1948年に米国コロンビアからLPレコードが発表された。それまでは片面数分の78SPレコードが主流だったがLPレコードは片面で30分、広周波数帯域、ノイズが少ない、落としても割れにくいなどの利点があり瞬く間に78SPレコードに取って代わられた。そして1949年に米国RCA VictorからEPレコードが発表された。EPレコードは直径7inch(17cm)、45rpmで中心には大きな穴があってドーナツ盤と呼ばれた。これはジュークボックスでの扱いを考慮したもので日本ではシングルレコードとも呼ばれていた。LP、EPレコードとも1958年にステレオレコードが登場するまではモノラルレコードのみで針も1mil(マイクログルーブ、78SPレコードは3mil)が使われた。
EPレコードはLPレコードに比べると再生時間が短い(片面で約5分間)ので専用のオートチェンジャーレコードプレーヤーがあった。発売はこの規格を提唱したRCA Victorからで現在でも海外オークションなどでよく目にする。プレーヤー単体以外でも豪華な家具調電蓄などの筐体に組み込まれることもありまたエンブレムを変えたOEM製品もあった。機構は共通でおもちゃのような小さいターンテーブルの中心の太い柱にEPレコードを重ねてセットすると1枚ずつ下に運ばれて(落とされて)再生が始まり片面が終わるとピックアップが退いてまた次のレコードが落ちてきて、、を繰り返す。最後のレコードは手動で停止するまでリピート再生される(と思う)。長いプログラムは箱の中に数枚のEPレコードが収まった形態で発売されていて重ねてセットしA面の連続演奏後に重なったまま柱から抜き取ってそっくり裏返して今度はB面が連続演奏される。オートチェンジャー用にカッティングされたレコードセットは78SP、LP以外でもEPレコードでもあったわけだが片面5分で忙しなくチェンジする様子は78SPレコードを思わせそれをコンパクトに高性能にしたという位置付けだったようだ。EPレコードのオートチェンジャーはチェンジのスピードが速い(約10秒)のも宣伝材料だった。またEPレコードは中央のレーベル部分が一番厚みがあり重ねても溝どうしが接触せずに傷になりにくかった。
LPレコードの回転速度33 1/3rpmは3分間に100回転からと考えられるがEPレコードは直径が小さいためLPレコードと匹敵する音質を確保するために回転を速くした。なぜ45rpmに決まったかはわからないが「33+45=78になるからだ!」という説もあってなかなか面白い。いつの時代もユーザーおいてけぼりの規格戦争は勃発していた。
ポピュラーミュージックのEPレコードは1曲ごとの販売(A面B面あるので2曲になるが)で高額だったLPレコードが買えない若者に支持された。当時の音楽の聴かれ方が垣間見れるがその後LPとEPは共存しレコードプレーヤーも両者が聞ける製品が主流になった。また日本でオートチェンジャーが定着しなかったのはオーディオ装置が一般家庭に普及した時には長尺のクラシックはLPレコードが主流の時代になっていた、また高価なレコードを重ねて傷めたくないという考えの人が多かった(かもしれない)。
RCA Victor 45-J2
かなり以前から拙宅に居るのだがいままで稼働どころか電源を入れたことすらなくずっと気になっていた。佇まいはおもちゃみたいだがオートチェンジャーゆえ機構は結構複雑。当然ワンモーターでオペレーションする。
このRCA Victor45-J2はよく目にする割には稼働している姿をほとんど見たことがなくなにかしらの理由があって修理しずらいのではないかと思っていた。機構は素朴なインダクションモーターの軸でアイドラーを回してターンテーブルを駆動する。このアイドラーは大小2段の構造なのだがこの個体は劣化が激しくスリップしてほとんどターンテーブルを回すことはできない。各部に注油して電源電圧を115V(60Hz)にしたが状況は変わらずターンテーブル駆動部のゴムが劣化しているのとアイドラーにテンションをかけるスプリングの劣化が原因と思われた。アイドラーの再生は外部に委託することはできると思うが特殊な形状なのでそれなりの費用がかかりそう。そこであり合わせの材料で再生してみることにした。
モーターとアイドラーは防震ゴムで吊り下げられている。アイドラーは硬化してひび割れてボロボロ。
各部の寸法を測定して(大小同軸のアイドラーなので寸法の誤差は回転数の誤差になる)劣化して硬化しているターンテーブルに接する小さい方のゴムをカッターで切り落とした。
そしてたまたま同寸法だったゴムブッシュを嵌め込んだ。アイドラーを引き寄せるスプリングは引っ掛ける位置を変更して少しテンションを強くした。これでAC117Vで運転してみると
ターンテーブルは回転するようになりターンテーブル軸から伝達されるチェンジ動作もするようになった。しかし動きがスムーズではなく異音も大きい。やはりモーター軸の接する1次減速部分もなんとかしないとまともな動作は難しそうだ。
アイドラーの金属部分はそのまま使い劣化したゴムをガイドに新たなゴムを加工して接着することにします。まずアイドラー裏面のゴムをカッターで切り取る。中心の金属円盤を挟み込む形なのですべて取り去ると金属部分の厚みの対処が必要でちょっと面倒。金属板と同一の平面で切り取ります。
そして5mm厚のゴム板から大まかに丸く切り出してとりあえず両面テープで貼り付ける。
そして適当なボルトで軸を作りナットで固定しドリルで咥えて回転させ今までのゴムをガイドにやすりで形態を整える。
モーター軸とターンテーブルには常時接触しているのでしばらく稼働させないと変形してしまうのは避けられない。対策としてアイドラーのゴム部分の厚みはEMTに匹敵するくらいに厚くしているが。
これで稼働させてみるとかなり改善を認めた。
回転が安定して異音も小さくなりオートチェンジ、リピート再生動作もするようになりました。 でも音は出ない。針の上げ下げ時には信号回路は短絡させてノイズが出ないようになっている。回路を点検したがモノラルのクリスタルカートリッジ(と思うが)が発電していない様子でさてどうするか。
雑記1 昨日The Beatles の最後の新曲「Now And Then」が配信されそして今日(11/3)ミュージックビデオが公開された。曲を聴いていい曲だなと思っていたがMVを見て不覚にも涙がこぼれてしまった。あらためて同時代に生きたことに感謝します。
調べてみると高出力のセラミックカートリッジは現在も販売されていることがわかり早速注文した。
日本製でステレオ、替え針も販売されている。価格は2000円台。劣化したクリスタルカートリッジを取り外す。
スタイラスガード(?)をリベットを揉んで取り外してこれを取り付け金具としてセラミックカートリッジを固定する。
ステレオカートリッジだが並列接続してモノラル出力とした。針圧は様子を見ながら決定します。これで聴いてみると
残念ながらアイドラーが原因のワウがどうやっても取れず自力再生は諦めた。調べてみると替えのアイドラーやリペアーキットなどが複数売り出されていてやはりアナログレコードの復権と関係あるかと思うがこの製品の人気が伺えた。早速注文した。
しばらくして米国から届きました。
アイドラーの価格は$40だがおまけのマニュアルCD、お菓子、ポストカードなどいろいろと入っている。日本の過剰包装もどうかと思うが米国のサービスぶりもすごい。
早速取り替えてみましょう。
これで再生するとたしかにワウは気にならなくなったがどうもターンテーブルの回転が遅い。115V60Hzの設定にしているがこれはモーターのメンテナンスが必要なよう。
軸受を掃除して給油して組み立てた。単純なインダクションモーターだがネジ穴の遊びはほとんど無くしっかり締めると自動的に位置決めがされる。このあたりはThorensのモーターよりよほど優秀かも?
これで聴感上は問題なくなって暫く聴いてみるとアームがレコード内周で止まってしまいオートチェンジのスイッチが入らない。これは針圧が不足しているため。セラミックカートリッジの最適針圧を越してもとにかく針圧を増やすしかない。
アームの先端付近に両面テープを貼って重りを乗せて様子を伺う。今回はナット1個で解決したのでシェル内に収めた。これでオートチェンジも無事行なわれるようになった。
当時は回転の安定が音質に関わるとはわかっていたと思うがこの製品はそのために慣性モーメントを増加させるという発想は全くなかったようだ。この構造では残念ながらEPレコードの情報を十分に引き出すのは困難だったと言わざるを得ない。線速度は確保しても円盤の直径が小さい事によるトラッキングエラーの大きさからもEPレコード再生は最初からHiFiを諦めていた。しかしオートチェンジャーによる長尺プログラムの再生はLowFiゆえ廃れたがポピュラーミュージックの1曲販売の器として生きながらえた。
LP、EPレコードが誕生してからCDが登場するまでの35年間はLPとEPが共存しSPレコードを引き継いでアナログ再生の時代が続いた。その前のSPレコードの時代は機械式吹き込み時代を含めると半世紀以上と非常に長い。CDは登場して40年ほどになるがそろそろ終わりが見えてきている。現代においてもアナログレコードは絶滅せずに生き残っているのは興味深いし21世紀になってのLPレコードの復権をだれが予測しただろう。デジタルリマスター版と初期版レコードの比較はよくされる。聴感上レコードの方が好ましいという話もあたりまえに言われる。各々長所があるわけだがデジタルテクノロジーの進歩でいずれ両者が聞き分けできない状態まで達するだろう。レコードは音以外でもジャケットや再生にあたっての作法があって煩わしくも楽しい。もうしばらくは(一生かな)アナログを謳歌しようと思っています。
お読みいただきありがとうございました。