Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

YAMAHA TC800GL について

2019-07-31 01:44:58 | カセットデッキ

 1970年代のYAMAHAオーディオは性能はもちろんだが美しいデザインの製品を数多く発表していて当時のオーディオ界に花を添えていた。白木を前面に出したアンプやスピーカーなどはスマートでいかにも良い音がしそうな雰囲気でアマチュアが作った無骨なセットとは大違いだ。ほぼ全ての分野にわたりそれぞれに記憶に残るような製品を残している。今回のTC800GLはカセットデッキのデザインにおける記念碑的な製品でデザイナーはイタリア人のマリオ・ベリーニ氏。 氏の作品はタイプライターや電卓、家具などが有名でご存命。もともと建築科のご出身だがまず工業デザイナーとして名を馳せた。その後建築家としても活躍され来日した時のインタビューでは東京デザインセンター(五反田)、ベリーニの森(横浜)などが印象的だったと語っている。

 

 YAMAHA TC800GLは1976年に発表された。縦でも横でも無い「斜め」で独創的。当時結構高価(75,000円)だったが性能的には見るべきものはなかったらしい。

 

(出典:hifiwiki https://www.hifi-wiki.de/index.php/Yamaha_TC-800GL)

 

 

 YAMAHA TC800GL その1

  

 縁あって拙宅にやって来たがもちろん不動。通電するとメーターランプは点燈する、カセットテープが入っていかない、無理に押し込んでピアノの鍵盤みたいなボタンを押すと一応走行するが数秒でストップする、音声出力はなし、カウンターは動かない、スイッチがひっかかって出てこない、など。

外観は大きな傷もなく43年前の製品としてはまあまあかと思う。

 早速資料を探すがオーナーズマニュアルは見つかるがサービスマニュアルは発見できず回路図、基板図もわからずでこれは困った。TC800Dのサービスマニュアルはあるのだが基板の構成が異なっているし回路も違う。しかしそれ以外参考にするものがなくこの状況はアマチュアにとっては致命的。仕方ないので機械的な部分のメンテナンスから。。

  

  

 カセットリッドの取り外し方はTC800Dのマニュアルにあった。内部は荒れた様子はなく幸いにも一通りの掃除と給油を行うと走行系は復活した。テープカウンターベルトは外れていたが多分伸びて使えないはずなので少し小さめなものと交換した。この作業は結構手間取ってしまいメカニズムを外して行うべきでかなり時間を費やしてしまった。これで再生、巻き戻し、早送り、ポーズ、EJECT、電源ON時のポーズ解除、自動停止などができるようになった。

 しかし相変わらず左右とも信号は出力せずどうもアンプ基板に通電されていないようだ。電源は走行系統とオーディオ系統に分かれている。電源基板は独立していてこのあたりがTC800Dと異なっている。

  2系統各々にヒューズが入っているが切れてはいない。しかし弄っているうちにこれまた幸いにも通電された。余談だが電源スイッチは電源トランスの2次側に入っていてコンセントに繋がっているときは常にトランスには通電している。これは他の製品でも見かけることがあり一般的なのだろうか?やはり長期に出かける時はかたっぱしからコンセントを抜かなくてはいけない。またメーターのパイロットランプの発熱で樹脂が変色、変形しているのでできればLEDに交換したいところ。これで信号出力されたがなぜか片CHのみでまたバタバタした。原因はヘッドの断線だった。。

 ヘッドはカタログによると「スーパーハードパーマロイ」とのこと。一般にパーマロイヘッドは磨耗しやすいのが弱点と言われるが音が良いらしい。どうやって硬くしたかは不明だがとにかく同じものは入手困難と思われるので代替品を探さなくてはならぬ。それまでいったん組み立てておこう、、ところが組み終わると症状のぶり返しでまたアンプ部に給電しなくなって振り出しに戻ってしまった。偶然治った時に原因追求が甘かったと反省。ところが再び分解して悪戦苦闘して判明した原因は意外なところだった。

