植草一秀の『知られざる真実』」
2014/10/18
埋立承認撤回取消確約なき建設阻止を信用できない
第988号
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沖縄県知事選投開票日まで1か月を切った。
10月17日には、青年会議所主催の公開討論会も開催された。
今回知事選最大の争点は辺野古米軍基地建設問題である。
この米軍基地建設について、安倍政権の官房長官の菅義偉氏は、9月10日の
記者会見で、
「最大の関心は沖縄県が(辺野古沿岸部の)埋め立てを承認するかどうかだっ
た。知事が承認し粛々と工事しており、もう過去の問題だ。争点にはならな
い」
「仲井真知事が埋め立て承認を決定した。そのことで一つの区切りがついてい
る」
と述べた。すなわち、この問題の核心が知事による埋立申請承認であり、この
承認がある以上は、米軍基地建設を粛々と進行させるということである。
したがって、辺野古米軍基地建設については、安倍政権のこのスタンスをベー
スに置いて対応することが必要不可欠である。
具体的に言えば、知事による埋立申請承認を撤回または取消しなければ、辺野
古米軍基地建設を止めることができない。
このことを明確化したうえで対応策を検討することが必要不可欠である。
辺野古米軍基地建設について、埋立申請承認をベースに、4人の候補者の対応
を整理すると次のようになる。
仲井真弘多氏 埋立申請を承認した本人
翁長雄志氏 埋立申請承認の撤回・取消を視野に入れる
喜納昌吉氏 埋立申請承認の撤回・取消を行う
下地幹郎氏 住民投票を実施する
こうして見ると、辺野古米軍基地建設推進が仲井真弘多氏、これを埋立申請承
認の撤回または取消で対応するというのが喜納昌吉氏ということになる。
翁長氏は辺野古米軍基地建設に反対はするが、埋立申請承認撤回・取消につい
ては明言していない。
下地氏は住民投票の結果を踏まえて判断するとしているから、基本的に中立、
時間的にも対応は先のことになる。
今回の知事選の最大争点が辺野古米軍基地建設問題であるとし、辺野古に新た
に米軍基地を建設させないことを求める県民は誰に投票するべきであるか。
現在の公約提示状況から判断すれば、投票は喜納昌吉氏に集中させるべきとい
うことになる。
そうなると、辺野古基地建設阻止の県民投票が分断される危険が生まれる。
このことから、喜納昌吉氏は翁長氏に、埋立申請承認の撤回または取消を確約
して、候補者一本化をするべきだと提言した。
翁長氏がこれを確約すれば、自分が出馬を辞退すると提言したのである。
しかし、これを翁長雄志氏が拒絶した。
誠に残念なことである。
辺野古米軍基地建設阻止の県民投票をが分断されることを回避するための最も
有効な提案を翁長雄志氏が拒絶したのである。
この翁長雄志氏が、辺野古問題についての見解を公表した。
沖縄タイムズは10月15日付紙面で次のように伝えている。
「11月の知事選に出馬を表明している前那覇市長の翁長雄志氏(64)は1
4日、米軍普天間飛行場の返還問題に関する公約について、「あらゆる手法を
駆使して辺野古新基地は造らせない」と明記する方針を決めた。」
「埋め立て承認への対応について、翁長氏側は「選挙結果をもとに日米両政府
へ基地建設中止を求めるなど、ありとあらゆる方法や手段で取り組む必要があ
り、承認の撤回や取り消しも選択肢の一つである」との考えを示した。」
この表明は次のように読み取るべきである。
「辺野古に基地は造らせない」の公約を掲げるが、「埋立申請承認の撤回また
は取消」は明言しない。
「選択肢の一つ」というのは、典型的な霞が関用語である。
どこにポイントがあるのかと言えば、撤回または取消をしない場合の「口実」
になるのである。
「あらゆる方法や手段で取り組む」のなら、
「他の方法で打開できない場合には、埋立申請承認の撤回または取消を行う」
と明言すればよい。
これを明言しないのは、埋立申請承認の撤回または取消に消極的であることの
証左なのであると捉えられて当然である。
翁長氏の支持者から「なぜ埋立申請承認の撤回または取消を確約しないのか」
との声が上がると、陣営が厳しい締め付けを行なって、こうした声を封殺され
るとの声が随所から届いている。
