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玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

中川三成、関が原に立てず

2009年07月17日 | 政治・外交
自民党の内紛はとりあえず収まる方向のようで、まずはよかった。

【衆院解散】自民最終攻防 反麻生の「敗戦」濃厚 水面下で何が… - MSN産経ニュース
【衆院解散】自民、両院議員総会見送りへ 21日に首相出席し緊急集会 - MSN産経ニュース

ここ数日の騒ぎは「政権政党のゴタゴタ」と思うと腹立たしくて情けないが、他人事として見ればなかなか面白い人間ドラマである。まるで「関が原」の前日譚のようだ。この場合、反麻生派が西軍、執行部側は東軍という見立てになる。反麻生派の中心人物である中川秀直氏はもちろん石田三成の役どころ。


太閤(小泉総理)のもとで辣腕を振るった石田三成(中川秀直)だが、太閤が没して(小泉が退陣・引退宣言して)からは要職から遠ざけられた。太閤の遺志(新自由主義・構造改革路線)をないがしろにした家康(麻生総裁)の専横に三成は怒りを募らせる。

家康が上杉討伐のため大坂を去った(都議選で敗北して責任を問われた)のを好機と見た三成は、家康打倒の旗を掲げる。
手当たり次第に大名(議員)をかき集めて数の上では一大勢力を作るが、それぞれの考えはバラバラでまとまりがない。「家康許すまじ」(麻生総裁を引きずりおろせ)と思っているものばかりではなく、「三成にだまされた」と不信感を抱く大名が少なくない。

自民の両院総会署名簿「した、してない」で混乱も : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 署名した議員の中には、総会で総裁公選規程を改正し、総裁選前倒しを実現して麻生首相の交代を狙う議員もいる。一方で、首相が地方選の総括と反省、次期衆院選に向けた決意を述べればよしとする議員もいて、「目的や意図はバラバラ」との見方が出ている。

 実際、中川氏らが名簿を提出した後になって、「自分は『麻生降ろし』には賛同しない」「自分は直接、署名していない」などとして、署名名簿から外すよう求める議員も複数出た。逆に、新たに名簿に加わった議員もいる。各派閥は、署名名簿に掲載された所属議員に、署名の真偽や目的をただすなど、確認に追われた。


何よりも問題なのは西軍(反麻生派)に家康(麻生)に対抗できる旗頭(人気のある次期総裁候補)がいないことだ。
首謀者の三成(中川秀直)には人望がなく、なんとか西軍総指揮官に据えた毛利輝元(与謝野)は家康(麻生)打倒の気魄が足りない。

与謝野財務相、解散署名に応じる考え示唆 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 与謝野財務相は17日の閣議後の記者会見で、衆院解散の閣議書に署名するかどうかについて、「日本の経済財政、国際金融、金融システムに一閣僚として責任を持っている。選挙の直後には国際会議も開かれる。そういうことも万端考慮しながら自分の行動を決めたい」と述べた。与謝野氏は、これまで解散に反対して署名を拒否することに含みを持たせていたが、17日は署名に応じる考えを示唆したものと見られる。

こんなことで家康(麻生)を討てるのか。三成(中川秀直)の苦悩は深まるばかりである。


…などと空想してみたが、実際の関が原と比べると自民党の役者はよっぽど小粒だ。
麻生氏を「東海一の弓取り」家康にたとえるのは麻生ファンの私にもちょっと厳しい。そして、史実の三成はなんとか西軍をまとめて関が原で大決戦を戦ったのに、中川秀直氏の反麻生運動は両院議員総会も開けずに鎮圧されそうである。

卑怯・愚劣な「麻生おろし」

2009年07月16日 | 政治・外交
いよいよ解散総選挙、というこの期に及んで自民党内がゴタゴタしている。

与謝野財務相、麻生首相の自発的辞任を促す : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 与謝野財務相は15日、首相官邸に麻生首相を訪ね、約40分間、会談し、東京都議選の敗北を受けて次期衆院選は厳しい戦いになるとの考えを伝えた。


 首相の自発的な退陣を暗に促したものだ。一方、自民党執行部は同日、都議選を総括するため、週内に党所属国会議員が参加する会合を開く方向で検討に入った。しかし、首相は、党内の混乱にかかわらず、あくまでも21日に衆院を解散する考えだ。

 与謝野氏と首相との会談には、石破農相も同席した。この中で、与謝野氏は、このままでは次期衆院選の情勢は厳しいとの認識を伝えた。石破氏は、これに同調したうえで、首相が両院議員総会に出席して、衆院選に向けた党勢回復策について自ら説明すべきだと進言した。

署名簿で津島派「首相退陣には同調できぬ」 : 総選挙 : 特集 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 自民党津島派会長の津島雄二・元厚相は16日午後、都内の同派事務所で記者会見し、同党の中川秀直・元幹事長らが提出した両院議員総会開催を求める署名について、「偏った考え方を示している関係者がいる。(津島派で)署名した人の大多数は、純粋に麻生首相と意見交換したいという気持ちだ。総裁選とか、総理をどうするかを念頭に置くなら同調できない」と述べ、首相退陣を求める中川氏らとは一線を画す考えを明らかにした。

 同派からは35人が署名している。津島氏は「130人余りの署名が集まったと言うが、(総裁選前倒しなどの)シナリオにはならないと明確に言っておきたい」と強調した。

両院総会求め134人の署名簿を提出 : 総選挙 : 特集 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 麻生首相に批判的な自民党の中川秀直・元幹事長らは16日、党本部で細田幹事長と会い、両院議員総会の開催を求める134人の署名を提出した。

 署名した国会議員は、党則で総会開催に必要とされる党所属国会議員の3分の1(128人)を上回っており、与謝野財務相、石破農相の現職閣僚も含まれている。
(中略)
 署名した議員の中には、総会で総裁公選規程を改正し、総裁選前倒しを実現して麻生首相の交代を狙う議員もいる。一方で、首相が地方選の総括と反省、次期衆院選に向けた決意を述べればよしとする議員もいて、「目的や意図はバラバラ」との見方が出ている。


やっと東国原騒動が収まったと思ったら今度はこのザマか。見苦しいにもほどがある。
私はこれまでずっと麻生総理を応援してきたから、世間の空気に逆らって「麻生自民党」に投票するつもりでいた。バカだ、アホだと呼びたい人は呼べ。そんな最後の麻生ファンを裏切ってまで、自民党は総理の首をすげ替えるつもりなのか。もし本当にそんなことになったら、いくら神経が鈍い私も本気で怒る。もうほとんどブチ切れです。もちろん選挙区も比例区も自民党には入れない。

麻生自民党が三方ヶ原の戦いに臨む家康のように勝算の薄い決戦に打って出るなら、いっそ潔い。もしかしたら戦場は三方ヶ原じゃなくて設楽原(長篠の戦)で、有力武将が軒並み討ち死にすることになるかもしれないけれど。
普通に選挙をしても風速40mの逆風に煽られることは目に見えている。苦慮した古賀選対委員長が東国原氏を担ぎ出す奇手を仕掛けて無残に失敗した。もはや八方塞りだ。この上は正々堂々戦って愚直に敗れるほかない。代議「士」たるもの議席を惜しまず名を惜しむべし。
ところが、首を洗って覚悟を決めるべきときに総大将を引きずりおろそうとする猪口才な連中がいる。笑止である。麻生総裁はほんの10ヶ月前に自分たちで選んだリーダーではないか。しかも、自民党は小泉の後で安倍・福田・麻生と国民に信を問うこともなく総理の座をタライまわしにしてきた。健康問題で辞職した安倍氏は少々気の毒としても、後はすべて本人の都合、自民党の勝手である。この上さらに麻生総理を引きずりおろして、誰か国民に受けのいい「選挙の顔」を据えようとするのは卑怯、愚劣、国民を馬鹿にした言語道断オコの沙汰と言うほかない。恥を知れ恥を。

