★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇外山雄三:ラプソディー&子守唄/小山清茂:管弦楽のための木挽歌/尾高尚忠:フルート協奏曲

2024-03-11 09:41:10 | 管弦楽曲


外山雄三:ラプソディー
小山清茂:管弦楽のための木挽歌
外山雄三:子守唄
尾高尚忠:フルート協奏曲

指揮:岩城宏之

管弦楽:NHK交響楽団

フルート:吉田雅夫

録音:昭和36年1月、文京公会堂(外山雄三、小山清茂)
   昭和36年4月、文京公会堂(尾高尚忠)

発売:1980年

LP:キングレコード GT9322

 このLPレコードは、日本人による作曲、演奏をを収録したシリーズの一枚である。収録曲は、いずれも当時よくラジオから流れていた曲であり、私などは、曲目や演奏家を目にしただけで、懐かしい思いが込み上げてくる。最初の外山雄三(1931年―2023年):ラプソディーは、手まり唄(あんたとこどこさ)に始まり、ソーラン節、炭坑節、串本節、さらには信濃追分と続く。当時の日本人なら誰もが知っていた民謡に基づいた旋律が奏でられ、ただそれだけで嬉しくなってしまう。そして2部では、八木節が軽快な打楽器によって奏でられるが、特にオーケストラとの調和が見事であり、日本人なら、聴いていて自然に踊り出したくなるほど。この曲はNHK交響楽団の海外公演などでも演奏され、日本情緒たっぷりな曲に、当時の海外の聴衆を魅了したという。小山清茂(1914年―2009年):管弦楽のための木挽歌は、九州民謡の木挽唄を主題にした、一種の変奏曲となっており、全体は4つの部分からなっている。第1部は、ヴァイオリンとヴィオラが鋸の音を模倣し、チェロが主題を奏でる。第2部は、太鼓を使った盆踊り。第3部は、早い5拍子の爽やかな印象の曲。第4部は、金管楽器や打楽器が活躍する軽快な曲。外山雄三:子守唄は、五木の子守唄をベースに、たっぷりと歌うように書かれた、古の情緒の雰囲気が堪らなくいい。尾高尚忠(1911年―1951年):フルート協奏曲は、急・緩・急の3楽章からなる実に爽やかな曲であり、戦後日本の貧しくあるとも、伸び伸びとした社会状況を反映したような雰囲気が何とも好ましい。このLPレコードで演奏している吉田雅夫(1915年―2003年)のフルートの音色がこれまた絶品であり、曲、演奏ともこの曲のベストと言えよう。このLPレコードには、作曲家、演奏家とも懐かしい名前が登場しているが、ライナーノートの筆者にも、戦後のクラシック音楽界を牽引した林 光(1931年―2012年)と柴田南雄(1916年―1996年)の名前を見つけることができる。指揮の岩城宏之(1932年―2006年)は、東京都出身。東京芸術大学音楽学部器楽科打楽器部で学ぶ。1960年NHK交響楽団世界一周演奏旅行では指揮者陣のひとりとして同行、ヨーロッパ・デビューを果たす。1969年NHK交響楽団正指揮者、1987年メルボルン交響楽団終身桂冠指揮者、1988年オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)音楽監督に就任。1990年フランス芸術文化勲章を受章。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇巨匠ハンス・クナッパーツブッシュ75歳誕生記念の「ワーグナー・アルバム」

2024-02-08 09:38:20 | 管弦楽曲


ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死
      楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から前奏曲
      「ジークフリート牧歌」
      舞台神聖祭典劇「パルジファル」から前奏曲

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ

管弦楽:ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1976年7月

LP:日本コロムビア OW‐8034‐AW

 このLPレコードは、ワーグナーの生誕150年と、「クナ」の愛称で親しまれた指揮者のクナッパーツブッシュ(1888年―1965年)の75歳の誕生日を記念して、1962年11月に録音された「ワーグナー・アルバム」からの1枚。クナッパーツブッシュは、ドイツ・ラインラント地方の都市エルバーフェルトの生まれで、ボン大学およびケルン音楽大学で学ぶ。1922年(34歳)、ブルーノ・ワルターの後任としてミュンヘンのバイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任。1936年からは、ウィーン国立歌劇場においてワーグナーの楽劇などの指揮を行う。第2次世界大戦後の1947年、バンベルク交響楽団を指揮し、本格的指揮活動を再開。1951年からはバイロイト音楽祭に出演。その後は、ドイツ国内はもとより、世界各地において演奏活動を展開した。ドイツ古典派、ロマン派の曲の演奏を得意とし、特にワーグナーの指揮にかけては当時、世界最高の指揮者として評価されていた。一見、朴訥かに見えるその指揮ぶりであるが、曲の内面に隠された本質を掴み、それを少しの虚飾もなしに表現することにより、聴衆からは圧倒的な支持を得ていた。中でも、1922年以来、43年間にわたり音楽監督務めたバイエルン国立歌劇場のあるミュンヘンにおいて、「クナッパーツブッシュはミュンヘンを“第二の故郷”と呼び、ミュンヘン市民はクナッパーツブッシュを“われらのクナ”と言って敬愛していた」と、宇野功芳氏が、このLPレコードのライナーノートで紹介している。このLPレコード収められたワーグナーの作品において、手兵のミュンヘン・フィルを指揮するクナッパーツブッシュは、持てる自己の特徴を全ての曲で遺憾なく発揮。朴訥としてはいるが、人間味のある演奏内容は、聴き続ければ続けるほど一層深まっていくのである。いずれの曲も、これ以上遅いテンポは考えられないほどのゆっくりしたテンポで始まり、何とそのテンポはそのまま延々と続いていく。そしてクライマックスになるとその持てるエネルギーを一挙に解き放つのだ。外面的な装飾はできるだけ排除して、曲の本質のみをリスナーに直接伝える。そんなクナッパーツブッシュの手に掛かると、リスナーは魔法にでも掛けられたかのように、ぐいぐい引き付けられて、もうその魔力から離れられなってしまうから不思議だ。クナッパーツブッシュが不世出のワーグナー指揮者だったことが、この録音から充分に聴き取れる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・モーツァルト合奏団のモーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」