翁長氏陣営は、何としても「埋立申請撤回取消の確約」をせずに、知事ポスト
を手中に収めたいと考えているのだと思われる。
その延長上にあるのは、県民への裏切りであるリスクが限りなく大きい。
知事選が、辺野古米軍基地建設の是非を問う選挙ではなく、県知事利権の争奪
戦に転落している様相を色濃くしているのだ。
新知事が埋立申請承認の撤回または取消をしても、それだけで辺野古米軍基地
建設を阻止できるわけではない。
安倍政権は沖縄県に対して訴訟を提起し、問題が法廷で争われることになるだ
ろう。
辺野古米軍基地建設を阻止するための道のりは、平坦ではないのである。
しかし、新知事が埋立申請承認の撤回または取消を行わなければどうなるの
か。
菅官房長官が9月10日に明言したように、辺野古米軍基地建設は粛々と進展
するのである。
「選挙結果をもとに日米両政府へ基地建設中止を求める」べきことは言うまで
もないが、具体的で実効性のある施策を実行しなければ、基地建設は粛々と進
行されてしまうのである。
そのなかで、具体的、実効性のある方法が埋立申請承認の撤回または取消なの
である。
これが有効であることは、9月10日の菅官房長官発言が明確にしているので
ある。
翁長雄志氏の支持勢力は組織戦を展開し、本部の方針に逆らう者を糾弾する、
非民主的な選挙戦を展開しているように見える。
辺野古で基地建設阻止のために体を張って行動している市民に、埋立申請承認
撤回または取消の重要性がまったく伝えられていない。
この現場で、埋立申請承認の撤回または取消の必要性を説くと、反逆者として
扱われるとの声も少なからず届けられている。
翁長雄志氏を勝利させることが優先され、辺野古米軍基地建設阻止の実効性、
確実性を担保することが二の次、三の次にされている印象が強い。
そもそも、沖縄県政野党5会派は、知事選候補者選定に際して、
「埋立承認を撤回し、政府に事業中止を求める」
ことを条件に掲げてきた。
それが、
「新しい知事は承認撤回を求める県民の声を尊重し、辺野古基地を造らせな
い」
に変化した。
沖縄タイムズが伝える新方針も、基本的にこの路線を踏み越えるものではな
い。
「あらゆる方法を駆使」
「選択肢の一つ」
の表現は、
「埋立申請承認の撤回または取消」
を確約しないための言い回しに過ぎない。
この「あいまい公約」で統一候補者が選定されたカギを握るのが、
「腹八分腹六分の契り」
なのである。
つまり、
「埋立申請承認撤回または取消」
という核心に触れないから、
「腹十分の公約」
にはできなかったのである。
翁長氏支持陣営に二つの意見がある。
「埋立申請承認の撤回または取消を確約させない」
ことを主張する勢力と、
「埋立申請承認の撤回または取消を確約させる」
ことを主張する勢力である。
「埋立申請承認の撤回または取消を確約させない」ことを主張する勢力は、
「辺野古に基地を造らせない」の言葉を認めるが、
「埋立申請承認の撤回または取消」は確約しない
ことで我慢した。
「埋立申請承認の撤回または取消を確約させる」ことを主張する勢力は、
「埋立申請承認の撤回または取消」の確約は得ないが、
「辺野古に基地を造らせない」の言葉
で我慢した。
これが「腹八分腹六分の契り」の意味であると解釈できる。
仮に翁長雄志氏が当選したらどうなるか。
「埋立申請承認の撤回または取消」
に対しては、翁長氏支持陣営の一部が強行に反対することになる。
結局、菅義偉官房長官が明言したように、辺野古米軍基地建設は粛々と進むこ
とになるだろう。
この現実が予想されるのに、県政野党5会派が翁長氏の擁立に同意したのは、
辺野古米軍基地建設を阻止できなくても、沖縄県政の実権を握るという、巨大
な果実を手中に収められるからであると考えられる。
全国の都道府県知事選で、革新勢力が勝利を収めることが久しく実現していな
い。
沖縄で県政の実権を握る「旨み」は計り知れないのである。
結局、辺野古に米軍基地を造らせないことを求めて、体を張って活動してきた
人々は、「だし」にされてしまうことになるのではないか。
そのような危険が日増しに高まっているように見える。
☣信用できないと言うよりも、信用してはならないのだと言うことができる。あいまいにしていることは、どちらにでも転ぶということなのである。