個人的な怒りはこれくらいにしておこう。実際のところ、世論はけっこう移り気である。
世間で人気があるらしい舛添氏あたりが新総裁になれば自民党の支持率がググッと盛り返すこともありえないこともない、という可能性は否定できない(ほとんどないと思うけど)。落選する恐怖に襲われた議員が、藁にもすがる思いで「首のすげ替え」を画策するのは理解できる。
だが、そこでこらえるのが政治家の品格、人間としての信義だと思うのである。自民党が負けるとしたら(間違いなく大敗するだろう)、それは麻生総理だけの問題ではなくて、2005年の郵政選挙以来ずっと自民党がやってきた(やらなかった)ことのツケが回ってきたのだ。支払うべきツケを先送りにし、請求書をごまかして「なんとか値切れないものか」とこすい計算をするのはいかにも器が小さい。そんな有様では当座はしのげても長い目で見れば信用を失う。「貧すれば鈍す」などというけれど、卑怯な真似をして老舗である自民党の名を汚すような真似をしてはいけない。

ちょっと気になるのは、両院議員総会の開催を求める署名に石破農相が名を連ねていること。
私は石破氏は自民党の中でも最も真面目で、政局騒ぎとは距離を置く人だと思っていたので意外な感じがしている。もしも麻生総裁の足を引っ張るようなら、私の石破氏への評価は急落してしまう。とはいえ、石破氏の属する津島派は「麻生おろし」に同調しない方針だという。石破氏の本心が「首相が両院議員総会に出席して、衆院選に向けた党勢回復策について自ら説明すべき」と言ったそのままだと信じたい。

東国原英夫の野望 天翔記

2009年07月14日 | 政治・外交
人気に押し上げられ、人気におごり、人気を失って出馬断念。
「人気者政治」のはかなさと危うさを象徴するような騒ぎだった。

asahi.com(朝日新聞社):東国原知事、国政転身「非常に厳しい状況」 - 政治
 自民党から次期衆院選への出馬を要請されている宮崎県の東国原英夫知事は13日、衆院の解散が目前に迫る中、自身が同党に突きつけた「総裁候補」などの条件が受け入れられるかどうかは「非常に厳しい状況」と明言した。ただし、最終決断については「後援会と相談して決めたい」と述べるにとどめた。県庁で記者団に答えた。

 東国原氏は「知事なのに国政とか、総理ポストなどけしからんとの声は粛々と受け止めないといけない」と述べるとともに、10日夜にタレント時代の師匠であるビートたけし氏から出馬断念を忠告されたことについては「重く受け止める」と語った。

 一方、自民党宮崎県連の米良政美幹事長は都議選での同党の敗因の一つに東国原氏の出馬騒動が挙げられていることについて「自民党がなめられた感じがしないでもない。ちょっと言い過ぎでないかなと。全国に迷惑をかけた」と述べた。福岡市で開かれた九州ブロック緊急幹事長会議終了後、記者団に語った。東国原氏の出馬については「もうないでしょ。出ない方がいい。本人も意欲なくしたんじゃないの」と冷淡だった。

東国原知事:師匠たけしさんの「宮崎に帰れ」を「重く受け止めたい」 - 毎日jp(毎日新聞)
asahi.com(朝日新聞社):「東国原氏擁立問題を引責か」 古賀氏支援者ら見方示す - 政治

とりあえずお疲れさまでした。ご本人も自民党も国民も誰も得しない無駄な騒ぎだったと思うけれど。
東国原氏と自民党について何も言うことはない。私が言わなくても、マスコミやネットでさんざん批判されている。東国原氏と古賀氏(と東国原擁立に動いた人たち)はしっかり反省してください。

終わってみれば何もかも茶番としか思えないが、まかり間違えば本当に東国原氏の人気が盛り上がり「自民党総裁候補として選挙を戦う」可能性もあった。それというのもマスコミが、特に政治報道のプロとされている人たちが東国原氏の野望を見くびり、政治的能力を過大評価して好意的に伝えていたからだ。
実例を挙げて見ていこう。

東国原知事への出馬要請は 何への布石なのか? | 時評コラム | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉
 東国原知事や橋下知事が、自民党から衆議院選挙に出るわけがない。
(中略)
 私は、彼は絶対に受けないだろうが、「橋下大臣」なんてこともあり得るだろうと思っている。「東国原大臣」だってあるかもしれない。彼らは衆議院議員としてではなく、むしろ大臣として、内閣改造の“目玉”になり得る。

その後の経緯を見れば、自民党(古賀氏)の「出したい、担ぎたい気持」よりも東国原氏の「俺を出せ、俺を担げ」という野望のほうがずっと大きかったのは誰の目にも明らかだ。

牧太郎の大きな声では言えないが…:男は度胸!の政治学 - 毎日jp(毎日新聞)
 「その情熱、今の自民党にない新しいエネルギーが欲しい」と口説かれて「自民党は私を次期総裁候補として戦う覚悟がありますか?」と切り返した宮崎県の東国原英夫知事。なかなかの役者である。

 「一番の高値」で自分を売り込もうとする魂胆。見上げたもんだよ、屋根屋のフンドシ! 度胸が良い。
(中略)
 「顔を洗って出直せ!」との声もあるけど、世間は前代未聞の「天下盗(と)り宣言」を楽しんでいる。政治に対する不信が極限まで広がって、世間は(“お笑い”でもいいから)「維新前夜」が見たい。

度胸はよくても三流役者。一世一代の晴れ舞台のつもりが観客の罵声を浴びてほうほうの態で閉幕とは無残である。

近聞遠見:日向の国からミサイル=岩見隆夫 - 毎日jp(毎日新聞)
 なにしろ、人気者とはいえ、九州の一知事が、出馬条件として、

 「私を次の自民党総裁候補として、衆院選を戦うご覚悟があるのか」

 と前代未聞の爆弾発言をしたのだ。麻生をオレに代えろ、と要求している。

 爆風にさらされた自民党内から、とっさに、あほらしい、ジョークだろ、顔を洗ってこい、などの反応が出たのは無理もない。スポーツ紙がいっせいに、

 <自民、なめられた>

 の大見出しを立てたのもわからないではない。だが、いずれもマトをはずれていた。

 とりわけ見当違いだったのは、民放テレビのコメンテーターたちだ。図々(ずうずう)しい、ただの中央志向、国民をバカにしている、情けない、こっけい、高く売りつけている、などなど、否定的、感情的発言で占められていた。

 東国原ショックの爆弾効果を評価するコメントがまるでない。テレビ政治の危うさを改めて印象づけることになった。
(中略)
いま、<東国原首相>が実現するとは思えないが、もし実現すれば、自民党は変わった、と国民は実感する。そのレベルのことを断行しろ、と東国原は迫っているのではないか。

東国原氏自身の資質については目をつぶり、「爆弾効果」とやらを褒めそやす。「テレビ政治の危うさ」を語る岩見氏のほうがずっと危なっかしい。

東国原と橋下自民を食う - 雑誌記事:@niftyニュース
鳩山邦夫前総務相の辞任騒動で揺れた数日後。東国原英夫宮崎県知事は友人らを誘い、県内で夕食をともにした。肌に生気なく、疲れきった様子の知事は政治の話はほとんどせず、ひたすら昔話に花を咲かせた。

「とにかく、癒しを求めている様子だったようだ」(県政界関係者)

 知事を悩ませていたのは、県議会対策でもホームシックでもない。鳩山騒動の前後から続いていた、自民党による国政転出の誘いをどう断るかだった。

 国政への意欲は知事就任時からとはいえ、宮崎1区の中山成彬前国交相が引退を表明した際に国政転出騒動が起こってからというもの、県政への意欲は明らかに衰えたと周囲は見ていた。

「最近、知事は議会とケンカもしない。淡々としていて表情の変化がとぼしくなった」(親知事派の若手県議)

 心はすでに宮崎にあらず、と誰もが思う状況での、今回の立候補要請は渡りに船のはず。ところが、知事には昨年の転出騒動の逆風がいまだに心に残っていたようだ。

「マニフェストを掲げて当選しながら、1期も務めないのはおかしいでしょう」(元側近)

もう笑うしかない、完全な読み違い。東国原氏のむき出しの野望がぜんぜん見えていなかった。実際のところ「渡りに舟」とばかりに出馬の誘いに飛びついた東国原氏の心はすっかり東京に飛んでいた。

知事の責任 - 社説 - miyanichi e press
■「1年半プラーっと」■

 国政転身に反対と答える人の多くが「知事として県政発展に貢献を」と今後へ期待をこめている。だが、それは期待薄のようだ。

 先日の政治資金パーティーで知事は、「(国政に)行くなと言うんだったら行かない。1年半プラーっとさせてもらう」などと発言。また、「(2010年度の)予算編成して来年2月に議会に示し、採決されれば事実上、僕の仕事は終わり」とも述べている。

 知事の下で働く多くの県職員がこの言葉に憤り、やるせなさを覚えただろう。無責任な発言だ。

 もう心、宮崎にあらずか。ならば県民が無理に知事に任期まっとうをお願いする意味はない。

宮崎の地元紙のほうが全国紙の政治記者よりよほどクールに見ている。

東国原ヨイショの極めつけは内閣改造のときの新聞辞令だ。

麻生首相:東国原知事の入閣で調整 分権改革担当を検討 - 毎日jp(毎日新聞)
 麻生太郎首相が閣僚人事で、次期衆院選に自民党公認候補として擁立を打診している東国原英夫宮崎県知事を入閣させる方向で検討していることが6月30日分かった。(中略)衆院選に向け、国民的な人気の高い東国原氏を自民党の「選挙の顔」にすることで、民主党に対抗するのが狙い。

全く検討していない-首相 東国原知事の入閣問題 - 47NEWS(よんななニュース)
 麻生太郎首相は1日、閣僚補充人事で東国原英夫宮崎県知事の入閣を検討したのかとの記者団の質問に対し「全くない。なかった」と明確に否定した。

 河村建夫官房長官も記者会見で「検討の中でもそういうことはなかった。閣僚の補充はこれでおしまいだ」と述べた。

東国原氏を「国民的な人気の高い」と断言した毎日新聞は現在の逆風をまったく予想できなかったようだ。「国民的な人気が高いとされる」とか伝聞の形にしておけばまだしも言い訳できたものを。


東国原氏自身は、政治的能力も人望もない、いや「無い」と言い切ってしまうと語弊もあるが、自民党総裁や総理の椅子を狙うにはまったく力不足の人物である。あるのはバラエティー番組が作り上げた安っぽい人気ばかり。そんな東国原氏でもマスコミが気に入って押し上げればかなりのところまで行く。しかも、ワイドショーの無責任なコメンテーターばかりではなく、名の知れた大物ジャーナリストまでが面白がって「人気者」を持ち上げる。「小泉劇場」を反省したはずのマスコミだが、東国原氏のような際物をもてはやして踊っているようではどうしようもない。いや、むしろ劣化している。
いよいよ衆院解散と総選挙の日程が固まったようで、「政権交代論」が大いにもてはやされるのだろうが私はぜんぜん興味がもてない。政権交代それ自体には特に反対しないけれど、「政権交代論ブーム」「政権交代煽り」には近づきたくもない。

東国原英夫の野望 覇王伝

2009年07月02日 | 政治・外交
どうやら「東国原英夫の野望」のゲームは終わりに近づいているようだ。
暑さは続くが夏至は過ぎ日は短くなるばかり。
「もう終わり」と言い切るのは気が早いけれど、マスコミの伝え方、地元の雰囲気、ネットで見る意見はすべて彼の「旬」が過ぎたことを示している。それに気付いていないのはどうやらご本人だけのようで、なにやらお気の毒になる。

asahi.com(朝日新聞社):東国原知事、期待の大臣職巡ってこず 「コメントなし」 - 政治
 1日の閣僚人事でひそかに注目されたのは、自民党から総選挙への出馬を要請され、条件として「総裁候補」を突きつけた宮崎県の東国原英夫知事の去就だった。「落としどころ」として総務相などでの入閣も取りざたされたが、結局、大臣ポストはめぐってこなかった。

 東国原氏はこの日、宮崎県高千穂町であった県民フォーラムで、約50人の町民を前に熱弁をふるった。「3年前に知事選に出る時、高千穂で決めた。神のお告げがあった。天孫降臨の地で、ぼくに白羽の矢が立ったと勝手に思っている。くしくもこんな日、また高千穂に来たのも何かの縁と感じている」。閣僚人事が発表になる3時間前、国政転身に向けて決断する節目の日になるかもしれないとほのめかした。高まる気分を抑えきれない様子だった。

 「自民党は総選挙で負けると言われているのに、なぜ自民党から立候補するのか」との質問には、「ぼくがいたら、負けません、負けさせません」とも強調した。

 フォーラム後、東国原氏は記者団に「総裁候補ではなく、大臣ポストを提示されても国政に行くのか」と聞かれ、「大臣になったら次の総裁候補じゃないですか、違いますか」と語気を強め、入閣に対する期待感をのぞかせた。

東国原知事の思い上がり:Net-IB|九州企業特報|データ・マックス
“入閣密約説”立ち消えで笑い物も…諦めない東国原 - ZAKZAK
「宮崎にオメオメと帰るのか」 東国原知事の「行く場所」は?:スッキリ!!:J-CAST テレビウォッチ

「神がかり」と「思い上がり」の最強コンボ。
これではよほどの東国原ファンでもない限りついていけない。「ああ、やっちゃった…」という感じだ。
一週間前「衆院選出馬の打診を受け、逆に総裁候補としての処遇と地方分権を要求」という最初のニュースが伝えられたときには、マスコミも世論もおおむね好意的だった。とはいっても、東国原氏が期待したはずの「それはいい、ぜひやれ」という応援よりも「面白いこと言うなあ、さすが芸人だ」という感じでネタとして受け取る向きが多かった。
私はこのときに「あ、これは危ない」と思った。東国原氏が利口なら「好意」をうまくふくらませ、「ネタだろ」というからかいをだんだんしぼませてしっかりした支持に作り変えることは可能だ。マスコミの後押しがあればさらにたやすい。これはひょっとしてひょっとするかも、「東国原総裁」「東国原総理大臣」が実現してしまう可能性が10%、もしかしたら30%くらいあるんじゃないかと本気でおののいた。

私が東国原氏だったら、「本気なのか、出馬を断るための冗談なのか」はっきりしないあいまいな状態を保とうとしただろう。真意を聞かれても笑顔を見せるだけで黙っているとか、気を持たせるようなことを言ったり、あるいはただの冗談だというふりをしたり。
そうして世間がだんだん「東国原」と「自民党総裁候補」の文字が並ぶことに慣れるのを待つ。「最初は冗談かと思ったけど、東国原自民党総裁、いや東国原総理っていうのもアリじゃないか」「否定するのは頭が古い」「これからは地方分権改革だ、それができるのは東国原以外にいない」というムードを盛り上げる。
待望論が高まってきたところでいよいよ「私ごときがいきなり総裁候補などと言っても誰も相手にしてくれないと思ったが、多くの国民から『ぜひお前がやれ』『逃げるな』と叱咤激励され、自民党からも好意的な返事をいただいた。ここで引いては男がすたる。宮崎県民のお許しをいただければ、わが身をなげうって日本のためにリーダーシップをとりたい」と宣言する。
はっきり言って露骨な猿芝居だが、「オレが、オレが」と野望をむき出しにするよりはマシだろう。

ところが、東国原氏は期待の高まりをじっくり待つよりも「オレが、オレが」「本気だ、真剣だ」とつばを飛ばして熱弁するほうを選んだ。よほど自分の人気と発言能力に自信があったようだが、どうやら裏目に出た。その決め手となったのが元検察官である河上弁護士との対決である。


河上和雄氏 東国原英夫知事に生放送で 苦言

livedoor ニュース - 河上弁護士が東国原知事を痛烈非難 「地方分権だけで国政やっていけない」
東国原知事、元検事の河上氏に逆ギレ(動画) どっちが悪いかの判断は任せる。:アルファルファモザイク
ネットゲリラ: 東がバカなのがよくわかった

