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ちょうど1年前、東大医学部甲斐研究室でレクチュアしました!そのレジュメ!


                                    2004/9/28

スウェーデンの高齢者ケア-その光と影を追う-

東京経済大学 西下彰俊
nisisita@tku.ac.jp
於:東京大学甲斐一郎先生研究室会議 

【1】 スウェーデンの社会・文化的特徴
①Sverige(スベリエ)・・・svea(我々)+rige(土地)
②allemansrӓtten(アレマンスレッテン)・・・スウェーデン独自の慣習法(万民権)
 私的に所有された土地に許可なく立ち入り自由に歩くことができ、野のベリー、マッシュルーム、花などを摘むことが可能な権利、また特別の許可なく一晩だけならばテントを私有地に張ることが可能な権利。ただし、ある種の珍らしい花は摘んではいけないし、土地の所有者、鳥、動物の邪魔にならないように十分配慮する義務も課せられる。また、このアレマンスレッテンは、国民個々人の権利であって、商業的な目的や観光客には適用されない
③Lagom(ラゴム)・・・多すぎず少なすぎず、中程度がちょうど良い。中庸。
inte för mycket och inte för lite=not too much and not too little
④Folkhem(フォルクヘム)・・・国民の家
  1932年、社会民主党Hansson,P.A(ハンソン)が提唱。
  胎児から墓場までの人生のあらゆる段階で、国家が良き父として人々の要求、  心配を包括的に規制・統制・調整する家の機能を持つ。
      → 高負担に国民が耐える思想的バックボーン
          国税   291800SEK未満             0%
               291800SEK以上441300SEK未満     20%
               441300SEK以上             25%
          地方税  30%前後
           (コミューン税20%前後、ランスティング税10%前後)
          間接税  25%(ただし、食品12%、文化6%)
*私的所有を相対化する社会。個の自立を前提としながら、個と個が連携する社会連帯社会。フォルクヘムを背景に国家を信頼させ、高福祉高負担を進める社会。
【2】スウェーデンの高齢者ケア
①社会サービス法(1982年)に基づく高齢者ケアの進展
②Ädel reformmenエーデル改革(1992年)の具体的内容   
・コミューン(市に対応)の高齢者ケア責任の明確化 
  知的障害者(1994年)、精神障害者(1995年)も順次コミューンの責任
・在宅サービス(ホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイサービ   ス)の自己負担課金システムを各コミューン(290)が独自に設定
    →コミューン間格差の増大
・施設サービス(sӓrskilda boendeformer=SÄBO、サービスハウス、ナーシングホ ーム、グループホーム)の自己負担課金システム(個室家賃、食費、ケア代金) を各コミューン(290)が独自に設定
        →コミューン間格差の増大
③Betalningsansvar av medicinskt fӓrdigbehandlade            (社会的入院費支払い責任の設定)
・支払い責任・・・病院の主治医が医学的処置終了宣言を出した後、6日目以降も  高齢患者が入院を続ける場合に、高齢患者の住むコミューンが当該病院(または  県)に対して社会的入院費支払い責任という超過金を支払わなければならない。  この支払い責任は土曜、日曜、祝日を除いて6日目以降分から当該コミューン  に発生する。2002年現在で、老年科疾患の場合には2,028SEK(1SEK=13円で換  算、以下同様)(約26,360円)、急性疾患の場合には2,810SEK(約36,500円)  をコミューンが当該病院(または県)に支払う。
→ コミューンは、コミューン内に在宅サービス・施設サービスを整備しようとい  うインセンティブ強まる 
・超過金が不要な場合・・・高齢者が何らかの疾患もしくは傷病で病院に入院。病  院は必要な治療を行ない、患者の病状が落ち着き、退院に際してのケアプラン  が必要と判断された場合、その病棟の看護師がFaxを通じて高齢者の住むコミュ  ーンの福祉事務所に「ケアプラン作成の要請」を行なう。その次の日から数え  て5日間(土・日・祝日は含めず)以内に、ケースワーカー(必要に応じて、  地域の巡回看護師、作業療法士、理学療法士なども含む)が病院でその高齢者  に(必要な場合は家族にも)会い、退院後のケアプランを作成し退院。
・報告者の研究・・・Betalningsansvar av medicinskt fӓrdigbehandladeは、  別紙の図にあるように、エーデル改革から5~6年は効果を発揮。1998年から  リバウンドし、社会的入院費支払い責任が増加する傾向。増加の背景には、基  盤整備の物理的限界、介護スタッフ不足。
④社会サービス法改正(2002年7月1日)
・在宅サービスと施設サービスにおける自己負担額の深刻なコミューン間格差
(報告者の研究では約6倍!)に対し、政府がガイドラインを設定
→ 介護サービスを利用する高齢者が1か月間に支払う自己負担額の上限  
  設定=1544SEK(2003年)、1572SEK(2004年)  
  Prisbasbelopp (価格基準額) 39300SEK(2004年)
  自己負担額上限設定計算式=39300SEK/12×0.48=1572SEK
 ・介護サービスを利用する高齢者が1か月間に手元に残せる最低留保額の深刻な  コミューン間格
→ 最低留保額(fӧrbehållsbelopp)=リザーブドアマウント(reserved   
   amount)の下限設定=単身 4162SEK(2003年) 4238SEK(2004年)
        カップル 3478 SEK(2003年)
  リザーブドアマウント額下限設定計算式=39300SEK/12×129.4=4238SEK
 ・全ての利用者負担額を支払った後に高齢者の手元に残されるべき個人的必要を  満たすのに十分な額=食費、衣服費、余暇・レク費、家具・台所用品、消耗品  費、衛生品費、電話・新聞・テレビ代、薬代、歯治療費、旅行費、庭整備代 
     
【3】スウェーデンの高齢者ケアの構造的問題
①夏休みの介護体制
  5週間の有給休暇。4週間を6月中旬から8月中旬にかけて夏休み休暇とす   る → レギュラー介護スタッフの半数をアルバイトで代用、北欧における
  高齢者ケアの基本である「継続性」は?
②レギュラー介護スタッフの中高年化
  社会的威信が低く給与が低いため、特に若者が希望せず → レギュラー介護  スタッフが中高年化。介護スタッフの質の確保。今後大きな社会問題に。外国  人介護スタッフの採用。
③県(病院)に支払われる社会的入院費支払い責任(超過金)の使途
④民間委託と高齢者虐待
  1990年以降進んだ在宅サービス、施設サービスの民間委託 → 入札により、  コミューンの社会福祉委員会が採択。2年から5年の委託間隔。しかし、審査  の基準が運営費の少なさに偏っている可能性高し。1997年ソルナ・コミューン  のポールヘムスゴーデン(Polhemsgardenグループホームで発生した高齢者虐待  事件。ISSケアは運営費を節約したために、介護スタッフが不足し、介護の手抜  き・高齢者虐待が発生。介護保健士(Underskӧterskaウンドレヒューテシカ)  のサーラ・ベグナート(Sarah Wӓgnert)が内部告発。 
   → 1999年にLex Sarah(サーラ法)施行

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