株式市場は再度の暴落に向かっているのでしょうか。それは当然です。暴落とは繰り返すものだからです。しかし、暴落から次の暴落までの相場上昇は十二分に長く、市場が暴落した際の痛みを相殺できます。
前回の暴落から7年以上が経過し、株価指数は過去最高を更新しました。しかし、市場は昨年5月から停滞し、今年初めには瞬間的に10%の下落を演じました。弱気派は、暴落が差し迫っているのではないかと考え始めています。
恐らくそうではないでしょう。暴落は、少数の例外を除いて景気後退を伴っており、現時点の景気後退の可能性は極めて小さい。従って、暴落が起こるためにはしばらく時間がかかるでしょう。経済成長率は低迷していた2015年と比較して加速しており、強気相場が再開する見込みです。ただし、株価上昇ペースは鈍く、恐らく10%未満になるでしょう。
ちなみに、景気後退は民間の非営利団体である全米経済研究所(NBER)が定義している。ところで、株式市場の暴落とは何だろうか。一般的に弱気相場は市場の20%以上の下落とみなされているが、弱気相場は常に暴落なのだろうか。
弱気相場の期間が12カ月未満の場合、本誌は暴落ではないとみています。例えば、2011年4月終盤から10月初旬にかけてS&P500指数は20%下落しました。しかし、その後の数カ月で相場は反発し、2012年1月には新高値まで上昇しました。インデックス運用の投資家が少なくとも12カ月保有していたならば、10%未満の損失は被っただろうが、20%の損失にはなっていないはずです。
本誌は、S&P500指数の直近ピークからの20%以上の下落期間が最低12カ月続いた場合に、暴落と定義しています。しかし、この定義によると、過去35年間で景気後退を伴っていない暴落が1度だけあります。1987年8月から1988年8月までの20%以上の下落です。この下落は、1日の下落率としてはいまだに過去最大のブラックマンデー(1987年10月19日)によるものです。ブラックマンデー前に1日の下落率として匹敵するのは、その58年前の1929年10月の2桁前半の下落となります。仮に、1日の暴落が58年毎に繰り返されるとすると、次回は2045年ということになるのです。
ブラックマンデーを例外とすると、過去36年間では、3回の暴落と1回の暴落に近い下落があり、いずれも過去4回の景気後退の時期と一致しています。
図に示した暴落は、最初が1981~82年の景気後退と一致しており、2度目の1990~91年の景気後退は暴落に近い下落を引き起こしました(1990年9月までのS&P500指数の下落率は17%)。1989~90年にかけての相場下落が暴落に至らなかった理由は、1989年9月の市場のバリュエーションがまだ低かったためで、S&P500指数の過去12カ月の企業業績に基づく実績株価収益率(PER)は14.1倍でした。
2000年3月に実績PERは27.8倍へ上昇しており、2001年の緩やかな景気後退に伴った市場の激しい暴落の一因となりました。市場は、2001年9月11日のテロ攻撃で下落したと思いがちですが、実際には2001年3月までの12カ月間にS&P500指数は20%超下落しており、9/11以降の下落率はわずかその半分です。2008~09年の大不況に伴う暴落は、これまでで最大でした。
• 暴落が差し迫っていない理由
しかし、前回の暴落が始まった2007年7月と現在を比較すると、景気後退、ひいては暴落が生じないことが示唆されています。
米連邦準備制度理事会(FRB)が維持してきた超低金利が、金余りの温床となっており、金利が調整されれば一般的には景気後退につながることになります。しかし、これまでのところはFRBも経済も幸運で、国内に資金過剰があったとしても、差し迫った危険を警告するほどではありません。
株式市場の現在のPERは20.3倍で2007年7月の16.3倍の方が低くなっています。しかし、ペンシルベニア大学ウォートンスクールの金融の教授であるジェレミー・シーゲル氏は、2007年7月は金融セクターの高水準の利益を反映しており、現在のPERは、景気を刺激している低いエネルギー価格によるエネルギーセクターの利益の欠如を反映していると指摘しています。