老練な河上氏に軽くあしらわれ、政治家としての能力不足、人間としての器の小ささが露呈してしまった。


たしか山本七平の本で読んだと思うが、会社の経営が悪化して倒産しそうになると怪しげな人物が現れて「オレにまかせれば全部うまくいく、オレを信じろ」と断言するそうだ。景気のいい話を並べてバラ色の夢を見せ、なによりも自信たっぷりなのでつい信用してしまう。ところが頼りにした再建請負人は詐欺師まがいの人物で、会社の財産を巧妙に掠め取って姿をくらます。後に残るのは会社の抜け殻と激怒した債権者ばかり。
自民党が、麻生総理が東国原氏に自民党勝利・政権維持の夢を預けたとしたら、ほぼ間違いなく似たような結果に終わっていた。ギリギリのところで政権の晩節を汚す(晩節と言い切るのも失礼だが)ことから逃れた麻生氏は世間で言われているほど愚かではない。

東国原英夫の野望 永田町風雲録

2009年07月01日 | 政治・外交
真偽のほどはともかくとして、閣僚だ、いや首相補佐官だと東国原知事を要職に起用する話がちらほら伝えられる。
「東国原英夫の野望」が永田町に風雲を巻き起こすのだろうか。

麻生首相:東国原知事の入閣で調整 分権改革担当を検討 - 毎日jp(毎日新聞)
 麻生太郎首相が閣僚人事で、次期衆院選に自民党公認候補として擁立を打診している東国原英夫宮崎県知事を入閣させる方向で検討していることが6月30日分かった。首相は閣僚の兼務解消などに伴う人事を一両日中に断行する方針で、東国原氏を地方分権改革担当などのポストで処遇することで調整している。衆院選に向け、国民的な人気の高い東国原氏を自民党の「選挙の顔」にすることで、民主党に対抗するのが狙い。

自民、批判かわす秘策!?東国原知事を首相補佐官に - ZAKZAK
 自民党内で、宮崎県の東国原英夫知事を「地方分権担当の首相補佐官」に任命する秘策が検討されている。次期総選挙での「総裁候補」を要求した東国原氏には、内閣改造で総務相や地方分権担当相にする案もあるが、閣僚と知事の兼務は支障があるうえ、知事をすぐ辞めることも難しいため折衷案として浮上したという。ただ、東国原氏が納得するかどうか…。

 関係者によると、これは党幹部周辺の発案といい、首相に近い閣僚も「いい考えだ」と承知しているという。首相自身の意向は不明だ。


どちらの記事にも今のところ続報がないので、飛ばし記事か観測気球のように思われる。というか、そうであってほしい。
毎日の記事には

「衆院選に向け、国民的な人気の高い東国原氏を自民党の「選挙の顔」にすることで、民主党に対抗するのが狙い。」

と書かれているけれど、どうも私の実感とはかけ離れている。
ネット世論(2ちゃんねるやブログ等)を見渡しても、身近な人の表情からしても「東国原氏が好きだ、信用できる、ぜひ国政に来て日本を変えてほしい」というような人はあまり見かけない。むしろ「ちょっとどうなの」「本当にこんなことでいいのか」「国民、特に宮崎県民をバカにしている」といった疑問や批判のほうが多く聞かれる。東国原氏の「人気」はマスコミ(特にテレビ)の中だけで、有権者が投票につながる実体のあるものとは違う気がする。
東国原氏の国政転身がどれほど支持されているのか、それとも支持されていないのか、宮崎県以外で世論調査が行われていないようなのではっきりしたことは言えないけれど、私が検索したあたりではこんな感じだ。

Yahoo!ニュース - 意識調査 - 東国原知事は国政転身してもいい?
回答数2160 転身してもいい(289) | 転身しない方がいい(1298) | 分からない(14) | その他(188) | 回答なし(371)
 支持   13 %
 不支持 60 %

東国原知事「自民総裁候補なら」発言が波紋 みなさんは東国原氏の発言を支持しますか? - goo ニュース畑
 東国原氏の発言を支持する  38 %
 東国原氏の発言を支持しない 51 %
 どちらでもない、その他     11 %

東国原知事の衆院選出馬要請に対する発言について|世論調査.net - みんなの声!
 次期衆院選に出馬し、次期総理になってほしい。            7.3 %
 次期衆院選に出馬し、経験をつんでいずれは総理になってほしい。  7.7 %
 次期衆院選出馬は反対、知事の任期を全うするべきだ。       36.5 %
 衆院選出馬は考えず、2期目も宮崎県知事でいてほしい。       9.4 %

知事国政転身「反対」63% 本紙世論調査 - 県内のニュース - miyanichi e press
 「国政転身に反対する意見が63・0%に達し、賛成を大きく上回った。」

YouTube - 河上和雄氏 東国原英夫知事に生放送で 苦言
 コメント欄では東国原批判のほうが支持より多い感じ。

東国原知事、元検事の河上氏に逆ギレ(動画) どっちが悪いかの判断は任せる。:アルファルファモザイク
 2ちゃんねらーも厳しい突っ込み。

「東国原 人気」とか「東国原 支持」といった言葉で検索したが、熱心な支持者はほとんど見つけられない。

東国原宮崎県知事を大いに支持する|隠された毎日

このブログが一番熱心に東国原氏を応援しているけれど、コメント欄ではさっそく反論されている。


私自身が不信感を抱いていることを差し引いても、今の東国原氏に「国民的な人気の高い」感じがしない。
本当に人気がある、時代の風に押し上げられている、というのはたとえば2001年から2002年の田中真紀子外相とか、2005年の郵政選挙での小泉人気のことを言うのである。ブームの最中に真紀子氏や小泉総理を批判するとたちまちコメント欄が炎上したような覚えがある。それとくらべると「東国原人気」はずっと小粒だ。
自民党はこんな人(と言っては失礼だが)を選挙の顔として担いで勝つつもりなのだろうか。東国原氏は自分の人気は自民党の頽勢を立て直すほど力があると信じているのだろうか。どうも不思議なことである。

とはいえ、世論はかなりのところ水物であって、マスコミが今の調子で「東国原氏は国民的人気者だ」「地方分権改革」「総裁候補だ、大臣だ、首相補佐官だ」とはやし立てたらそんな気になってしまう有権者がけっこういるのだろう。
自民党は独自の世論調査を行っているそうだ。「東国原劇場」の一見するとバカバカしい筋立ては計算されたものなのか。
2005年の郵政選挙でも、マスコミや評論家の多くは「追い詰められた小泉に勝ち目はない」「造反だ、刺客だというゴタゴタに国民はうんざり」「本当の争点は郵政民営化ではない」と言っていたが、彼らの「客観的な」予測は小泉自民党の圧倒的勝利によって打ち砕かれた。人気者は理屈を超えた力を発揮するから怖い。

そのあたりの危なっかしさ、政治が擬似イベント化するくだらなさについては小田嶋隆が痛烈に批判している。

 おっちょこちょいのヒマ人、「世論」を作る:日経ビジネスオンライン

登録しないと全文は読めないが、それだけの価値のある文章である。ぜひご一読をお勧めする。

東国原英夫の野望 知事群雄伝

2009年06月29日 | 政治・外交
東国原知事と地方分権改革の志を同じくする仲間が集まって、いよいよ「知事群雄伝」の物語が始まりそうだ。
そうはいっても、地方分権改革とは何なのか、改革派知事連合が自民党あるいは民主党支持を明確にするのか、それともいっそのこと政党化するのか、具体的なことは何もわからない。祭囃子は聞こえてくるけれど神輿も露店も見当たらない。

前の記事は「全国版」、今回の記事は「群雄伝」とくればお分かりの通り、元ネタは「信長の野望」シリーズである。とはいえ、自分はそんなに熱心なファンじゃないので凝ったネタは書けません、ごめんなさい。
せっかくだから東国原氏の能力をノブヤボ式に勝手に数値化してみよう。

