あれは確か中学生の頃だったと思う。コイルを用いた発振回路を利用して簡易金属探知器を作るという面白い製作記事がある本に載っていた。僕はまだ子供だったので,漫画の単行本は買えても2千円近くする本はそう簡単には買えなかった。図書館にも置いてなかったので,何度も本屋で立ち読みしては,回路図を記憶してあとで再現するということをやったような記憶がある。記憶力のない僕のことだから,こっそりメモを持ち込んで書き写すというズルをしたかもしれない。ともかく,手に入れた回路図を元手に実際に作成し,夏休みの自由研究課題か何かで学校に持って行った。それなりに動いたのではなかったかと思う。
それは何の本だったか,再び作ってみたいと思っていたところ,ある図書館で佐伯平二著『電子工作のはなし I 第2版』を手に取ったところ,「ミニミニ金属探知器」と題する記事を見つけた。チョークコイルをセンサとし,9V の 006P 乾電池を使用しクリスタルイヤホンから出る音の変化で金属の有無を検知するという,記憶通りの回路構成であった。ただ,山水トランスの ST-11 が使われているが,僕は当時それを使用したかどうか覚えていない。山水トランスは電気びっくり箱で ST-26 を使ったのが唯一の使用例だった気がするからである。
第2版の本文には,この装置が非常に微妙な発振器であるため,はんだ付けをしっかりと行って製作するよう注意が述べられている。
となると,ブレッドボードで組むのはまずいかもしれない。
回路ではトランジスタ (Tr) 2SC1815,抵抗 (R) 1kΩ,可変抵抗 (VR) 10kΩ,コンデンサ (C) 0.0022μF,チョークコイル (L) 4mH,トランス (T) ST-11,そしてクリスタルレシーバー(現在はセラミックイヤホンで代用するしかない)を使用している。電源は 006P 乾電池の 9 V である。
一ヵ月ほど前にトランスとコンデンサ,そしてコイルを手に入れてブレッドボードに組んでみた。その時は L として 4.7mH のものしか手に入らず,それで代用してみたのだが,VR を回しても発信音は一向に聞えてこず,実験は失敗に終わった。
その後,秋葉原の東京ラジオデパート3F・シオヤ無線電機商会で 4mH ちょうどのチョークコイルを見つけた。この店は僕にとってパラダイスとでもいうべき店である。バリキャップ 1SV149 はもちろんのこと,幻の AM ラジオ用 IC LA1050 など,ラジオ関係のパーツの品ぞろえは,もう,最強といっていいほどである。バーアンテナも定番以外に聞いたことのない品番もいくつかある。バーアンテナ用のフェライトコアも5~6種類はあったろうか。ちなみに,山水トランスの同等品もかなりの種類がそろっている。もちろん ST-11 の同等品も手に入る。そういう意味では,今回作ったミニミニ金属探知器はこの店だけで必要なパーツをすべて(乾電池は売ってるかどうかわからないが)そろえることができる。
こうして念願の 4mH のチョークコイルも手に入れたのだが,VR を回しても,回すときに発生するザリザリいう耳障りなノイズ以外,音は聞こえない。またもや失敗である。
「ハンダ付けをていねいにし」なければならない「たいへん微妙な発振器」であるがゆえに,ちゃんとはんだ付けをしないブレッドボードではうまくいかないのは当然のことなのかもしれない。素直にユニバーサル基板やラグ板にはんだ付けして組み立てればよいのだが,そうやって作っても正常に動くかどうかわからない。製作に踏み切るためには,ブレッドボードで試作したものが動くという動作保証が欲しいところである。
そこで,もう少し粘ってみることにした。悲しいかな,発振の原理を理解していないため,C や L の数値をどう変更すればよいか全く見当もつかない。シオヤ無線で一緒に買った 2mH のチョークコイルに差し替えてみたが駄目だった。C の容量を変える気にはとてもなれない。こうなると,僕がいじれる回路の定数は選択肢がほとんどない。残るは抵抗のみである。
トランジスタを使用しているとはいえ,コイルとコンデンサで構成された発振回路である。分類的にはハートレー型の発振回路に近いようだが,ぴったりそのままという感じではないのでよくわからない。それはともかくとして,コイルとコンデンサが使われている以上,発振周波数はコイルとコンデンサの値が決めているのであろう。そしてそれ自体は聞こえてくるはずの音の高さを決めるだけであって,回路が発振するかどうかにはあまり影響がないのではないかと想像される。そうすると,発振するかどうかの決め手は抵抗だということになる。
