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二者択一定理の証明方針。

2016-10-26 23:11:21 | mathematics
任意の実数 x に対し,x≧0 であるか x<0 であるかのいずれか一方のみが成り立つ。

このように互いに排他的な2つの対立する言明のうち一方のみが成り立つという型の定理を二者択一の定理と呼ぶ。

この例のように,ある変数 x に関する2つの条件 p(x) と q(x) のどちらか一方のみが成り立つという型の命題について考えようと思うのだが,述語論理風にいちいち述べるのは面倒なので,命題論理的に簡単に p と q と記すことにする。

さて,択一定理は

「p かつ「q でない」」か「「p でない」かつ q」

という言明である。De Morgan の公式を含む命題論理の基本的な計算規則を適用すると,これは

p であるための必要十分条件は q でないことである

という言い回しと論理的に同値であることが示せる(命題論理の初学者にとっては格好の演習問題である)。なお,これは p と q に関して対称でないように見えるが,

q であるための必要十分条件は p でないことである

という対偶をとったような言明とも同値である。


線形不等式の証明の標準的な型は,次のような三つの事実の確認からなっている。

(1) 一般に p であるか p でないかのいずれかが成り立つ。

(2) p でないと仮定すると q が導かれる。

(3) p と q とが同時に成り立つと仮定すると矛盾が導かれる。


例えば Gale の "The Theory of Linear Economic Models" の Chapter Two では一連の択一定理をこの形式で示している。基本的には (1) は自明のこととして,(3) をまず確認し,(2) の証明に取り掛かるといった議論の順番である。それら一連の定理においては (3) の検証は極めて容易であり,そのせいもあって私は恥ずかしながらその部分は冗長なので省略し,(2) を示すだけで十分ではないかと考えていた。しかし,本当にそうなのかふと疑問に思い,きちんと考えてみたところ,(1) と (2) だけでは不十分であることが判明したというわけである。つまり (1) と (2) だけでは,(2) の逆,

q であると仮定すると p でないことが導かれる

とは必ずしもならないのである。例えば,

(1) 任意の実数 x について,x≧0 であるか x<0 であるかのいずれかが成り立つ。

(2) x<0 である任意の実数について,x2>0 が成り立つ。

というのは正しいのだが,では x2>0 を満たす任意の実数 x について x<0 が必ず言えるかというと,もちろんそんなはずはない。x=1 がその反例である。


そんなわけで,今後,二者択一定理を証明する際には (3) の確認も忘れずに行おうと思いを新たにした次第である。
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