東国原 英夫 (ひがしこくばる ひでお) 日向国 1957~

 戦闘 = 73
 政治 = 58
 智謀 = 67
 魅力 = 80
 野望 = 96


「戦闘力」は選挙の強さ。
知事選では圧勝したものの、衆院選挙でどれくらい戦えるか未知数なので中間的な数字にした。

「政治力」はそのまんま行政能力。
知事の任期を終えるまでは評価以前の段階だ。一期目は評判がよくても二期目以降にボロを出す「改革派知事」も珍しくない。

「智謀」は謀略や扇動を仕掛ける能力。
今回の出馬騒ぎを高く評価する向きもあるが、マスコミ受けはともかく世間の風は案外冷たいようなので低めに設定。

「魅力」は単純に人気として評価。
県知事として宮崎県での支持率は高いし、マスコミ的な人気者であることはまちがいないから高くした。ただし、人気がそのまま衆院選での支持につながるとは限らない。

「野望」は間違いなく高い。おでこも目付きもギラギラしている。
96は過小評価かもしれない。上杉謙信の戦闘力のように100オーバーでよかったかも。

能力値はそこそこで、野望ばかりが高い。
武将として配下に加えるといつ謀反を起こすかわからず、どうも信用できないタイプだ。
軍師が「殿、見込みのある武将を見つけましたぞ」と進言しても私なら家臣に加えたくない。よほど人手不足で「開墾」「町作り」する武将が足りなければ雇うかもしれないが、兵を持たせて戦場に送るのは危なっかしい。
敵軍の武将として捕虜にしたとき「どうか家臣にお加えくだされ」と媚びられても、賢明なプレーヤーなら「斬首」するか他家に混乱を起こすことを期待して「逃がす」だろう。金や茶器を贈って忠誠度を上げるほど価値のある武将とは思えない。

東国原英夫、どうにもこうにも食えない武将 …じゃなくて政治家である。

参考記事
おっちょこちょいのヒマ人、「世論」を作る - 小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」

東国原英夫の野望(全国版)

2009年06月24日 | 政治・外交
そのまんま権力への野望をむき出しにする男。
日本でいちばん危険な人物かもしれない。

asahi.com(朝日新聞社):「722分の1にならぬ」 東国原知事、気持ちは国政へ - 政治
asahi.com(朝日新聞社):東国原知事「条件そろえば国に行く」「自分は真剣」 - 政治

共同通信の記事が東国原知事のコウフン(口吻・興奮)をリアルに伝えている。

東国原氏「宮崎のため国政に」 次期衆院選に出馬意欲 - 47NEWS(よんななニュース)
 宮崎県の東国原英夫知事は24日、自民党から要請されている次期衆院選への立候補に関して「自民党総裁候補」となることをあらためて条件とした上で、「宮崎のために国政に行く」と意欲を示した。

 知事は条件について「麻生太郎首相の次に自分が総裁になるのではない。総裁候補の1人として衆院選の顔になるということだ」と説明。「いたって真剣だ。ふざけたり、おちょくっていることはない」と強調した。県庁で記者団の質問に答えた。

 自民党から出馬したものの政権交代が起きた場合については「野党になったらしょうがない。民主党の政治をチェックする」と述べた。

 自民党内からの批判に対しては「『頭を冷やした方がいい』と批判する人の方が、下野して頭を冷やした方がいい」などと反論した。


東国原氏の「立候補を要請するなら自分を自民党総裁候補にしろ」という発言が伝えられたとき、私は最初から「本気で言っているな」と思った。
世間では「ジョークだろ」「体よく断っただけ」という見方をする人も多かったけれど(その一例)、そんなに甘いものじゃない。冗談で片付けようとする人たちは彼の権力欲をなめている。東国原英夫という男はおとなしいゴールデンレトリバーのふりをした獰猛なジャーマンシェパードだ。

2007年に宮崎県知事に当選したころから、東国原氏のことをいささか危険な人物だと思っていた。政治活動(というか「政治家活動」)に熱心なのは結構だけれど、テレビ出演のパフォーマンスに臭みがあった。建前としては宮崎県のアピールだが、私には国政進出を目指した個人的売名にしか見えなかった。
これまでも何度か国会議員への立候補を噂され、本人は打ち消してきたけれど、私はぜんぜん信じなかった。よくもまあぬけぬけと、という感じである。
今になってみると「遅かれ早かれ衆院選に出る」「本気で総理になりたがっているから参院に回り道はしない」「一期目の任期は勤め上げて実績を売り物にするだろう」という観察はだいたい当たっていた。とはいえ、一期目の任期途中でいきなり「自民党総裁候補としての処遇を要求」というのは想像を超えている。よく言えば率直、はっきり言うとさもしい男だ。

もともと私は東国原英夫なる人物を信用していない。
知事・政治家としても評価以前だし(せめて任期を終えるまで待てなかったのか)、芸能人としても好感を持ったことがない。個人的な好き嫌いはともかく、知事選であれほど「宮崎県のために尽くす」と言い続けた新米政治家がいきなり「宮崎のために国政に行く」「総裁候補の1人として衆院選の顔になるということだ」などと言い出したら好感を持つのは難しい。宮崎県知事の肩書きを個人的権力欲のために使い捨てたみたいで、宮崎に縁もゆかりもない私も嫌な気持になった。売れたとたんいい気になって糟糠の妻を捨てる芸能人みたいだ。
東国原氏が国政に色気をむき出しにせず、そのまんま県知事として勤めていれば私もとやかく言うつもりはなかった。しょせんはよその県のこと、宮崎県民が満足しているならそれでいい。だが国会議員に立候補する、それも自民党総裁候補(総理大臣候補)の座を要求して、となると断然「やめてくれ!」と叫ばざるをえない。いやもう本当に、悪い冗談としか思えない。

このさき宮崎県知事として実績を積めばどうなるかわからないが、今の東国原氏にあるのは知名度と「人気」だけだ。そしてむき出しの権力欲。こんなポピュリズムの権化のような人物が「世論」の期待を集めるようになったら私はほとんど日本の政治に絶望する。
もしかしたら順番が逆なのかもしれない。善良なる日本国民はすでに日本の政治に絶望していて、人気と権力欲だけの男にもつい劇薬として期待してしまうのか。それとも、すでに自民党の存在を完全に見捨てていて、東国原氏と自民党が抱き合って泥沼に沈むのを笑いものにしたいだけなのか。どちらにしても虚無的・冷笑的で悲しくなる。

いや、嘆くのはちょっと気が早い。別に「東国原の野望」を世間が歓喜して迎えたわけじゃない。今のところは半信半疑というか「気の効いたジョーク」として受け流すつもりの人が多いようだ。私も笑いごとで済めばいいと思う。だが残念ながら楽観はできない。
東国原英夫は本気である。あの男の権力欲を甘く見てはいけない。

鳩山民主党人気に「あの人」を思い出す

2009年05月19日 | 政治・外交
新しい民主党代表に鳩山由紀夫氏が選ばれた。ご当選おめでとうございます。
マスコミ各社の世論調査によると、世論は鳩山新代表をおおむね好意的に受け入れているようだ。「次の選挙で民主党に投票する」と答えた人の割合がはね上がっている。民主党議員と支持者、政権交代論者のみなさんはさぞお喜びのことだろう。

毎日新聞世論調査:「首相に」鳩山氏34% 麻生氏21% 衆院選「民主勝利」56% - 毎日jp(毎日新聞)
 16日の民主党代表選で鳩山由紀夫氏が選出されたのを受け、毎日新聞は16、17日、緊急の全国世論調査を実施した。麻生太郎首相と鳩山氏のどちらが首相にふさわしいかを聞いたところ、鳩山氏との回答が34%で、麻生首相の21%を上回った。次の衆院選で勝ってほしい政党の質問では民主党が56%で、代表選前の12、13日に行った前回調査比11ポイント増となり、自民党の29%の2倍近くに達した。民主党は小沢一郎前代表の公設秘書逮捕で傷ついた党のイメージを小沢氏の辞任と代表選の実施によって回復させたといえそうだ。

asahi.com(朝日新聞社):「比例は民主」38%に回復 朝日新聞緊急世論調査 - 政治
鳩山氏「期待せず」53%、民主支持31%…読売世論調査 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
鳩山新代表「期待」「期待せず」拮抗 日経世論調査 - NIKKEI NET(日経ネット)
【産経・FNN合同世論調査】投票先で民主急伸 麻生支持率は微減 - MSN産経ニュース
J-CASTニュース : 代表交代で世論調査「民主支持」躍進 でも鳩山代表には「期待できない」