株式におけるもっとわかりやすい指標は、米国で配当を支払っている1400社超をカバーするウィズダムツリー・ディビデンド・インデックスの配当利回りでしょう。2007年7月の同指数の配当利回りは2.9%で、30年債利回りは5.1%でした。現在の30年債利回りは2.6%へ低下しており、投資家が株価を押し上げたために同インデックスの配当利回りは2.6%を下回っていると考えられるかもしれません。しかし、実際は3.2%で、株価が比較的保守的に評価されていることを示しています。
また周知のように、2008~09年の暴落の主因は住宅価格の暴落でした。住宅価格は上昇してきていますが、現在の水準は2007年を大幅に下回っています。最も直近の統計である4月をみると、中古住宅価格の中央値は、現在の23万2500ドルに対して、2007年7月当時の価格は現在の26万3560ドル相当にあたります。
原油価格も景気後退と密接に関連しています。2007年当時の価格は現在の1バレル=85ドル相当と上昇傾向にあった一方で、現在は49ドルです。
フラットなイールドカーブまたは逆イールドカーブも差し迫った景気後退の兆候ですが、現状のイールドカーブは比較的正常です。
海外の景気後退によってもたらされる危険もあります。中国経済がマイナス成長に陥った場合、または、日本とユーロ圏の景気が停滞した場合、米国の輸出が間違いなく打撃を受けることになります。しかし、最近の記録では、海外の景気後退が原因となった米国の景気後退はありません。
経済的な理由を除くと、景気後退を引き起こすようなショックは異例で、過去の例から教訓を引き出すのは困難です。仮に、ドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利した場合、市場が売られる可能性はあります。しかし、それが本格的な暴落につながるか否かは、トランプ氏の政策が景気後退を引き起こすか否かにかかっています。それには反論もあるでしょうが、1930年のスムート・ホーリー法(関税引き上げ法)は大恐慌の程度を悪化させたとはいえ、そのきっかけにはならなかったのです。ドナルド・トランプ氏が大統領に就任して税金を引き下げたとしたら、長期的には財政赤字拡大を意味しますが、短期的には株式市場にとって好材料になるでしょう。
• むしろ株価上昇は続く
景気後退が差し迫っておらず暴落の公算が小さいとすれば、株式市場の見通しはどのようなものなのでしょうか。強気相場の最もおいしい部分は既に過去のものでしょう。しかし、経済成長が続いた場合、市場は10%未満の上昇を達成できる可能性があります。2015年第4四半期の国内総生産(GDP)成長率は前期比年率2%で、2014年の2.5%から減速しました。当然ながら、S&P500指数は2015年下半期に下落気味の横ばい圏にとどまりました。
2015年の景気減速は個人消費の減速が理由でしたが、今年4月の力強い小売売上高は個人消費の回復が始まったことを示唆しています。背景には、賃金を押し上げている労働市場の逼迫(ひっぱく)があります。また、中古住宅販売件数の着実な増加と、新築住宅販売件数の4月の急増も寄与しています。新築住宅販売は、遅れて家具などの購入にも反映されます。これらの好環境によって、2016年のGDP成長率は2.5%へ加速する見込みです。
これは株式市場にとって好材料です。本誌の調査によると、過去20年間でGDP成長率が前年同期を上回ったケースが35四半期あり、各四半期末のS&P500指数は数回の例外を除いて1年前を上回っていました。
人生の中で、死、税金、株式市場の暴落は確実なものですが、死は近代の医薬品によって先延ばしができ、税金は繰り延べが可能で、市場の暴落は経済成長によって先送りできます。いずれも遅かれ早かれ実現しますが、投資家は暴落の損害を軽減できます。市場のバリュエーションが高過ぎるように見え、インフレ調整後の住宅価格が前回のピークを大幅に上回り、イールドカーブがフラットな状態または逆イールドカーブの状態にあり、原油価格が100ドルに向けて急上昇した場合には、投資家は全てを売って空売りするというディフェンシブな手段を望むかもしれません。しかし、現状では強気相場がまだ終わっていない可能性が高いのです。(ソースWSJ)
