★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ベルナルト・ハイティンク指揮ロンドン・フィルのホルスト:組曲「惑星」

2022-04-11 12:09:06 | 管弦楽曲


ホルスト:組曲「惑星」

指揮:ベルナルト・ハイティンク

管弦楽:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

合唱:ジョン・オールディス女声合唱団

録音:1970年3月、ロンドン・ウェンブリー

LP:日本フォノグラム(フォンタナ・レコード) PL‐1116

 このLPレコードで指揮しているベルナルト・ハイティンク(1929年―2021年)は、オランダ出身の指揮者である。年配のリスナーならハイティンクの名を聞くと、懐かしい気分に浸れることと思う。これまでの来日回数は10回を超えていた。2019年ルツェルン音楽祭でのウィーン・フィルとの共演を最後に引退を発表した後、2021年10月21日に92歳で死去した。そして、その長い指揮者人生の経歴が輝かしいことも特筆される。オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団首席指揮(1955年―1961年)、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団常任指揮者(1961年―1988年)、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者(1967年―1979年)、ロイヤル・オペラ・ハウス音楽監督 (1987年―2002年)、EUユース管弦楽団音楽監督(1994年―2000年)、シュターツカペレ・ドレスデン首席指揮者(2002年―2004年)、そしてシカゴ交響楽団首席指揮者(2006年―2010年)と指揮者活動を展開してきたが、中でも重要なのがアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団において常任揮者を務めていたときである。1964年まではオイゲン・ヨッフム(1902年―1987年)と双頭体制で臨んでいたが、それ以降は単独で常任指揮者を務めた。このLPレコードは、丁度そのときの録音であり、61歳と指揮者として最も円熟した演奏が聴ける時期だけに、その演奏内容を聴くと非の打ち所がないほど完璧な演奏内容となっていることが聴き取れる。その説得力のある指揮ぶりは、今聴いてみても誰もが納得のいくものに仕上がっているのに感服せざるを得ない。それにしても何度聴いてもホルスト:組曲「惑星」はユニークな魅力に溢れた曲だと思う。太陽系の惑星の8つの天体のうち、地球を除いた7つの天体(水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星)からなる全7曲で構成される管弦楽組曲。作曲時期は1914年~1916年であり、当時、冥王星はまだ発見されておらず入っていない。冥王星は1930年になり第9番目の惑星として発見されたが、2006年、太陽系外縁天体内のサブグループ(冥王星型天体)の代表例とされて準惑星に区分され、惑星ではなくなってしまう。つまりホルストが作曲した当時が正解だったわけで、何とも皮肉な話ではある。グスターヴ・ホルスト(1874年―1934年)は、イギリスの作曲家。代表作はこの「惑星」が挙げられるあるが、合唱のための曲を多く遺し、またイングランド各地の民謡や東洋的な題材を用いた作品、吹奏楽曲でも知られる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇イ・ムジチ合奏団のテレマン名演集

2022-04-07 09:52:01 | 古楽


テレマン:フルート、弦楽と通奏低音のための組曲イ長調
       (フルート:セヴェリーノ・ガッツェルローニ)
     ヴィオラ、弦と通奏低音のための協奏曲ト長調
       (ヴィオラ:チノ・ゲダン)
     3つのヴァイオリン、弦と通奏低音のための協奏曲ヘ長調
      <ターフェルムジーク第2集第3番>
        (ヴァイオリン:フェリックス・アーヨ/アルノルド・アポストーリ/
        イタロ・コランドレア)

弦楽合奏:イ・ムジチ合奏団

チェンバロ:マリア・テレサ・ガラッティ

LP:日本ビクター(フィリップス) SFL‐8564(802・864・LT)