鳩山新代表と民主党にケチをつける気はないが、私にはどうも世論の動きが妙なものに見える。
代表選前の世論は「岡田氏支持」の声が多かった。たぶん3:2とか2:1くらいの割合で優勢だったと思う。それなのに鳩山氏が選出されるとたちまち支持が集まる。「なんだ、小沢氏じゃなければ誰でもよかったのか」と言いたくなる。「鳩山氏と民主党は期待されているな」というより「小沢氏と自民党はずいぶん嫌われたものだ」という感じがする。

半分ネタとして(つまり半分は本気なのだが)「鳩山民主党への支持拡大は小沢氏のがんばりのおかげ」説をとなえてみよう。
賢明なる日本人、心ある有権者のほとんどは自民党の終わりなき悪政にうんざりしている。ここはどうしても民主党に政権をとらせるしかない。ところが、代表の小沢氏は「国策捜査」の標的にされて秘書逮捕の汚名をかぶせられてしまった。小沢氏の潔白に疑いはないけれど、口下手のせいで説明責任を果たしているとはなかなか認めてもらえない。このまま選挙を迎えて民主党を素直に応援できるのか。「小沢総理」が実現していいのか。いやそれは困る。
政権交代したい、でも小沢氏は困る。小沢氏は困るけれど、やっぱり政権交代は必要だ。
約二ヶ月のあいだ小沢氏が辞任せずがんばり続け、休火山のマグマのように有権者がフラストレーションをためていく。
そこにようやく小沢氏が辞任し、天下晴れて鳩山新代表が誕生した。本当は岡田氏のほうが望ましかったけれど、もうそんな細かいことを言っている場合じゃない。とにかく小沢氏がやめてくれてよかった、これで心おきなく民主党を支持できる。
「鳩山氏を総理に!」。浅間山の水蒸気爆発。本当にマグマが噴き出す大爆発になるのかどうかはわからない。

要するに、「政権交代への期待」と「小沢氏では困る」というフラストレーションの反動が鳩山民主党支持率急上昇のエネルギーになったというお話。2001年の自民党総裁選を思い出す。不人気だった森氏の後任をめぐって小泉氏と橋本氏が争い、当初は劣勢だった小泉氏が世間の小泉ブームを追い風にして勝利した。その後の長期政権はみなさんご存知の通り。
だが似ているのは「前任者の不人気」だけで、「劣勢の見込みを逆転」とか「世論の追い風が勝利の原動力」という部分はまったく違う。鳩山氏の場合はむしろ橋本氏が勝った場合に似ている。最初からグループ(派閥)の票読みで優勢だったし、世論の風はむしろ岡田氏に吹いていたのに今は勝ち馬に乗る形で鳩山氏を後押ししている。不吉な言い方をすると、小泉ブームと違って自力で起こしてつかみ取った風じゃないから、いつパッタリやんでも不思議はない。鳩山氏と民主党にとってはこれからが勝負どころだ。

世論調査に表れた「鳩山民主党への期待」はフワフワしていて、2005年から2006年にかけて存在した「安倍次期総理への期待」に似ている。今となってはなんだか信じられないが、郵政選挙の後しばらくのあいだは小泉政権と構造改革路線が広く強い支持を集め、その流れの中で安倍氏が次期総理候補として期待の的になっていた。
私は「小泉ファン」を自称しているけれど小泉内閣と構造改革路線には是々非々のつもりだったから、郵政選挙後の第二次小泉ブームには取り残された感じがした。そのなかでも「安倍人気」は特に理解できなかった。どこがいいのかわからない、と言ってしまうと酷だが(人としては別に嫌いじゃない)、当時の安倍氏が総理大臣として適格かどうか大いに疑問だった。
安倍氏は(鳩山氏も)毛並みのいいお坊ちゃんである。祖父は総理大臣で、性格的には現実主義というより理想主義者だ。なにしろキャッチフレーズが「美しい国」(「友愛」)である。キラキラして結構な言葉だけれど、なんともつかみどころがない。はたしてこういう人が有力閣僚の経験もないまま総理になっていいのか、細川の殿様の二の舞にならなきゃいいが、と心配した。
国民の期待を一身に集めた安倍氏は「選挙に勝てる総裁」として小泉氏の後継者に選ばれ、意欲的に政権を運営した。
だが残念ながら、健康問題もあって一年という短期間で政権を投げ出すハメになる。在職中から安倍氏の評価は低落し、どうやら今では安倍内閣と70%ほどもあった高支持率の存在自体が忘れられたというか「なかったこと」にされている感がある。

安倍内閣の盛衰を見ていると、まことに世論とは、支持率とはうたかたのものだと思わずにいられない。
その点「支持率に一喜一憂しない」と言い続けた小泉元総理は正しかった。鳩山民主党が高支持率に浮かれていると安倍内閣の二の舞になりかねない(いや、別に安倍氏が浮かれていたとは思わないけれど。むしろ「浮世離れしていた」というほうが近い。そういえば、鳩山氏のあだ名は「宇宙人」で浮世離れ度では安倍氏に勝るとも劣らない)。
麻生総理も「支持率にこだわらない」と言っているが、なにしろ支持率自体が低いので「負け犬の何とやら」に聞こえてしまうのが玉にキズである。

解散になるのか、任期満了を待つのかはともかく9月までには必ず衆院選挙がある。政権交代を賭けて麻生自民と鳩山民主が全力で激突するだろう。どちらが勝つにしろ負けるにしろ、日本のため国民のために正々堂々と戦ってほしい。

「騒ぐな」と 騒ぐ人たちの 騒がしさ(その3)

2009年04月09日 | 政治・外交
これが3回目の記事で最終回(の予定)。

なぜ自分が今回の北朝鮮ロケット問題で「『騒ぎすぎだ』と騒ぐ人たち」が気になるのか、不愉快なのか。
つらつらと(というかぼんやりと)考えてみると、「ニセ科学批判批判」する人たちの姿を思い出すからだと気がついた。
「ニセ科学」「ニセ科学批判」「ニセ科学批判批判」という言葉はまだ一般的ではないので(とくに最後の一つは)、ご存じない方はこちらの記事をお読みください。

 「ニセ科学」入門
 ニセ科学批判まとめ %作成中 - 「ニセ科学批判」批判 FAQ

あらかじめ断っておくと、「北朝鮮のロケット(ミサイル)を批判すること」と「ニセ科学を批判すること」とはまったく関係がない。片方に強い関心がありもう片方には無関心な人もいるだろうし、両方関心がある人もいるだろう。
私が似ていると感じたのは、それぞれに対して「批判の批判」を行う人たちの態度だ。どちらも「騒ぎすぎだ」と言いたがる。「そんなことよりも ~ のほうが問題だ」とお説教する。「別の意図がある、悪意を持って『敵』を貶めているだけだ」と勘ぐる。まったくうんざりさせられる。
他の人はどうか知らないが、私が北朝鮮のロケットを問題視したりニセ科学を批判するのは「これはヤバい、放置すればやがて自分の安全が脅かされる」と感じるからだ。だからこそMDの盾をかざす政府と自衛隊を支持し、ニセ科学批判する人を応援するのである。それなのに「騒ぎすぎだ」などとケチをつけられると「自分に害をなす(可能性が高い)連中の味方か」と警戒し怒りをおぼえてしまう。たぶん「騒ぎすぎ」論者に悪意はないのだろうけれど。



北朝鮮ロケット問題で「騒ぎすぎ」論を唱える人の多くは「左の先生方」と思われる。北朝鮮への敵意とミサイル防衛(MD)への支持(そして自民党政府への支持)が高まるのは左の先生方にとっては不快なことだから、その意味で「騒ぎすぎ」批判は合理的だ。
それなら「右の先生方」は何をしていたのかというと、大体はニヤニヤしそうになるのをこらえつつしかめ顔をしていたと覚しい。左の先生方とは反対に、北朝鮮のロケット(ミサイル)発射が国民の危機感を高めるのは彼らにとって望ましいことである。だが「怒れ!叫べ!踊れ!」とあからさまにはしゃぐといかにも下品であからさまだ。考えのある右の先生は冷静に(あるいは冷静を演じて)北朝鮮を批判する。
…はずなのだが、なかにはオッチョコチョイの先生もいる。

asahi.com(朝日新聞社):自民・坂本氏「日本も核を」 党役員連絡会で発言
 自民党の坂本剛二組織本部長が7日の党役員連絡会で、北朝鮮のミサイル発射について「北朝鮮が核を保有している間は、日本も核を持つという脅しくらいかけないといけない」という趣旨の発言をしたことが分かった。出席者によると、坂本氏は国連安全保障理事会で日米が唱える新たな決議の採択が難航していることにも「国連脱退くらいの話をしてもよい」との考えを示したという。

 坂本氏は8日、朝日新聞の取材に対し「日本は国際社会に対して国連を脱退するぞ、核武装するぞと圧力をかけるくらいアピールしないとだめだという例えで言った。現実に日本が核武装できないのは知っている。私は核武装論者ではない」と話している。

はっきり言ってアホである。たとえ話をすれば底なしのバカだ。
私はだいたい失言には寛容というか甘いのだが、これは庇う気にもなれない。「例えで言った」というけれど伝えられる発言は「そのまんま」である。これが「日本はもっと毅然としなければいけない、たとえば~」というのであれば「馬鹿げた例えだけど、真意は別にあるんですね」とも言える(甘いかな)。だが、坂本発言は真意と例えの距離がほとんどゼロである。これでは柳沢厚労相の「産む機械」失言のように「例えは不適切だが真意は問題ない」と弁解するのは無理だ。「例え」で持ち出した国連脱退論(論?)や核武装論(論??)はまさに論外である。坂本氏が弁解するならきっちりと否定しないと話にならない。



右側の先生方は「怒れ、騒げ、踊れ!」とけしかけたいのを我慢しており(あれでも)、左側の先生方は「騒ぎすぎだ」と説教する、というのが私の見方だが、中立的な(あるいは右寄りの)論調で「騒ぎすぎ」を戒めるものがある。


ひとつは「日本が騒ぐと北朝鮮にナメられる、金正日を喜ばせるだけだ」というもの。
なかなかもっともらしい話で半分同意する。逆に言えば半分は釈然としない。日本政府も日本人もそんなに騒いでないだろ、むしろ落ち着いている(マスコミを除いて)というのが私の意見である。
だいたい、「北朝鮮にナメられないために~しなければならない」という発想自体が北朝鮮中心ではないか。たしかにナメられないほうがいいけれど、「ナメられたくない、どうすればいいんだ」と神経質にしているとかえって馬鹿にされそうだ。一人前の大人なら人目を気にするより先に自分らしく堂々としていればいい。日本が「一人前の大人」かどうかはともかくとして。
さらに、「北朝鮮が日本をナメているのは『騒いでいるから』じゃないだろう」とも思う。政治的・経済的・軍事的に、必要があれば北朝鮮の喉元を締め上げるような力を持たないことこそが、傲慢な独裁者が日本を軽侮する原因ではないか。そして、そのようなあり方は戦後ずっと日本が歩んできた道そのものではないのか。「騒ぐとナメられる」とか「ナメられないために毅然としよう」という議論そのものが上っ面だけのものに思えてならない。


もう一つは、「日本にとって脅威なのはノドンであってテポドン(とその発展型)ではない」という説。

 どうせ北朝鮮問題は科学的なコンテキストで語られないよ
 科学的コンテキストで語られななくても半可通はやめろ

「テポドンよりノドン」に一理あることは認めるが納得もできない。下の批判記事のほうに同意する。
付け加えれば、今回打ち上げられたロケット(ミサイル)の一段目は新開発の大型ブースターだ。北朝鮮の核弾頭がどれくらい小型化されているかは誰にもわからないが、ノドンやテポドンで運べない大きさ(重量)があっても新型ブースターを使えば日本に打ち込むことが可能になる。簡単に「新型ロケット(ミサイル)は日本に関係ない」と無視するわけにもいかない。


最後は、「韓国やアメリカは『騒いで』いない、見習うべき」という意見。朝日新聞が外国人記者の意見として伝えて(言わせて?)いる。

 asahi.com(朝日新聞社):「日本は軍事的脅威に免疫ない」 駐日特派員の見方

ロケット(ミサイル)が国土上空を飛ぶのは日本であって韓国でもアメリカでもない。少々(どころではなく)無理なお説教である。それはともかく、国柄が違うのに簡単に見習っていいのか、慣れるのが望ましいのかという疑問がある。
アメリカのことは置いといて(といっても後で論じるつもりはない)、韓国の「落ち着き」について。あれは落ち着いてるんじゃなくて麻痺してるんじゃないか、北朝鮮の危険から目をそらしてるだけじゃないのかと思える。こういう言い方は今も臨戦状態にある(朝鮮戦争はあくまでも『休戦中』で終わっていない)韓国国民に失礼なのは承知しているが。
東京に来たばかりの外国人が震度2の地震を体験して顔を真っ青にして怖がっていたら、「地震に慣れた」日本人は笑っていいのだろうか。「落ち着けよ、これくらい慣れなきゃ東京で暮らしていけないぞ」と諭すべきなのか。そうする人は多いだろうし、私もやりそうだが、かといってそれが本当に正しいこととは思えない。関東地方は周期的に大地震に襲われる地域である。関東大震災からすでに85年が経ち、地下深くにかなりのエネルギーがたまっているはずだ。それが明日にも放出される可能性はゼロではない。プレート境界を震源とする関東地震の周期は200年以上といわれているが、安政の大地震のように非周期的な(?)地震も起こりうる。
「地震に慣れた」日本人がそれにふさわしい万全の地震対策を整えているかといえば、まったく心もとない。むしろろくに準備できていない家庭や企業のほうが多いのではないか。それでも「震度2くらいでは動じない、地震に慣れた」顔をするのは簡単だ。根拠はなくても「明日(来月・来年・10年以内…)大地震が起きるはずがない」「これまでずっとそうだったのだから」と決め込めばいい。
「地震に慣れた」日本人と小さな地震で顔を青くする外国人、はたしてどちらが健全なのか。慣れた日本人は「明日も大丈夫」と地震対策をせず、臆病な外国人は万全の防災対策を施す。外国人が「騒ぎすぎ」なのかどうか、誰に断言できるだろう。

「騒ぐな」と 騒ぐ人たちの 騒がしさ(その2)

2009年04月07日 | 政治・外交
まずはどうでもいいことから。
前の記事でなんとなく「北朝鮮の怪しいロケット」という言葉を選んだのだけれど、今思うとなかなか適切な言い方だった。「ミサイル」と呼ぶと左のほうから「勝手に決め付けるな、あれは人工衛星だ!」と怒られ、さりとて「(自称)人工衛星」と言えば右から「ミサイルと呼ぶのを避ける輩は北朝鮮におもねっている!」と叱られる。難儀なことだ。
北が何のつもりでロケットを打ち上げたのか知らないが、特に呼び方にこだわって議論する必要はないと思う。「人工衛星打ち上げ」だろうと「ミサイル発射」だろうと、どちらにしても「北朝鮮の大型ロケット実験」には変わりない。大型ロケット技術はほとんどミサイル技術と重なるから、北朝鮮のように軍事的恫喝を繰り返す独裁国家のロケット実験は安全保障上の脅威にほかならない。その意味で、「怪しいロケット」という呼び方は本質を捉えていて最も適切である。…というような気がするのですがいかがでしょうか(急に弱気)。


さて、前回の続き。
「北」の怪しいロケット問題で「『騒ぎすぎ』と騒ぐ人が騒がしい」と書いたのだけれど、考えてみると彼らが何に対してどういうつもりで「騒ぎすぎ」と言っているのかよくわからないのだった。直接聞いてみれば早いのだろうけれど、いろいろ面倒なことになりそうなので勝手に想像することにした。
「騒ぎすぎ」と批判されているのはたぶん以下の三つのうちのどれか一つ、あるいは二つ、たぶん全部であろうと思われる。