前回の暴落から7年以上が経過し、株価指数は過去最高を更新しました。しかし、市場は昨年5月から停滞し、今年初めには瞬間的に10%の下落を演じました。弱気派は、暴落が差し迫っているのではないかと考え始めています。
恐らくそうではないでしょう。暴落は、少数の例外を除いて景気後退を伴っており、現時点の景気後退の可能性は極めて小さい。従って、暴落が起こるためにはしばらく時間がかかるでしょう。経済成長率は低迷していた2015年と比較して加速しており、強気相場が再開する見込みです。ただし、株価上昇ペースは鈍く、恐らく10%未満になるでしょう。
ちなみに、景気後退は民間の非営利団体である全米経済研究所(NBER)が定義している。ところで、株式市場の暴落とは何だろうか。一般的に弱気相場は市場の20%以上の下落とみなされているが、弱気相場は常に暴落なのだろうか。
弱気相場の期間が12カ月未満の場合、本誌は暴落ではないとみています。例えば、2011年4月終盤から10月初旬にかけてS&P500指数は20%下落しました。しかし、その後の数カ月で相場は反発し、2012年1月には新高値まで上昇しました。インデックス運用の投資家が少なくとも12カ月保有していたならば、10%未満の損失は被っただろうが、20%の損失にはなっていないはずです。
本誌は、S&P500指数の直近ピークからの20%以上の下落期間が最低12カ月続いた場合に、暴落と定義しています。しかし、この定義によると、過去35年間で景気後退を伴っていない暴落が1度だけあります。1987年8月から1988年8月までの20%以上の下落です。この下落は、1日の下落率としてはいまだに過去最大のブラックマンデー(1987年10月19日)によるものです。ブラックマンデー前に1日の下落率として匹敵するのは、その58年前の1929年10月の2桁前半の下落となります。仮に、1日の暴落が58年毎に繰り返されるとすると、次回は2045年ということになるのです。
ブラックマンデーを例外とすると、過去36年間では、3回の暴落と1回の暴落に近い下落があり、いずれも過去4回の景気後退の時期と一致しています。
図に示した暴落は、最初が1981~82年の景気後退と一致しており、2度目の1990~91年の景気後退は暴落に近い下落を引き起こしました(1990年9月までのS&P500指数の下落率は17%)。1989~90年にかけての相場下落が暴落に至らなかった理由は、1989年9月の市場のバリュエーションがまだ低かったためで、S&P500指数の過去12カ月の企業業績に基づく実績株価収益率(PER)は14.1倍でした。
2000年3月に実績PERは27.8倍へ上昇しており、2001年の緩やかな景気後退に伴った市場の激しい暴落の一因となりました。市場は、2001年9月11日のテロ攻撃で下落したと思いがちですが、実際には2001年3月までの12カ月間にS&P500指数は20%超下落しており、9/11以降の下落率はわずかその半分です。2008~09年の大不況に伴う暴落は、これまでで最大でした。
• 暴落が差し迫っていない理由
しかし、前回の暴落が始まった2007年7月と現在を比較すると、景気後退、ひいては暴落が生じないことが示唆されています。
米連邦準備制度理事会(FRB)が維持してきた超低金利が、金余りの温床となっており、金利が調整されれば一般的には景気後退につながることになります。しかし、これまでのところはFRBも経済も幸運で、国内に資金過剰があったとしても、差し迫った危険を警告するほどではありません。
株式市場の現在のPERは20.3倍で2007年7月の16.3倍の方が低くなっています。しかし、ペンシルベニア大学ウォートンスクールの金融の教授であるジェレミー・シーゲル氏は、2007年7月は金融セクターの高水準の利益を反映しており、現在のPERは、景気を刺激している低いエネルギー価格によるエネルギーセクターの利益の欠如を反映していると指摘しています。
