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今週の一番『ゴッドハンド輝』ジュブナイルに問う命題

2010年07月27日 | マンガ
【7月第3週:ドカベン スーパースターズ編(山田vs剣)】
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【漫研】
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神矢翔子「あなたは死を…知らない医師…!!」



『ゴッドハンド輝』(作・山本航暉)が少年向け医療マンガ(?)として、ちょっと難しい領域に踏み込んできましたね。それは少年向け医療マンガ(?)として“人の死”をどう扱うんだ?という問題ですが。元々、この作品は、主人公・真東輝くんは、対処した患者は総て、ことごとく救える、決して患者の死に目に遭わない“奇跡の医師”…かもしれない?ような?そうでもないような?…という微妙な設定(笑)で避けて来ていて。
ただ、同時にこの微妙な設定~確定的な設定としては扱わない事で、状況によっては踏み込むかもしれないよ?というような姿勢を見せつつ連載を続けて来ていました。この、微妙な姿勢は「少年向けマンガで、自らの力不足で人の死をもたらしてしまう事をどう描くべきか?」という問題の難しさをそのまま顕していると思います。

…いや、別に単なる医療マンガなら、在りのままに描けばいいんですよ?(´・ω・`)というか今、あたかも患者の死が総て医者の力不足によって起きるかのような書き方をしましたが、全くそんな事はないでしょう。
無論、生命を預かる職業として一定以上の倫理観と慎重さが求められる事は間違いないですが、その上で手を尽くしたのなら、その死は「人間死ぬときゃ~死ぬよね?(´・ω・`)」以上のものではないと思います。

…しかし、『ゴッドハンド輝』は“少年マンガ”なわけです。「医者という仕事は人の生命を救うやり甲斐のある仕事だ」、「人の生命を救えるという事はとても嬉しい事だ。充実する事だ」、「そういう“夢”をもって医学を志して欲しい」……ここらあたりまでをテーマとしてマンガで描く事を遮るものはないでしょう。
……じゃあ、そっから先はどうしましょう?「それでも人は死んでしまう」事は子供にどう伝えましょう?「医者をやっている以上しゃーないよ?次がんばればいいよ?」………と、言うのか?まあ、ズバッと子供にそういう難しい命題を突きつけてしまうマンガも僕は好きなんですが。少なくとも『ゴッドハンド輝』はそれを躊躇した。躊躇したから件の設定があるのだと思います。

その問題を再燃させた女性外科医の神矢先生は何をしたかと言うと、自分が臨んだ手術で、患者が助からない事を感じ取って「その死を受け入れる心の準備を始めてしまった」~言葉柔らかにしてありますけど、要は「諦めた」って事ですよね。そこで輝先生が変わって心臓マッサージをすると患者は息を吹き返して生命を取り留めるんですね。
さて、ここで。助かる可能性を持っていた患者の生命~輝先生によってそれが証明されてしまった患者の生命~を「諦めてしまった」神矢先生はダメな医者なのでしょうか?

…少年マンガの作法にそのまま沿って行くとダメな医者のようですよね。(´・ω・`)…まず、そもそも少年マンガで“立ち向かうべき困難”に対して“諦める”という行為は、相当なタブー(?)のようです。…いや、タブーってほどでもないのですけどwでも諦める/諦めないの二択を明確に迫る展開では、大抵「俺は諦めない!」…という選択をさせていますよね?
まあ、子供はまだ自分にできる事、できない事の判断さえ覚束ない時期なんですから、その段階で“困難”を前にした時に“諦める”話を覚えても…君の諦める個性???を持った少年は出来上がるかもしれませんが、ろくな大人にはならないと思うんで(´・ω・`)この方針のようなものは納得できます。(※あくまで「子供の為になるマンガ」にするなら…という意味で、僕個人は「子供の為にならないマンガ」だってまた愉し…と思っていますけどね)
かつ、今、神矢先生が諦めようとしたのは“人の生命”です。…マンガ・ジャンルの中には人の生命が軽い作品もあって、そっちでは確かに人死が出ても「まあ、しゃーねっかw」って所があるのは事実ですが『ゴッドハンド輝』はそういうジャンルとは正反対の、正に人の生命の尊さを描いているマンガと言えます。そういう“少年向けマンガ”で「人の生命を諦める行為」は果たして許されるのか?…普通に考えると到底許されない事のように思えます。(少なくともそれを描くのは大変な困難を伴なうものに思えます)

「諦めたらそこで試合終了ですよ」という某マンガの名台詞がありますが、人の生命こそ正に、最も諦めてはいけないもの!最も試合終了にさせてはいけないもの!…なのではないでしょうか?
ここらへんの難しさを直接、主人公・輝先生にぶつけるのではなく、一回、神谷先生にクッションさせているワケですが……まあ、この“諦めた”神矢先生、輝先生が代わって患者の生命を掴んでしまう事で言われたんですよね「諦めたらそこで試合終了ですよ」…っと。それを受けた神矢先生はどうしたか?「ああ…私が間違っていた。やはり、生命はけっして諦めてはいけないものだったんだ…」と反省したのか?…いや、そこは、そうじゃなかったwむしろ逆ギレ(?)して、

そんな事!“奇跡の医師”なんてアホな設定のあんた(輝先生)に言われたくない!!