 ACコードのジャック部にあるスイッチでプラグを差し込むと押されてONになる。ところが電源コードがオリジナルでなかったらしく差し込む向きでこのスイッチがONにならなかったりする。その時はモーターは回るのだがアンプ部には給電されないという摩訶不思議な状態になっていた。判明するまで結構かかってしまった。。まあ良かったですけど。。

 

 ヘッドを入手しました。中央のが。

 

 断線したヘッドを取り外してDMMでDCRを測ったら238オーム。入手した方は178オーム。寸法的な規格は一緒

 ピンボケですが向かって右の断線ヘッドは結構磨耗していてしっかりと使われていた。パーマロイとはニッケルと鉄の合金だそうで熱処理して使う。欠点はやはり磨耗しやすいということでその後にセラミック含有のフェライトヘッドが多く使われたが特性はパーマロイの方が良かったらしく音に拘ったメーカーは使い続けた。nakamichiのヘッドもパーマロイだったがテープとの接触部分の形状を工夫して磨耗しても特性が変わりにくいようにしていたらしい。(ついでに)独立3ヘッドっていったいどうなってるのか?と当時は不思議だった。

 これで交換してみると出力はアップしてLINEの左右差は認めず特性も無調整だが聴感的には改善してやはり旧ヘッドはかなり傷んでいた。テストテープによるアジマス調整はまだだが聴感アジマス調整でも多分そう大きな狂いはなさそう。ところがメーターは左右均等に振れるのだがヘッドホン出力は左CHのレベルが低い。TC800Dの回路図ではメーターとヘッドホン共にオペアンプの出力にある、、、色々と問題が噴出します。

 幸いにもメーカー発表の回路図が入手できました。

 やはりTC800Dとはかなり異なります。特にメーター周りはLED表示のためか大変更あり。肝心のヘッドホンのゲインは調整するところは無く回路はメーター基板にあるのだがなぜかこの基板図が抜けている。。なんとかパターンを追って基板の入力に発振器から信号を入れてみるとやはり左右差がありどうも入力の電解コンデンサーが怪しい。ここを同容量のタンタルコンに変更するとゲインは同一になった。信号系統にも電解コンデンサーは多用されていて全部交換したくなる。

 その他の問題点と対策(備忘録)

・巻き戻しが止まることがある → カウンターと繋いでいたゴムベルトがキツすぎた。再度交換。

・pauseするとすぐに停止状態になってしまう → スイッチの接点不良で掃除。

 やはりカセットデッキはデリケートな精密機器であっという間に時間が過ぎる。アマチュアとしては楽しい時間を過ごしたと思わないとやってられない。自分の腕を棚に上げて愚痴が出た。 

 

 

 

 YAMAHA TC800GL その2

 電源を入れて操作ボタンを押すとモーター音はするが不動。アンプ出力、メーターランプも光らない。固着していたドライブベルトを交換するも巻き戻しがうまくいかない。ちょっとこちらは放っておいて出力しないアンプを調べる。その1の事もあったのでACとDCの切り替えに問題があったかもしれないと電池駆動してみるがやはり変わらず。ヘッドホンでは全く無音ではなく少しノイズが入る。内部はかなり混雑しているし基板図がないので困ってしまった。ワイヤーハーネスの括りを切り離さないと接続がわからない。この作業は気が重いが致し方ない。

 

 電池駆動でもダメだったわけだが電源部の回路図を見ると乾電池からもリップルフィルター(TR2部分)に入っている。この辺りをジャンプすると一応信号出力があった。早速TR2(2SD400)を外してチェックすると

 やっぱり破損している。生産は終了しているので規格を調べて代替品を注文した。部品の到着待ちです。

 代替品として2SC2655を選びました。価格は1個あたり10円です。アキバのお店に注文したのですが予備のTRや周辺のパーツの総額は290円に対し送料は500円。。早速交換してみると

