白拍子はそっと半身を起こした。
卓造・於満の夫婦に勧められるまま、社務所の一隅の寝所に泊まっていた。
今夜がその二日目。
安穏と過ごせぬ自分に気付いた。
外の気配に合わせたかのように、快感らしきものが湧き上がってきた。
隣室で誰かが起き上がる物音。卓造のようだ。
白拍子を気遣ってるのか、小さな声で於満を起こす。
何事か話し合い始めた。
白拍子は遠慮しない。
立ち上がると、隣室と隔てる襖を開けた。
「外の者達は何者なの。ただの泥棒にしては殺気立ってるけど」
暗闇の中で驚いたように二人が振り向いた。
白拍子の目は暗闇でもよく見える。
すでに卓造は身支度を終えていた。
このような時でも二人は白拍子を「於雪」と呼んだ。
卓造が於満を制し、厳しい顔で白拍子を見た。
「部屋から出ないでおれ」
「一人で立ち向かうつもりなの」
「あの程度であれば、ワシ一人で充分」
「無理しない方がいいわ」
「あの者達は武人ではなし、恐れる事はない」
「何者なの」
「異国の神を信じている者達だ」
「異国の・・・。それが、何故」
「この神社の宝物を盗みに来たのだろう」
「宝物・・・」
「何故かは知らないが、昔から伝わる宝物に興味があるようなのだ」
この神社には神主等が一人もいない。いるのは目の前の老夫婦のみ。
二人で留守番を任されているのだそうだ。
神主等に関して白拍子が尋ねると、老夫婦は曖昧な答えしかしない。
何かを隠しているのは歴然。
あまりに無警戒なこの神社に、狙われるような宝物があるとは。
「ふーん」
「まあ、ここはワシに任せろ。追い払ってやる」
「村の者達には報せないの」
「無用」
白拍子は卓造の本気を理解した。
言葉で止めるのは無理だろう。
「私も一緒するわ」
卓造は暫し考え、頷いた。
「怪我せぬように、ワシの後ろをついてくるのだぞ」
卓造を先頭に、三人が社務所から出た。
卓造と於満の二人は長い棒を携えていた。
樫の木で、長さは六尺あまり。
「神域を血を汚したくない」とは卓造の言葉。
それでも万一に備え、二人とも脇差を帯びていた。
白拍子はいつもの格好。巫女装束に、紫の烏帽子。
そして腰には、抜く事の無い白鞘巻きの小太刀。
夜空の月明かりが三人を照らした。
忍び込んでいる者達は社殿の裏に回っていた。
宝物蔵の出入り口が裏にあるのだ。
小さな扉に大きな錠前が二つ。厳重にかけられていた。
彼等は月明かりの中、必死に錠前に取り組んでいた。
総勢六人。見張りも置いてはいない。
彼等の格好は、揃いの黒装束に黒覆面。腰には脇差。
身軽に動ける事を第一に考えているようだ。
まず一つ目の錠前が音をたてて落ちた。
卓造が前に進み出た。
「何をしておる」
六人が一瞬、動きを止めた。
驚きから立ち直るのは早い。
素早い身ごなしで、四人が卓造を囲むために動いた。
於満も駆けた。
夫の背後を守る位置につき、身構えた。
先頭の男が脇差を抜いて斬りかかった。
それを卓造は棒の先で流し、反転させて肩を狙い打つ。空振り。
相手は後退した。
卓造は一足飛びに間合いを縮め、逃さぬように追い突き。
相手は脇差の峰で打ち払う。
横合いから斬りかかってくる者を於満が牽制した。
卓造も於満も棒扱いに乱れはない。
対する四人側も油断ならぬ動き。じっくりと包囲。余裕さえ感じられた。
白拍子は於満から託された呼子を吹いた。
夜風を切り裂く笛の音。村人達を呼集する合図だ。
笛の音に相手側が動揺を始めた。
そんな時、二つ目の錠前が音をたてて落ちた。
一人が手早く松明に火を点け、中に入ろうとした。
★
ブログ村ランキング。
★
FC2ブログランキング。
卓造・於満の夫婦に勧められるまま、社務所の一隅の寝所に泊まっていた。