 イ・ムジチ合奏団は、1952年にローマの聖チェチーリア音楽院の卒業生12名が集まって結成された、バロック音楽を中心とした室内弦楽合奏団である。ヴィヴァルディの「四季」の録音は、当時大ベストセラーとなり、クラシック音楽ファンでなくても名前が知られたほどの存在であった。ラジオ放送から流れるバロックの曲の大半がイ・ムジチ合奏団の演奏であったことを思い出す。そのイ・ムジチ合奏団がテレマンの名曲を録音したのが今回の一枚。テレマンは、バッハより4年早く北ドイツのマクデブルグで生まれた。その当時は、バッハよりテレマンの方が人気が高かったことで知られる。このLPレコードのライナーノートで服部幸三氏は、当時の有名な詩人ヨハン・クリストフ・ゴットシェトの次のような言葉を紹介している。「テレマンは、ただ音楽の専門家だけに面白く思えるような回りくどい難しさを避け、快いひびきの変化を重んじる。そして、これ以上に賢明なことはあろうか?なぜなら、音楽は本来人を楽しませるものだから、額に皺寄せて聴いたあげく、不承不承ながら感心するような作品を書くひとよりも、聴き手に快い感情と満ち足りた思いを抱かせるような人の方が、より賞賛に値するのだ」。これらの言葉は、何かバッハを皮肉っているようにも受け取れる。それだけ当時のテレマンの人気が高かったということだろう。このLPレコードでのイ・ムジチ合奏団のテレマンの演奏は、正に一部の隙のない完璧な名演を聴かせている。何と表現したら適切なのか分らないような豊穣でしかも輝かしい音がリスナーの目の前に悠然と展開する。至福の一時とはこのことなのかな・・・とも思えるような最上の演奏なのである。中でもフルート、弦楽と通奏低音のための組曲イ長調が絶品。ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681年―1767年) は、後期バロック音楽を代表するドイツの作曲家で、対位法を主体とする後期バロック様式からホモフォニーによる古典派様式への橋渡しをした作曲家であった。1721年、北ドイツのハンブルクに居を構えた。ここでテレマンは、教会のための音楽とオペラ劇場の作曲家として活活躍することになる。1732年に、バロックの器楽合奏曲のあらゆる形式を網羅した「ターフェルムジーク」の出版を予告すると、100人を超えるドイツの諸侯と音楽家だけではなく、北はオスロやコペンハーゲン、南はパリやリオン、さらに海を越えたロンドンからも注文が殺到したというほどの人気を誇った作曲家であった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇イーゴリ・マルケヴィチ指揮ロンドン交響楽団のチャイコフスキー:交響曲「マンフレッド」

2022-04-04 09:50:26 | 交響曲


チャイコフスキー:交響曲「マンフレッド」

指揮:イーゴリ・マルケヴィチ

管弦楽:ロンドン交響楽団

録音:1963年11月、ロンドン

発売:1980年

LP:日本フォノグラフ(フィリップスレコード) 13PC‐235(835 250LY)

 このLPレコードで指揮をしているイーゴリ・マルケヴィチ(1912年―1983年)は、帝政ロシア(現ウクライナ)生まれの名指揮者。育ちはスイスであるが、後にフランスに渡りナディア・ブーランジェのもとで作曲およびピアノを学び、まず作曲家としてスタートを切った。18歳でアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮して、指揮者としてのデビューも果たした。チャイコフスキーやムソルグスキーなどロシアものの作品の指揮を得意としていた。1960年には初来日し、ストラヴィンスキーの春の祭典などの指揮では、当時の日本の楽壇に大きな影響を与えた。以降度々来日し、日本での人気も高かった指揮者の一人であった。メリハリの効いた颯爽とした指揮ぶりは、当時の日本の多くのファンを魅了したものである。このLPレコードでのマルケヴィチの指揮ぶりは、正に自身の特徴を最大限発揮しており、鮮やかな色彩感を伴った演奏スタイルは、今日に至るまでチャイコフスキーの交響曲「マンフレッド」の代表的録音であると言って過言でないほど。ところで交響曲「マンフレッド」は、交響曲と名付けられていても第1番~第6番には数えられずに、チャイコフスキーが1885年5月から9月にかけて書き上げた管弦楽曲(交響詩風交響曲)で、バイロンの劇詩「マンフレッド」に基づく標題交響曲という位置づけになっている。交響曲第4番と第5番の間に作曲されたが、番号が付けられていないのである。この曲の正式な曲名は、バイロンの劇的詩による4つの音画の交響曲「マンフレッド」ロ短調作品58。バラキレフに献呈され、1886年3月にモスクワで初演された。作曲者によって4手ピアノ版も作成されている。もともとバラキレフ自身が作曲を思いついたが、何故か自身では作曲せず、チャイコフスキーに作曲を勧め完成したもの。バイロン卿(1788年―1824年)が書いた「マンフレッド」は、自我の苦悩を描いた3幕10場、約3000行からなる長編詩劇。「奇怪な罪を犯し、悶々として世界を放浪する孤独厭世のマンフレッド伯が、アルプスの山中に精霊・魔女を呼んで、忘却を求めるが、与えられず、自殺も許されず、遂に予言の時が来て、悪魔の手に連れ去られる」というのが筋。シューマンも音楽劇「マンフレッド」を作曲しており、その中の「序曲」は演奏会でしばしば演奏される。チャイコフスキーの交響曲「マンフレッド」の評価は、人により異なるようだ。昔はよく演奏された曲のように思うが、どうも最近あまり聴かれないのは少々寂しい気もする。(LPC)

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