実数 R,もしくはより狭い有理数 Q でもよいが,それらは四則演算が自由に行える(四則演算について閉じている)。
四則演算を加法 + と乗法 × という2つの異質な演算に大別すると,それぞれについて
加法は 0 を単位元とする群をなし,
乗法は 1 を単位元とする群をなす(ただし,0 は除く)。
ここで,乗法について「0 を除く」というところが大きなポイントであるように思われる。
さて,四則演算は加法に比べて乗法の方が「高級である」と考えることにする。
実数 a を実数 x で「加工する」仕方として,
加法:a+x
乗法:a×x
の他に,より「高級」な
累乗:ax
が考えられる。
【加法と乗法は交換可能なので a と x に関して対称であるが,累乗は a と x に関して対称ではないので交換可能でない。
この点がやや気がかりである。
対称になるように,(ax+xa)/2 とすべきか,あるいは
ax/2ba/2 とすべきか,悩ましいところである。
思い切って,これら2数の算術幾何平均と呼ばれるものにすべきであろうか。
なんらかの指針がなければこれ以上進みようがない。】
この階層構造をうまく説明するのは難しいが,対数関数は
乗法 ax
をほどいて,
加法 log(ax)=log(a)+log(x)
に落とす,という,演算のレベルを下げる加工法とみなすことができる。
【【なお,相加平均と相乗平均の不等式
(a+b)/2≧(ab)1/2
については,左辺は
加法 a+b の後,乗法 ×(1/2)
を行っているのに対し,右辺では一つずつレベルを上げた
乗法 a×b の後,累乗 (・)1/2
を行っているのがなんとも不思議である。】】
【【【ところで,累乗よりもさらに「高級」な演算があれば,アナロジーで新たな不等式が予想できそうだが,「累乗の上」はどんな演算だろうか。
ちょっと脱線するが,軽く考えてみよう。
a+a+a=3×a のように,加法の反復から乗法へと移行できる。
a×a×a=a3 のように,乗法の反復から累乗へと移行できる。
では,累乗の反復から上の階層に移行できるのではなかろうか,と期待されるが,仮に
(a の (a の (a 乗)))=[a,3]
と書いたとして,任意の実数 x に対して [a,x] をどう定めるべきか,たとえば [a,1/2] などをどう定めるのか,このままでは見当がつかない。
もう少し頑張るべきところであろうが,今回はここまでとする。】】】
<話を元に戻そう。>
対数関数の逆関数は指数関数であり,こちらは
低級な加法を高級な乗法に移す
働きを持っている。
ここで一つ気になることがある。実はそれが本稿のテーマなのだが,
指数関数の値域は正の数に限る
のが,どうにもひっかかるのである。
乗法が自由に行えるには 0 を除く必要があった。
そうすると数直線に穴が空き,残りの実数は負の数の側と正の数の側に二分される。
このとき,負の数のみ,あるいは正の数のみに限定して乗法を考えると,乗法について閉じているのは正の数の側だけである。
正の数全体を P と表すことにすると,残念ながら指数関数は
(R,+,0) を (P,×,1) へと変換する装置
であることになり,実数全体に移すことができない。
これは一体何故なのか。
関数方程式 f(x+y)=f(x)f(y) を満たす,実数から実数への(定数関数ではない)連続関数 f は存在するのに,
関数方程式 g(x+y)=-g(x)g(y) を満たす,実数から実数への(定数関数ではない)連続関数 g は存在しないのである。
思うに,負の数というのは乗法と相性が悪いのかもしれない。
もともと,加法と乗法は対等な関係ではない。
分配法則を見ると,
a×(b+c)=a×b+a×c のように,a をかける計算はコピーして分配できるが,
a+(b×c)=(a+b)×(a+c) のように a を足す計算をコピーして分配する計算は一般に成り立たない。
こうした事情が加法と乗法の区別を与えるわけだが,それが一体どう効いているのやら,正直なところ,よくわからない。
なお,
(R,+,0) から (P,×,1) へと移す指数関数
の逆関数
(P,×,1) から (R,+,0) へと移す対数関数
を元手にして,その定義域を実数全体に拡張した
(R,×,1) から (?,+,0) へと移す関数
は考えられるだろうか。
このとき,単射性を保つには値域は実数よりも広い別の何かにすべきであろう。
実数全体が,「半分」の正の数全体 P になってしまった。
では逆に,半分の P を 2 倍して R に戻したら,『R を二つ用意した何か』に移ることにすべきではないか。
このような観点,すなわち,負の数の対数を契機として複素数を導入するといった道筋もあるように思われる。
翻ってみると,それはまさに Leibniz, Bernoulli, そして Euler らが真剣に考えたテーマだったのかもしれない。そんな気がしてきた。
うむ,複素数に関する入門的な解説書にこうした観点が取り上げられていないか,調べてみることとしよう。
四則演算を加法 + と乗法 × という2つの異質な演算に大別すると,それぞれについて
加法は 0 を単位元とする群をなし,
乗法は 1 を単位元とする群をなす(ただし,0 は除く)。
ここで,乗法について「0 を除く」というところが大きなポイントであるように思われる。
さて,四則演算は加法に比べて乗法の方が「高級である」と考えることにする。
実数 a を実数 x で「加工する」仕方として,
加法:a+x
乗法:a×x
の他に,より「高級」な
累乗:ax
が考えられる。
【加法と乗法は交換可能なので a と x に関して対称であるが,累乗は a と x に関して対称ではないので交換可能でない。
この点がやや気がかりである。
対称になるように,(ax+xa)/2 とすべきか,あるいは
ax/2ba/2 とすべきか,悩ましいところである。
思い切って,これら2数の算術幾何平均と呼ばれるものにすべきであろうか。
なんらかの指針がなければこれ以上進みようがない。】
この階層構造をうまく説明するのは難しいが,対数関数は
乗法 ax
をほどいて,
加法 log(ax)=log(a)+log(x)
に落とす,という,演算のレベルを下げる加工法とみなすことができる。
【【なお,相加平均と相乗平均の不等式
(a+b)/2≧(ab)1/2
については,左辺は
加法 a+b の後,乗法 ×(1/2)
を行っているのに対し,右辺では一つずつレベルを上げた
乗法 a×b の後,累乗 (・)1/2
を行っているのがなんとも不思議である。】】
【【【ところで,累乗よりもさらに「高級」な演算があれば,アナロジーで新たな不等式が予想できそうだが,「累乗の上」はどんな演算だろうか。
ちょっと脱線するが,軽く考えてみよう。
a+a+a=3×a のように,加法の反復から乗法へと移行できる。
a×a×a=a3 のように,乗法の反復から累乗へと移行できる。
では,累乗の反復から上の階層に移行できるのではなかろうか,と期待されるが,仮に
(a の (a の (a 乗)))=[a,3]
と書いたとして,任意の実数 x に対して [a,x] をどう定めるべきか,たとえば [a,1/2] などをどう定めるのか,このままでは見当がつかない。
もう少し頑張るべきところであろうが,今回はここまでとする。】】】
<話を元に戻そう。>
対数関数の逆関数は指数関数であり,こちらは
低級な加法を高級な乗法に移す
働きを持っている。
ここで一つ気になることがある。実はそれが本稿のテーマなのだが,
指数関数の値域は正の数に限る
のが,どうにもひっかかるのである。
乗法が自由に行えるには 0 を除く必要があった。
そうすると数直線に穴が空き,残りの実数は負の数の側と正の数の側に二分される。
このとき,負の数のみ,あるいは正の数のみに限定して乗法を考えると,乗法について閉じているのは正の数の側だけである。
正の数全体を P と表すことにすると,残念ながら指数関数は
(R,+,0) を (P,×,1) へと変換する装置
であることになり,実数全体に移すことができない。
これは一体何故なのか。
関数方程式 f(x+y)=f(x)f(y) を満たす,実数から実数への(定数関数ではない)連続関数 f は存在するのに,
関数方程式 g(x+y)=-g(x)g(y) を満たす,実数から実数への(定数関数ではない)連続関数 g は存在しないのである。
思うに,負の数というのは乗法と相性が悪いのかもしれない。
もともと,加法と乗法は対等な関係ではない。
分配法則を見ると,
a×(b+c)=a×b+a×c のように,a をかける計算はコピーして分配できるが,
a+(b×c)=(a+b)×(a+c) のように a を足す計算をコピーして分配する計算は一般に成り立たない。
こうした事情が加法と乗法の区別を与えるわけだが,それが一体どう効いているのやら,正直なところ,よくわからない。
なお,
(R,+,0) から (P,×,1) へと移す指数関数
の逆関数
(P,×,1) から (R,+,0) へと移す対数関数
を元手にして,その定義域を実数全体に拡張した
(R,×,1) から (?,+,0) へと移す関数
は考えられるだろうか。
このとき,単射性を保つには値域は実数よりも広い別の何かにすべきであろう。
実数全体が,「半分」の正の数全体 P になってしまった。
では逆に,半分の P を 2 倍して R に戻したら,『R を二つ用意した何か』に移ることにすべきではないか。
このような観点,すなわち,負の数の対数を契機として複素数を導入するといった道筋もあるように思われる。
翻ってみると,それはまさに Leibniz, Bernoulli, そして Euler らが真剣に考えたテーマだったのかもしれない。そんな気がしてきた。
うむ,複素数に関する入門的な解説書にこうした観点が取り上げられていないか,調べてみることとしよう。