今夜がその二日目。
安穏と過ごせぬ自分に気付いた。
外の気配に合わせたかのように、快感らしきものが湧き上がってきた。
隣室で誰かが起き上がる物音。卓造のようだ。
白拍子を気遣ってるのか、小さな声で於満を起こす。
何事か話し合い始めた。
白拍子は遠慮しない。
立ち上がると、隣室と隔てる襖を開けた。
「外の者達は何者なの。ただの泥棒にしては殺気立ってるけど」
暗闇の中で驚いたように二人が振り向いた。
白拍子の目は暗闇でもよく見える。
すでに卓造は身支度を終えていた。
このような時でも二人は白拍子を「於雪」と呼んだ。
卓造が於満を制し、厳しい顔で白拍子を見た。
「部屋から出ないでおれ」
「一人で立ち向かうつもりなの」
「あの程度であれば、ワシ一人で充分」
「無理しない方がいいわ」
「あの者達は武人ではなし、恐れる事はない」
「何者なの」
「異国の神を信じている者達だ」
「異国の・・・。それが、何故」
「この神社の宝物を盗みに来たのだろう」
「宝物・・・」
「何故かは知らないが、昔から伝わる宝物に興味があるようなのだ」
この神社には神主等が一人もいない。いるのは目の前の老夫婦のみ。
二人で留守番を任されているのだそうだ。
神主等に関して白拍子が尋ねると、老夫婦は曖昧な答えしかしない。
何かを隠しているのは歴然。
あまりに無警戒なこの神社に、狙われるような宝物があるとは。
「ふーん」
「まあ、ここはワシに任せろ。追い払ってやる」
「村の者達には報せないの」
「無用」
白拍子は卓造の本気を理解した。
言葉で止めるのは無理だろう。
「私も一緒するわ」
卓造は暫し考え、頷いた。
「怪我せぬように、ワシの後ろをついてくるのだぞ」
卓造を先頭に、三人が社務所から出た。
卓造と於満の二人は長い棒を携えていた。
樫の木で、長さは六尺あまり。
「神域を血を汚したくない」とは卓造の言葉。
それでも万一に備え、二人とも脇差を帯びていた。
白拍子はいつもの格好。巫女装束に、紫の烏帽子。
そして腰には、抜く事の無い白鞘巻きの小太刀。
夜空の月明かりが三人を照らした。
忍び込んでいる者達は社殿の裏に回っていた。
宝物蔵の出入り口が裏にあるのだ。
小さな扉に大きな錠前が二つ。厳重にかけられていた。
彼等は月明かりの中、必死に錠前に取り組んでいた。
総勢六人。見張りも置いてはいない。
彼等の格好は、揃いの黒装束に黒覆面。腰には脇差。
身軽に動ける事を第一に考えているようだ。
まず一つ目の錠前が音をたてて落ちた。
卓造が前に進み出た。
「何をしておる」
六人が一瞬、動きを止めた。
驚きから立ち直るのは早い。
素早い身ごなしで、四人が卓造を囲むために動いた。
於満も駆けた。
夫の背後を守る位置につき、身構えた。
先頭の男が脇差を抜いて斬りかかった。
それを卓造は棒の先で流し、反転させて肩を狙い打つ。空振り。
相手は後退した。
卓造は一足飛びに間合いを縮め、逃さぬように追い突き。
相手は脇差の峰で打ち払う。
横合いから斬りかかってくる者を於満が牽制した。
卓造も於満も棒扱いに乱れはない。
対する四人側も油断ならぬ動き。じっくりと包囲。余裕さえ感じられた。
白拍子は於満から託された呼子を吹いた。
夜風を切り裂く笛の音。村人達を呼集する合図だ。
笛の音に相手側が動揺を始めた。
そんな時、二つ目の錠前が音をたてて落ちた。
一人が手早く松明に火を点け、中に入ろうとした。
★
ブログ村ランキング。
★
FC2ブログランキング。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます