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集合論の簡単そうな問題。

2024-08-07 18:56:49 | mathematics
ふたつの集合 A と B の間に全単射が存在するとき,A と B は対等であるといい,そうであることを |A|=|B| と書くことにする。

ここしばらく私が気になっていることは,自然数の集合 N が「最小」の無限集合であるかどうか,ということであるが,Azriel Levy の ``Basic Set Theory'' によると,選択公理の下では任意の無限集合は可算集合を部分集合に持つとのことである (p.79, 1.18Ac Corollary.)

そうすると,選択公理を仮定した場合,どんな無限集合の濃度も ℵ0 以上になるため,濃度が ℵ0 よりも小さい無限集合は存在し得ないこととなる。

ふむ。

もう一つ私が気になっていることは,X が無限集合であるとき,X を,互いに素であり,かつ,対等な X のふたつの部分集合 A,B の和に分解できるか,というものがある。

自然数の集合 N であれば,Galileo が提示した無限のパラドックスの発想に従い,偶数全体 E と奇数全体 O に分割するという具体的な分割法が提示できる。

実数全体はというと,それは正の数と負の数という分け方があるので,非負の実数全体 PZ と負の実数全体 N の和に分割するといった具体案が提示できる。ただし,その際は PZ と N が対等であることを示さなければならないが,それはいわゆる Bernstein の定理で保証するか,あるいはその特別な場合の演習問題として,0 入りの半直線 [0,∞) と 0 抜きの半直線 (0,∞) とが対等であることを証明しておく必要がある。

この方法はちょっとズルいような気がしなくもない。どういうことかというと,例えば正の実数全体を濃度の等しいふたつの部分集合に分割するにはどうしたらよいか,と考えると,符号による分類は通用しないからである。

符号による分類は数直線が点 0 に関して対称であるという幾何学的な性質を利用する発想と言えよう。

実は正の実数全体についてもそれと似たような「対称性」を利用した組み分けが可能である。

正負の分類が実数の加法に根差した組み分けであったところを,正の実数については,符号を反対にする「反数」ではなく,乗法の逆元をとる「逆数」を利用する方法が考えられる。

数直線における,点 1 に関する反転 (inversion) を考えるわけである。

実数の表現を考えた場合,非負の実数と負の実数を分けるのは「符号ビット」が 0 か 1 かの区別であり,1 未満の正の実数と 1 以上の実数とを分かつのは,整数部分が 0 であるか正であるかの区別であるといえる。

このような実数の仕分け方は,任意の(空でない)集合 X のべき集合 P(X) を等濃度のふたつの部分集合に分ける方法に帰着できるように思うのである。

P(X) の要素は,X の要素 x をひとつ選んで固定すると,x を要素に持つか,持たないかで類別できる。そして x を要素に持つ要素と,そうでない要素とが,もれなく,重複なく対応することも容易に示せる。

そうすると,無限集合 X が,何らかの無限集合 Y のべき集合であるとき,すなわち X=P(Y) なる集合 Y を持つならば,X を等濃度のふたつの互いに素な部分集合 A と B に分割できることになる。

では,任意の無限集合 X はそれを生み出す母体,すなわち,X=P(Y) となるような集合 Y を持つのだろうか。

ところで,Y が有限集合である場合,P(Y) もまた有限集合に留まってしまう。

したがって,もし N=P(Y) をみたすような集合 Y が存在するとしたら,Y は無限集合でなければならない。

ところが,Cantor の定理によって,Y と P(Y) は対等ではありえず,P(Y) の濃度は必ず Y の濃度よりも大きくなる。

つまり,このような無限集合 Y があったとすると,その濃度は ℵ0 よりも小さくなければならない。

自然数の集合よりも小さな無限集合というのは存在し得るのであろうか。

このような思考を経て,本記事の冒頭に掲げた「自然数の集合は最小の無限集合であるか」という問いに至ったのである。

集合論のテキストではこのような低レベルな疑問をいじくりまわしているだけで先に進まないようではまずいであろうが,この程度の話題をぐちぐちネチネチとこねくり回す一般向けの数学読み物があってもよいのではないか,などと考えている。

集合論の初歩を一般向けに解説した書物は海外まで目を向ければ相当数あるであろうから,とっくの昔にそんな読み物が著されている可能性は極めて高い。ただ単に私がその存在に気付いていないだけであろう。

一般の無限集合を等濃度のふたつの部分集合に分割できるかという問題の答えを私はまだ知らないのだが,当初,私は答えは肯定的なもののはずだと軽く考えていた。

ところが,前掲の Levy の Chapter III を「ページって」いると,無限集合は必ずしもそれ自身と等濃度の真部分集合を含むとは限らないっぽいのである。

頑張って Levy の本を Chapter III(の少なくとも §2)までじっくり学べばこれらの疑問が解消するかもしれないし,しないかもしれない。
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