…と返したのが冒頭の引用セリフですね。生命の大切さ、生命の重さが分からないわけじゃない。いや、むしろ分かり過ぎるからこそ、「自分は患者さんが死ぬ事の心の整理をつけないまま(死を受け流す準備をしないまま)、患者さんの前に立つなんて事はできないんだ」と。生命の重さが分かるからこそ人が死ぬ事に慣れてしまわないとやっていられない…と。まあ、分かる話ですよね。
そしてその投げかけが今、輝先生の心境に当惑を生んでいる…と。…そうは言っても淡々と一所懸命に最善を尽くすという結論しかないっちゃ~ないんですけどね。どう描くか?どういう描きまでするか?を注目したいなと思います。

読んでて「何を難しく考えているのかわからん。生命の尊さを描きつつ、それでも死を受け入れなくてはならない事をバランスよく描けばいいだけじゃん?」と思う人もいるかもしれませんけどね。…僕はやっぱりそれを少年マンガとして『面白く』描いて行くのはかなり難しい、と思っています。
…というより、人の死に慣れてしまいながらも生命の大切にする心を常に維持する事を、医者は(少なくとも建前では)要求されるワケですが、このバランスを保つのは難しく大人だってどちらか一方に寄ってしまう事があるのではないでしょうか?

ちょっと、比較として最近購入した『医龍』(作・野木坂太郎)の23巻を引用したいと思います。実は、こっちは、さらにもう一歩踏み込んだ話をしています。



朝田「手術、やってみたくねぇか?――面白いぞ?」

人の生命がかかって手術を面白いからやってみねえか?と天才医師・朝田の幻影が語りかけるシーンですね。朝田(の幻影)はこう話を続けます「キレイ事じゃ、そのうち身体がもたなくなるぜ?――楽しくていいんだよ。でなきゃ続かない。ヒューマニズムだけで伸びるなら、誰でも名医だろうが」と。……外科手術という人の生命を救う方法は、結局、それを面白がり、悦びを見出す者がいない限り成り立たないし、進歩もしない…と言っているんですね。わざわざ、表立って言うかどうかは別にして一面の真実を間違いなく突いていると思います。

ここらへん、ある種、本当の話をする痛快さのようなものを僕は感じてしまうんですが、そうは言ってもこの話、手術対象が朝田その人…つまり、今、正に生命を投げ出している人間がそう言っている(だろう)という角度ではじめて言えているセリフでもあるんですよね。
かつ、この作品はビックコミック・スペリオールの連載です。つまり青年誌ですね。当然、『医龍』の中でも示されているのですが、『受け手』はこれまでの人生の中で生命の尊さは充分に叩き込まれてきたよね?という、そういう前提を元にこういう話をしている面があるワケです。

その順番を踏まずに、いきなり『世界の在り様』を在り様のままに語ってしまうのが、果たして正しいのかどうか?…まあ、僕自身は永井某氏先生とか、某ハゲ監督から“人間爆弾”だの“全滅エンド”だのと、子供心に変な焼きゴテ当てられた事は、と~ってもいい事だった!(`・ω・´)……と思っているので、特に頓着する気もないのですがw
でも、何が正しいのか?に悩む『送り手』の意図は尊重しようと思っています。そしてその順番から「いや、(少年マンガとして)何よりもまず伝えなくてはならないのは、生命の尊さだ。生命は絶対に諦めてはならないものだと言う事をまず伝えなくては………それでも、前に進むために、諦めなくてはならない場合がある事は、もっと、ずっとずっと後でもいい。場合によっては“ここで”描けなくてもいい…」というのも一つの判断かと思います。

【『スクラップド・プリンセス』ジュブナイルの悲劇の処し方】
http://blog.goo.ne.jp/ldtsugane/e/04f1acfe7b9f14b65985bb43aa7db2b0

ちょっと以前、『スクラップド・プリンセス』で近い話をしたのでその記事を貼っておきます。まあ、ここらへん『ジュブナイルの境界』ってヤツだなと思ったりもします。子供向けである以上、踏み越えてはならない線…とは、僕は思わないんですけどね。でも、そこに対する『送り手』のギリギリの選択というのは『愉し』ませてもらおうと思っています。


ゴッドハンド輝(52) (少年マガジンコミックス)
山本 航暉
講談社

医龍 23 朝田のQOL (ビッグコミックス)
乃木坂 太郎,永井 明
小学館


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