株式におけるもっとわかりやすい指標は、米国で配当を支払っている1400社超をカバーするウィズダムツリー・ディビデンド・インデックスの配当利回りでしょう。2007年7月の同指数の配当利回りは2.9%で、30年債利回りは5.1%でした。現在の30年債利回りは2.6%へ低下しており、投資家が株価を押し上げたために同インデックスの配当利回りは2.6%を下回っていると考えられるかもしれません。しかし、実際は3.2%で、株価が比較的保守的に評価されていることを示しています。
また周知のように、2008~09年の暴落の主因は住宅価格の暴落でした。住宅価格は上昇してきていますが、現在の水準は2007年を大幅に下回っています。最も直近の統計である4月をみると、中古住宅価格の中央値は、現在の23万2500ドルに対して、2007年7月当時の価格は現在の26万3560ドル相当にあたります。
原油価格も景気後退と密接に関連しています。2007年当時の価格は現在の1バレル=85ドル相当と上昇傾向にあった一方で、現在は49ドルです。
フラットなイールドカーブまたは逆イールドカーブも差し迫った景気後退の兆候ですが、現状のイールドカーブは比較的正常です。
海外の景気後退によってもたらされる危険もあります。中国経済がマイナス成長に陥った場合、または、日本とユーロ圏の景気が停滞した場合、米国の輸出が間違いなく打撃を受けることになります。しかし、最近の記録では、海外の景気後退が原因となった米国の景気後退はありません。
経済的な理由を除くと、景気後退を引き起こすようなショックは異例で、過去の例から教訓を引き出すのは困難です。仮に、ドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利した場合、市場が売られる可能性はあります。しかし、それが本格的な暴落につながるか否かは、トランプ氏の政策が景気後退を引き起こすか否かにかかっています。それには反論もあるでしょうが、1930年のスムート・ホーリー法(関税引き上げ法)は大恐慌の程度を悪化させたとはいえ、そのきっかけにはならなかったのです。ドナルド・トランプ氏が大統領に就任して税金を引き下げたとしたら、長期的には財政赤字拡大を意味しますが、短期的には株式市場にとって好材料になるでしょう。
• むしろ株価上昇は続く
景気後退が差し迫っておらず暴落の公算が小さいとすれば、株式市場の見通しはどのようなものなのでしょうか。強気相場の最もおいしい部分は既に過去のものでしょう。しかし、経済成長が続いた場合、市場は10%未満の上昇を達成できる可能性があります。2015年第4四半期の国内総生産(GDP)成長率は前期比年率2%で、2014年の2.5%から減速しました。当然ながら、S&P500指数は2015年下半期に下落気味の横ばい圏にとどまりました。
2015年の景気減速は個人消費の減速が理由でしたが、今年4月の力強い小売売上高は個人消費の回復が始まったことを示唆しています。背景には、賃金を押し上げている労働市場の逼迫(ひっぱく)があります。また、中古住宅販売件数の着実な増加と、新築住宅販売件数の4月の急増も寄与しています。新築住宅販売は、遅れて家具などの購入にも反映されます。これらの好環境によって、2016年のGDP成長率は2.5%へ加速する見込みです。
これは株式市場にとって好材料です。本誌の調査によると、過去20年間でGDP成長率が前年同期を上回ったケースが35四半期あり、各四半期末のS&P500指数は数回の例外を除いて1年前を上回っていました。
人生の中で、死、税金、株式市場の暴落は確実なものですが、死は近代の医薬品によって先延ばしができ、税金は繰り延べが可能で、市場の暴落は経済成長によって先送りできます。いずれも遅かれ早かれ実現しますが、投資家は暴落の損害を軽減できます。市場のバリュエーションが高過ぎるように見え、インフレ調整後の住宅価格が前回のピークを大幅に上回り、イールドカーブがフラットな状態または逆イールドカーブの状態にあり、原油価格が100ドルに向けて急上昇した場合には、投資家は全てを売って空売りするというディフェンシブな手段を望むかもしれません。しかし、現状では強気相場がまだ終わっていない可能性が高いのです。(ソースWSJ)
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