 無事信号が出力されました。よかったです。

 次に切れていると思われるパイロットランプ

 

5個のうち2個が切れています。形状は特殊ですがゴムのアダプターに豆球が入っている構造。電圧を測るとDC12Vが掛かっている。手持ちのLEDと交換した。形状は似ているのだが外付けの抵抗器があってアダプター組み込みには少し工夫がいる。とにかく5個とも光るようになった。

 モーターの回転が少し早い。モーターの制御基板はちょっと奥まったところにあり到達するには結構難儀そう。ながめていたら

 モーターの横にある小窓に半固定VRが見える。もしや、、と触っていたらやっぱりこれが速度調整用のものだった。聴感合わせでOKとした。

 巻き戻しの不具合は最後まで解決しなかった。操作ボタンの押しようによっては動く事もあるのだが安定しない。ここは残念ながら断念した。

 しばらく試聴したが問題はなさそう。

 

 

 

   

 確かに個性的なデザインだと思う。ハイエンドを狙った音作りではないしかといって日常生活に溶け込むような佇まいでもない。カセットリッドのデザインは昔学校の視聴覚教室の机に組み込まれていたLLテープレコーダーを思い出す。EJECTボタンを押すとガチャンと結構大きな音を立てて勢いよく飛び出して来るし(2台目のTC800GLはちょっとおしとやかに出てくる)。それにカセットテープを挿入する時は斜め上に向かって押し込むわけで不自然(これは錯覚だった。実際は水平方向)。ウェッジ形状は有効スペースが少なく小型にすることは難しかったのだと思うが縁幅の広いのもちょっと野暮ったい気がする。電池駆動が可能だったりキャリングハードケースがあったりイマイチコンセプトがわからんところもある。7個あるスライドボリューム表示もJBL SG520のようなグラフィック的なものではなく数字が現れる(もしくは隠す)というものでやっぱり使いづらい。プッシュボタンも飛び出た面に(OFF)と書いてあるのも「?」でボタンの位置で認識できるようにできなかったのか。一方で加工精度が良いためかチリとツラがきちっとしているのが気持ちが良い。

 パネルの一番手前にはマリオ・ベリーニ氏の誇らしげなサイン。一方で同じYAMAHAのHP-1ヘッドホンも彼のデザインでカミさんが独身の頃に購入して気に入っていて未だに手元にある。前衛と普遍を両立させるのはむつかしいのだろうなぁ、、と素人は思います。

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。

 

 

 

 

 追記1

 YAMAHA TC800GLとnakamichi 700。 共に1970年台を代表する製品だがnakamichi 700の方が3年早く発表されているし価格も2倍近いスーパーカセットデッキ。カセットテープがオーディオソースになりうる事を証明した。2台は向かうベクトルは異なるが共に魅力に溢れているし時代の熱気のようなものを感じる。70年代と現代社会と比べても意味のない事は分かってますが。

 実はこのnakamichi 700は一度オークションに出品、落札されたが嫁ぎ先からのクレームで出戻ってしまった。理由はスイッチON時の異音(カサカサ音)、録音レベルが低い、、だったような覚えがあるが不正確。確かに停止時にローラーが巻き上げプーリーが触れるような音が聞こえるしゲインが低いような気もするが実際に録音再生操作するとやはりその実力は他を圧倒する。お互いが100%の実力ではないとは思うがまあひっくり返ることはない。詳しいサービスマニュアル(ロジック回路の解説まである)があるのでリファレンスとして手元に置いておくことにした。B&O beogram4400と通じるデザインも気に入っている。自分の好みとしてはUHER CR240と双璧をなす。

 

 

