ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

自分の居場所 『夢見る帝国図書館』

2021-07-07 | 読むこと。



ずっと気になってたこの本を衝動的に買ってしまったのは、世界がまだ新型コロナウイルスに
振り回される前のこと。
京都で映画「ニューヨーク公共図書館」を見たからです。
図書館熱に浮かされていたのでしょうねえ(笑)

ところがせっかく買ったのにも関わらず、当時はなかなか忙しくて本を読むのは
寝る前の布団の中だけ。
途切れ途切れで読んだせいか、もうひとつ入り込めなくて・・・
レビューも書かずじまいでした。

先日ふとこの本のことを思い出し、もう一度読み直してみることに・・・
そしたら、なんというか・・・、改めて図書館というものの懐の深さ、奥深さに
じんわりと感動。
そこに居場所を見つけた人々を暖かく包み込み、惜しみなく知識を与えてくれる
なくてはならない存在なのだなあとしみじみと思ったわけです。

この作品のおもしろいところは、作者を思わせるフリーライターの〈私〉と
上野の公園で偶然知り合った喜和子さんとの不思議な交流を描きつつ、交互に
帝国図書館の歴史を名だたる文豪たちを交えて、ユーモアたっぷりに描いていることです。
というのも、〈私〉が喜和子さんから帝国図書館の話を書いてほしいとたのまれたから。

飄々と自由に生きているように思えた喜和子さんの意外な過去が次第に明るみになり、
喜和子さんの行動を許せなかった娘や、喜和子さんを理解しようとする孫娘も登場します。
他にも喜和子さんのまわりには、元恋人の大学教授やホームレスの男性、同じアパートの住人の
芸大生などがいて、登場人物も多彩で個性的。
この登場人物について作者は、上野という場所から考えていった部分がある、
と言われていますが、戦後はバラックが建ち並んでいたという上野の、雑多な一面を
表しているのでしょうか。
雑多といえば、この作品には、喜和子さんのような抑圧された生活を強いられた女性、
母娘の関係、セクシャルマイノリティなど、今でも話題になっている様々な問題が
取り上げられています。
が、かといってそれが重いわけではなく、いろんな人(特に問題を抱えた女性たち)に
対する作者のあたたかな目線が感じられ、エールを送られているように思えます。

一方、東洋一を目指した帝国図書館は、それとは程遠い苦難の歴史を繰り広げるわけですが、
そこに通い続けた作家たちもまた個性的で、とても生き生きと描かれています。
いえ、作家だけではありません。
図書館のために奮闘した人々や、戦時中に犠牲になった動物園の動物たちのエピソード
なんかもあって、帝国図書館の歴史がとても身近に感じられるのですよねえ・・・
後の文豪たちも、戦争から戻ってきた兵隊さんも、喜和子さんのように居場所を失くした女性も、
そんな帝国図書館に自分の居場所を見つけたのかもしれませんね。

帝国図書館の最後のほうのエピソードで、戦後訪れたアメリカ人女性のことが出てきます。
女性軍人であった彼女は、内密に日本の憲法の草案に関わることになり、帝国図書館へ
世界中の憲法関連の本を借りにきたのでした。
少女時代を日本で過ごした彼女ベアテ・シロタは、何冊もの原書を抱えて思うのです。

私が憲法草案を書くなら、と、ベアテは考えた。
この国の女は男とまったく平等だと書く。


敗戦下の図書館がひとりのアメリカ人女性に貸し出した、ありったけの憲法関連書籍が、
九日間で憲法草案を作り上げた人々の最重要参考文献だったとのことです。

この作品の最後にこんな文章があります。

    とびらはひらく
    おやのない子に
    脚をうしなった兵士に
    ゆきばのない老婆に
    陽気な半陰陽たちに
    怒りをたたえた野生の熊に
    悲しい瞳をもつ南洋生まれの象に
    あれは
    火星へ行くロケットに乗る飛行士たち
    火を囲むことを覚えた古代人たち
    それは
    ゆめみるものたちの楽園
    真理がわれらを自由にするところ



ちょっと、胸が熱くなりますよね・・・
コメント (2)
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