規模拡大から脱却 放牧主体で生産費圧縮
40頭の牛から搾乳できるロ-タリ-パ-ラ-。 大規模酪農家を飼料・燃料の高騰が直撃して いる=十勝管内豊頃町のJリ-ド(写真クリック)
全道の酪農家が悲鳴を上げている。飼料や燃料が高騰、「全道酪農 家平均で三百八十九万円の減収」(道立畜産試験場・原仁研究員)と いう事態になっているためだ。
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そんな中、「2007年は六百万円ほど借金をしても、それ以上の生活 費が残った。08年は借金の返済額も減るし、当面、赤字の心配はな い」と言い切る酪農家がいる。根室管内を中心に十数戸が参加する 「マイペ-ス酪農」グル-プのメンバ-で40歳。夫婦2人で45頭を飼 っている。マイペ-ス酪農とは、経営規模を過度に拡大せず、放牧を 中心とする「自分流の経営」のこと。結果として生産費を低く抑え、労 働時間を短くでき、経営と生活にゆとりが生まれる農家が多い。昨年 12月19日、根室管内別海町でグル-プの忘年会を兼ねた月例会が 開かれた。代表格の大島義徳さん(64)=同町=は「今年もほどほど の働きで健康に過ごせた。幸せなことだ」と相好を崩した。この夜集ま ったのは19人。参加者の一人は「酪農家は忙しい人が多いが、僕た ちのところでは、牛が自分でやってくれるので自由時間が多い」と笑う。 放牧主体のため、採草やふん尿散布などにとられる時間が少ないから だ。道内酪農家の生乳販売高に対する飼料費の割合(乳飼率)は、通 常、三-四割に上る。これに対し、「マイペ-ス」メンバ-は二割前後。 機械作業も少ないため燃料費も借金も少ない。農業収支は全員が余裕 の黒字だ。各自が自家製チ-ズなどを持ち寄ったうたげは夜八時から 始まり、全員のスピ-チが終わったころには11時半を回っていた。大島 さんは「仲間とこんな時間が過ごせることが何よりの財産だ」と話した。 その前日、JA全農が飼料価格の7%上げを発表した。全国有数の飼育 頭数を誇る農業組合法人「Jリ-ド」=十勝管内豊頃町=の井下英透代 表(49)は頭を抱えた。前年からの連続値上げで、06年の一億円が07 年は一億二千万円に上がった。「これ以上、飼料費がかさむと・・・」。井 下代表は表情を曇らせた。役員4人、従業員11人で430頭を搾乳、生 乳販売額は二億八千万円。乳飼率42%。人件費、借金返済などを引い た法人所得は約五千万円の赤字だ。個体乳量日本一の記録を今も三階 級で保持し、優秀な経営で知られる井下さんでさえ、飼料高に打つ手は 「乳価値上げしかない」。
酪農学園大の荒木和秋教授は「大規模酪農家ほど配合飼料に頼 っている」とし、「外部経済依存型の北海道酪農が転換を迫られて いる。放牧など草地資源活用が大事だ」と指摘する。高級アイスク リ-ム「ハ-ゲンダッツ」の原料乳を生産している釧路管内の浜中 町農協(石橋栄紀組合長)は新年度の事業計画に全国の農協で 初めて「放牧」を明文化して盛り込む予定だ。既に昨年、職員計八 人をニュ-ジランドへ派遣、①放牧適合牛への改良②高栄養牧草 作り-などの研究に着手している。石橋組合長はこう言う。「放牧 に向かわざるを得ないし、ここではそれができる。牛と人間と環境 に良い放牧こそ、酪農の進む道だ」