1 マスコミが騒ぎすぎ

確かにマスコミは騒いでいた、らしい。
らしい、というのは私が最近あまり(ほとんど)テレビのニュース・ワイドショーや新聞を見ていないので、実際どうだったのかよく知らないのだ。「北」のロケット騒動のずっと前から(覚えている限りでは年金未納騒ぎの頃から)、マスコミと「世間」がつまらない問題で空騒ぎするのにあきれて真面目に見るのを避けるようになった。今積極的に見ているのはBSニュース「きょうの世界」だけである。落ち着いた雰囲気が好ましく、なによりもキャスターの丁野奈都子さんが素敵すぎてたまらない。
…それはともかく、「北のロケット問題でマスコミは騒ぎすぎだ」と言われたら「まあそうなんでしょうね」と答えるけれど、「でも、日本のマスコミはずっとそんな調子でしょう」と付け加えずにはいられない。記憶に新しいところでは、「麻生総理が定額給付金を受け取るかどうか」などという国民生活にまったく関係ないゴシップがあたかも大問題であるかのように騒いでいた。まったく理解の外である。
それと比べたら「北」の怪しいロケット問題は大いに騒ぐに値する。短期的には(万一の自乗くらいの確率だけど)日本人の生命財産が損なわれる可能性があり、長期的には安全保障上の頭痛の種だ。いたずらに不安をあおる必要はないが(残念ながらそのような報道は多かったらしい)、「北」の怪しいロケット問題をある程度の重要問題として伝えるのはむしろあたりまえである。


2 国民が騒ぎすぎ

何も調べたわけじゃないけれど、自信を持って断言する。ロケット騒動で「騒いだ」日本国民は1%もいない。
たしかにニュース番組が取材に行けばカメラの前で眉をひそめて「怖いですね」とは言うだろう。あるいは世間話で「嫌ですね」「まさか本当に落ちてこないよな」と言い合いもするだろう。だが本心からそう思っているかどうかは疑わしい。怪しいロケットによる被害を本気で心配する人が多ければ、東北地方で疎開騒ぎとか迎撃ミサイル(PAC3)の誘致合戦とか起こりそうなものだ。そんな話はまったく聞かない。
怪しいロケットを利用して何らかの目的で騒ぎ立てる手合いもいただろう(主に「右」のほうで)。だがそれはロケット問題の騒ぎというより「煽り屋問題」と呼ぶほうが適切だ。右の煽り屋が騒いだとして、それに踊らされた国民は私の見る限りほとんどいない。拉致問題のように実際に嘆き悲しむ被害者がいれば扇動も効果的だが、(今のところは)「杞憂」のようなロケット問題で空騒ぎするほど日本人は暇ではない。

ここまで国民のあいだで「騒ぎ」は起きていないと書いたが、それは「ロケット問題は何の影響も残さない」ということを意味しない。
特に大騒ぎもせず、半ば社交辞令として「テポドン怖いですね」と言い合う人たちが今回の事件に何を見たか。国際社会の制止を無視し、日本が危ないからやめてくれと言っているのに嫌がらせのように怪しいロケットを飛ばし、東北地方の人々に多少の不安と迷惑を与え、誰にも観測できない「人工衛星」を大成功だと言い張る北朝鮮という国の浅ましい姿だ。軍事独裁国家への静かな不安と怒りは確実に高まった。
ロケット問題で「国民は騒ぎすぎだ」とありがたくも説教する(主に左のほうの)先生方は、伏流水のような不安と怒りの存在を正しく認識しているのだろうか。どうもそうは思えない。不安と怒りから目をそらし、中身のない「騒ぎ」だけがあったのだと信じ(それこそが幻である)、「騒ぎ」を批判し否定すれば不安と怒りも消えうせると思っているのではないか。
表層的な「騒ぎ」を叩いて満足する(そして本質から目をそらす)のはもちろん「左の先生方」だけではない。去年暮れから今年はじめ「派遣村」を叩いた「右の先生方」にも同じような心理が見える。派遣村を「敵」の扇動による騒ぎ、一回限りの事件とみなして「騒ぎすぎだ」「騒ぐな」と批判する。派遣村の本当の問題は目に見えるテント村よりも「なぜ彼らはそこに集まったのか、集まらざるを得なかったのか」ということなのに、「騒ぎ」を叩いて終わらせることで満足してしまう。「炎が消えたら火事は消えた」と思い込むようで、まことに危うい。一度炎が消えても瓦礫の下に火種と燃える材料があれば、いつでも激しく火の手がよみがえる。


3 日本政府と政治家が騒ぎすぎ

たぶんこれが一番の主眼なのだろう。世の中に一家言ある先生方にとって政府批判・政治家批判ほどの好物はないのだから。だけど私には無理やりな「ためにする批判」としか思えない。
私の知る限り今回の事件で責任ある立場の政治家が過激で攻撃的な問題発言をしたということはない。そんなことがあれば朝日新聞をはじめとしたマスコミが好んで取り上げそれこそ「大騒ぎ」して、2ちゃんねるで「またマスコミのバカ騒ぎか」と叩かれ、私も気付いていたはずである。逆に茶化すような発言(「ミサイルが見えたら『ファー』って言う」)ならあったけれど、これは「騒ぎすぎ」論者にとっては好ましいたぐいの問題発言と思われる。実際意外なほど批判されなかった。
過激な言動とかではなく「弾道ミサイル破壊措置命令」を発令したこと自体がけしからん、ということなのだろうか。「平和を愛する」方々が軍事的な事柄をケガレとして嫌うのはわかるけれど、これも無理な言いがかりだろう。
世界のどこかの国(イギリスでもタイでもアルゼンチンでもいい)を仮に日本列島の位置に移動させたとする。そこに今回の北朝鮮ロケット事件が起きる。賭けてもいいが、よほどの北朝鮮友好国(そんなものあるのか?)でもないかぎり、政府は「危険だからやめてくれ」と要求し、国民は不安を感じ、北朝鮮に対する怒りと反発が強まることは間違いない。もみ手して「衛星打ち上げですか、結構なことですな。わが国の上空を飛ばしたいとおっしゃる。ああどうぞどうぞ、大歓迎です」などと言うはずがない。なにしろ軍事独裁国家北朝鮮の、技術的に不安だらけの、正体不明の自称「人工衛星打ち上げ」である。そんなものを信用できるお人よしの国民がどこにいるだろう。
北朝鮮の怪しいロケットが自国の領空を勝手に通過するとなれば、その国の政府は国民に万一の場合に備えて関係各機関(軍隊も含む)に対応を命じ、国民に情報を提供し注意を呼びかけるのは間違いない。つまり今回の日本政府の対応と同じだ。日本にはさいわいミサイル防衛システムがあり、落下物を撃破する能力がある。「弾道ミサイル破壊措置命令」でミサイル防衛の盾をかざすのは当たり前で、やらなかったら間抜けである。
「アメリカも韓国も騒いでいないのに日本だけが騒いでいる」という類の批判はまさに笑止だ。怪しいロケットが飛ぶのは日本の上空であって韓国やアメリカ(やその他の国)ではないのだから、日本がいちばん重大視するのは当然ではないか。


「日本は騒ぎすぎ」という意見が何を意味しているのか考えてみたけれど、マスコミ批判以外は無理やりなこじ付けとしか思えなかった。難癖をつけるには「騒ぎすぎ」とか「毅然とした態度を示せ」とかいった空疎な言葉はまことに便利である。なんだか立派なことを言ったようでいい気分だし、具体性がないから反論されるおそれも少ない。一般国民を批判するのは鬼門だが(そうでもないのかな?)、政治家の悪口はほとんど全国民共通の娯楽だ。かくして「日本は(政府は・政治家は)騒ぎすぎだ」というありがたいお説教があちこちで聞かれることになる。
「騒ぎすぎ」批判が一定の説得力あるものとして受け入れられる日本は、やはり静かで平和な国だ(今のところは)。