 追記2

 お嫁入りしたTC800GLに不具合が出まして症状は「モーターが回転しない」というもの。早速拝見すると何事もないように回っている、、?? しかしやはり期待した自然治癒ではなくやがて止まった。オートシャットオフ、ゼロカウンターストップは問題ないようで電源基板にあるヒューズも切れておらずモーターアンプの入力、モーター出力にも電圧は出ていて途中の電解コンデンサーの不具合もないようです。どうもモーターそのものの不具合のようで軸の回転が渋い。注油するとすぐに復活してホッとしたが非分解の構造なので軸周囲からオイルをしみ込ませながら回転させてしばらく様子見ながら給油を繰り返した。幸い軸受け部のガタは認められずこのまま様子見となった。モーター軸はオイルレスメタルと思われるがそれでもこういった症状が発生する。

 2日程テストをして送り返したがまた症状が出てしまった。やはり根本的な解決は難しくこちらから申し出て今回は破談となりました。残念です。海外オークションを見るとTC800GLのモーターが出品されている。しかし送料を加えると高額でここは考えてしまう。このモーターは一般的なものに比べて大型で軸に固定されるプーリーも固定ネジが2本使われていてやはり高額な製品だった事が伺える。カタログスペックだけならワウフラッターはnakamichi 700を上回るしFGサーボ付きのSONY TC4550SDさえ凌駕する。

 

 ところが早速分解してみるとモーターはしっかり回っている。。

 

 なんと駆動平ベルトが破折していた。これにはびっくりで今まで経験した事がない。大抵は伸びてしまって交換になるのだがいきなりの、、。実はこのベルトはThorens TD124の平ベルトがそのまま使えます。早速交換して無事復旧した。余談ですがベルトを通すにはフレームからフライホイール軸を離す必要がある。フレームを十分にどかせない場合はベルトを掛ける時には結構苦労する事がある。そんな時は両面テープでベルトとフライホイールを貼りつけながら行うとうまくいきます。あとでアルコール清拭忘れずに。

 外観の問題点で角の剥離がある。

 余勢をかって修復してみた。

   

 貰ったレジンがあったので盛って形成してつや消しブラックで塗装した。TC800GLの表面はとてもデリケートな処理で非常に細かな凹凸がある。これもベリーニの指示だったかもしれないがほんの少しの接触でも傷になりやすい。塗装後に#1200サンドペーパーを押し付けてシボ加工してみたが結果は、、。まあ楽しみました。

 TC800GLの音味はとても穏やかで好ましい。多分初期性能は出ていないと思われますがこれはこれで調和がとれているような。。しばらくまた楽しんでみます。

 

 YAMAHA TC800GL その3

 縁あって不動のTC800GLが来た。軸が回転しないので開けてみると案の定ドライブベルトが溶けてあちこちとばっちっていた。Thorens 124用ベルトと交換して動くようになったが片chがバリバリに歪んでいる。ヘッドアンプはHA1452というhitachiの2chオペアンプが使われている。

 この基板上のこのIC部分を触ってみると改善することがある。特に出力2から入力5への負帰還に問題がありそうでこのヘッドアンプ部のコンデンサーを交換するも完治しない。このままでは安定動作は難しいようなのでICを交換することにして探すが入手が難しい。なんとか見つけて注文したがこれで改善するか?

 HA1452(HITACHI)を入手、交換したがやはり変わらず。ヘッドアンプの出力では歪んでいないことがわかった。では次のバッファ、ドルビーなども疑ってTrを入手したり、コンデンサーを次々に交換したが状況は変わらずにこれには参ってしまった。。そのうち動作中にボディを持ち上げても状況が変わる事がありますます混迷した。原因は再生時に押される接点の不良でここをメンテしてあっけなく解決した。全く出力しないのと異なり大音量で一瞬改善したり不可解な挙動の原因が接点とは、、。なぜ気づかなかったのだろう。

 それにしてもTC800GLのメンテナンスのやりにくさはこの特異な形態によるところが大きいと思うが特にワイヤーハーネスの多さには閉口する。しっかり処理しないと回転系と干渉するし。とにかく無駄な時間と出費も多かったが完了までたどり着けた事と信号系の電解コンデンサーはほとんど交換できたのはよかった。

 


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