シリアスで不思議な世界もあれば、めちゃくちゃなギャグもある。
髪の毛の表現法なんて筆のタッチで変幻自在。
おどろおどろしい死者の群れも筆でさらさらっと描けばペンで描くよりずっと雰囲気が出る。


「腹話術」は
腹話術士師だった父親が死に、ひとりぼっちになった少年が健気にひとりで生きていこうとするのだが、結局雪の降る街かどで一人さびしく死んでいく。
という哀しい短編。
少年の台詞はない。少年の台詞は全て<腹話術>なのだ。

彼の周りのものたちが彼に話しかける。
ある時は死んだ父親、ある時はカラス、
大きな木も彼を励ますように語りかける。
「胸を張れよ
顔を上げて歩け
もっと大きな街へ行くんだ」

しかし、金もなくお腹もすき、街角で座り込んでしまった少年。
彼の周りのごみ、街灯、ねずみ・・・全てのものが彼に語りかける。
「さみしくなんかなかった」
「一人ぼっちじゃなかった」
「おれたちがいたから」

翌朝、少年は息絶えていた。
しかし、彼の死を悼むかのように街灯たち、周りのモノが唱える。

「アーメン」
「アーメン」
「アーメン」・・・


今読むと、いかにも初期作品だな~っていう感じがする。
初々しくて、作者が実に丁寧に心をこめて描いた作品、っていう感じだ。
読んでいる者の心に何か不思議な感情が湧き上がり、
じわ~っと、透明な哀しみが心の奥底に沈みこんでいく・・・そんな作品。