2024-01-15 11:05:56 | 管弦楽曲


モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」

指揮:ウィリー・ボスコフスキー

管弦楽:ウィーン・モーツァルト合奏団

ポストホルン:アドルフ・ホラー

発売:1973年

LP:ロンドンレコード L18C5066

 このLPレコードは、モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」。この曲は、いろいろな意味で、リスナーの注目を集める曲である。その中の一つが、モーツァルトがポストホルンをどうしてセレナードに採り入れたのかということだ。ポストホルンとは、郵便馬車のラッパのことを指す。通常なら音楽の楽器には到底使われることのないはずである。そこで、推理されたのは、当時、ラッパ吹きの名人が居て、モーツァルトが、この名人に一度ポストホルンを吹かしてみたらどう吹きこなすか、聴いてみたいという、モーツァルト一流の茶目っ気から採用したという説。もう一つは、この頃モーツァルトは、大司教との折り合いが悪くなっており、ザルツブルクを去りたいという自分の思いを伝えようとして、当時唯一の交通機関であった馬車を象徴するポストホルンを採用したという説だ。また、第5楽章がニ短調であることに象徴されるように、どことなく全体的に憂愁の感情が打ち出され、華やかなセレナードからすると違和感が残る。これにも、モーツァルトはザルツブルクを去って行く知人への思いを託したからである、という説もある。しかし、いずれも真相は闇の中ということで未だ持って解明には至っていない。いずれにせよ、このセレナードは、マンハイムとパリへの旅行でモーツァルトが得た経験が巧みに取り入れられている名曲として人気のあることだけは確かで、今でもコンサートでよく演奏される。このLPレコードでは、ウィーン生まれ、ウィーン育ちの生粋のウィーン子であるウィリー・ボスコフスキーの指揮の下、ウィーン・モーツァルト合奏団が名演奏を繰り広げている。ウィリー・ボスコフスキー(1909年―1991年)は、ウィーン・フィルのコンサートマスターを務めたかたわら、指揮活動も行ったことで知られる。ウィーン国立音楽アカデミーに9歳で入学、「フリッツ・クライスラー賞」を受賞。学生時代から各地でソロ活動を行う。卒業後は、1932年ウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団。翌年にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団に入団。ヴァイオリニストとしての奏法は、ウィーン流派として、当時彼の右に出るものはないと言われるほど完璧なものであった。このLPレコードでは、ヴァイオリニストとしてではなく、指揮者の立場でウィーン流派としての真髄を聴かせてくれている。ここでの演奏内容の何と雅であることか。“古き良き時代”という言葉が、思わず頭をよぎる名録音だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ロベール・カザドシュとユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団のフランク:交響的変奏曲/ダンディ:フランス山人の歌による交響曲

2023-11-20 09:44:16 | 管弦楽曲


フランク:ピアノとオーケストラのための「交響的変奏曲」
ダンディ:ピアノとオーケストラのための「フランス山人の歌による交響曲」

ピアノ:ロベール・カザドシュ

指揮:ユージン・オーマンディ

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

録音:1959年8月3日

発売:1977年

LP:CBS/SONY 13AC 293

 このLPレコードには、フランスの作曲家のフランクと、その弟子のダンディとがそれぞれ作曲した、ピアノとオーケストラのための作品が2曲収められている。フランク:交響的変奏曲は、全体が3部に分けられるピアノとオーケストラのための変奏曲であるが、通常の変奏曲のように一つのテーマを基に変奏曲が展開されるのではなく、ピアノとオーケストラがそれぞれ異なるテーマの変奏曲を奏でていく。このため通常の変奏曲と思って聴くと面食らうことになる。ピアノが独自のメロディーを弾いていたかと思うと、次の瞬間には、ピアノとオーケストラが調和して、あたかもピアノ協奏曲であるかのような響きを聴かせる。「フランクの最も飾らない、最も禁欲主義的とも言える作品である。ことによるとフランクは自分自身を喜ばせるために、この曲をかいたのではないか」とライナーノートに高橋昭氏が書いているように、フランクの独白のような独特の響きがあり、好き嫌いが分かれる曲ではなかろうか。一方、ダンディ:フランスの山人の歌による交響曲は、3楽章からなる作品で、牧歌的で雄大な風景画を思わせ、誰もが直ぐに好きになれそうな曲。ピアノとオーケストラのための作品であるが、何故か交響曲という名称が付けられている。ダンディが愛したラングドック地方のセヴァンヌの山々を眺め、書き留めた民謡を基につくられた曲であり、「セヴァンヌ交響曲」とも言われることがある。フランクがよく使った循環形式による、愛すべき作品に仕上がっている。フランス出身のロベール・カサドシュ(1899年―1972年)は、このLPレコードで誠実感に溢れた、暖かみのある、透き通った演奏に徹しており、これら2曲の素晴らしさ余すところなくリスナーに届けてくれる。ロベール・カサドシュは、フランス・パリ出身。パリ音楽院でルイ・ディエメに師事。世界各地で頻繁にギャビー夫人と演奏し録音した。1935年からアメリカ音楽院で教鞭を執り、第二次世界大戦中は米国に亡命。戦後は1950年に帰国し、1952年までアメリカ音楽院の院長を務めた。ギャビー夫人と息子ジャンとの共演により、モーツァルトの「2台ピアノのための協奏曲」や「3台ピアノのための協奏曲」を録音している。カザドシュの演奏は、曲に真正面から取り組み、決して誇張せず、知的で洗練された情感で高い評価を得ていた。作曲家としては7曲の交響曲、3曲のピアノ協奏曲、多数の室内楽曲などを遺している。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ルドルフ・ケンペ 指揮ロイヤル・フィルのスメタナ:歌劇「売られた花嫁」からの音楽(「序曲」「ポルカ」「ブリアント」「道化師の踊り」)ほか

2023-10-30 09:42:22 | 管弦楽曲


スメタナ:歌劇「売られた花嫁」からの音楽(「序曲」「ポルカ」「ブリアント」「道化師の踊り」)

       指揮:ルドルフ・ケンペ
     
       管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番/ドヴォルザーク:スラブ舞曲第10番

       指揮:ギーカ・ズドラフコヴィッチ

       管弦楽:ベルグラード・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30192

 指揮のルドルフ・ケンペ(1910年―1976年)は、ドイツのドレスデン近郊の生まれ。ドレスデン音楽大学で学ぶ。1929年、ゲヴァントハウス管弦楽団のオーボエ奏者を務め、その後、歌劇場の指揮者となる。1950年ドレスデン国立歌劇場の音楽監督、1952年バイエルン国立歌劇場の音楽監督に就任。その後、バイロイト音楽祭に登場。さらに、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の各首席指揮者に就任し、最後は、BBC交響楽団の常任指揮者を務めた。来日は一度も果たさなかったが、録音により日本でも多くのファンを有していた。その指揮ぶりは、ドイツの正統的なものであり、少しの誇張もない。このため、一面では特徴に乏しい指揮ともみられることがあり、必ずしも高い評価ばかりではなかった。しかし、遺された録音より、最近になって、そのドイツの正統的な演奏ぶりが再評価され、話題を集めたことは記憶に新しい。ケンペは、このLPレコードでは、スメタナの歌劇「売られた花嫁」からの音楽(「序曲」「ポルカ」「ブリアント」「道化師の踊り」)を指揮している。歌劇「売られた花嫁」は、ボヘミアの農村を舞台に若者の恋愛を扱った作品でチェコの代表的な国民オペラ作品として名高い。序曲が特に有名で、単独で演奏会に採り上げられることも多い。台本作者はカレル・サビナ。3幕(第1幕:ボヘミアの春祭りの最中のボヘミア地方の農村の広場/第2幕:村の居酒屋/第3幕:村の広場)からなるオペラ・ブッファ。作曲は1863年から開始され1866年に完成し、その年に初演された。このLPレコードにおいてケンペは、スメタナという民族音楽の代表的作曲家の作品でも、ドイツの作曲家の作品のように、実に堂々ときっちと気品のある指揮ぶりをみせており、自らの持てる特徴を存分に発揮した演奏と言うことができる。一方、ドヴォルザーク:スラブ舞曲第10番とエネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番を指揮しているギーカ・ズドラフコヴィッチ(1914年生まれ)は、ユーゴ・スラヴィアの指揮者。最初は、オーケストラでオーボエを演奏しながら、ベオグラード音楽アカデミーで作曲と指揮を学び、チェコに留学して名指揮者ヴァツラフ・ターリッヒに師事。帰国後は、母校の教授を務めるとともに、ベオグラード・フィルの指揮者を務めた。このLPレコードでは躍動的で、そして優美な演奏を披露している。(LPC)

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