実験中にこのように推理したわけではないが,今にして思えばある程度理詰めで対処法がこのようにわかったのではないかという気がする。実際に実験していたときには,とりあえず VR の可変域をもっと広くしたらどうかと何も考えずに思い付き,10kΩより少し大きめの 20kΩに変えてみた。
これが功を奏したのである。
VR を回すと相変わらず嫌なガサガサ音で耳がやられるのだが,ほんの一瞬だけ,「ピ」と音が聞こえる瞬間があった。つまみ(といっても,半固定抵抗器を使ったので,つまみはドライバーで回していたのだが)を「ピ」が聞えたあたりでゆっくり回したり,戻したりする作業を経て,ついに発振音が持続的に聞こえるスポットを探り当てることに成功した。聞こえる音に注意を払いながらボリュームを調整するこの作業は,バリキャップで ラジオのチューニングをするのと非常によく似ている,
本によると,「ビィービィー」もしくは「ピィーピィー」という発振音が聞こえてくるとのことであったが,僕が聞いたのは管楽器が鳴っているような「プオーン」という控えめな音だけであった。ほんの一瞬通り過ぎるだけの「ピ」音は継続して鳴らし続けるのは非常に難しく,つかまえるのに成功したのは一回だけである。「プオーン」の方は何度試してもわりあい簡単にとらえることができるので,それを使うことにした。
ミニミニ金属探知器をミニ・ブレッドボードに組んだ様子の写真は以下の通りである。
ゴミみたいなものが散らかっていると思うかもしれないが,クリップ,アルミフォイルの切れ端,ボリュームの調整になくてはならないプラスドライバは探知機能を調べるための試料である。指が示しているところらへんに「402」という数字の書かれた黒くて円いものが見えるが,それが 4mH のチョークコイルである。金属としてはここに挙げたものの他,一円玉や十円玉などの硬貨も試した。また,ネオジム磁石も試料に用いた。
金属や磁石をコイルのすぐそばに近づけると,発振音は「プオーンンン~?」と高くか細くなって完全に聞こえなくなる。発振周波数が高くなり過ぎたのか,それとも発振が止まってしまったのか定かではないが,コイルのインダクタンスが変化し,回路がその影響を受けたであろうことは間違いない。期待通り金属探知器の機能を持っていることがわかった。
なお,写真に写っている指をもっと近づけるとどうなるかというと,音がほんのわずか低くなる。指をコイルの腹に触れさせるとビィーという,それまでとは違った音色の発信音に変わり,音量も大きくなる。水などの入ったペットボトルを触れさせても同じ現象が起こる。何が起きたのか,理論的なことは全くわからないが,水分を多く含むものをコイルに近づけると金属を近づけたときとは逆の現象が起きるようである。こうした実験結果を見ると,このデリケートな装置は金属以外のもの(もしかすると誘電率の高いもの?)の探知にも使用できそうである。
今気が付いたのだが,せっかく周波数カウンタのついたマルチテスタを持っているので,それを使って周波数変化くらいはちゃんと追ってみるべきであった。実験したら追記することとしよう。
この本にはサイリスタを使用した回路例がいくつかある。サイリスタも名前は知っているが触ったことのない半導体なので,この本との再会記念にサイリスタにも手を出してみようと思っている。
それは何の本だったか,再び作ってみたいと思っていたところ,ある図書館で佐伯平二著『電子工作のはなし I 第2版』を手に取ったところ,「ミニミニ金属探知器」と題する記事を見つけた。チョークコイルをセンサとし,9V の 006P 乾電池を使用しクリスタルイヤホンから出る音の変化で金属の有無を検知するという,記憶通りの回路構成であった。ただ,山水トランスの ST-11 が使われているが,僕は当時それを使用したかどうか覚えていない。山水トランスは電気びっくり箱で ST-26 を使ったのが唯一の使用例だった気がするからである。
第2版の本文には,この装置が非常に微妙な発振器であるため,はんだ付けをしっかりと行って製作するよう注意が述べられている。
となると,ブレッドボードで組むのはまずいかもしれない。
回路ではトランジスタ (Tr) 2SC1815,抵抗 (R) 1kΩ,可変抵抗 (VR) 10kΩ,コンデンサ (C) 0.0022μF,チョークコイル (L) 4mH,トランス (T) ST-11,そしてクリスタルレシーバー(現在はセラミックイヤホンで代用するしかない)を使用している。電源は 006P 乾電池の 9 V である。
一ヵ月ほど前にトランスとコンデンサ,そしてコイルを手に入れてブレッドボードに組んでみた。その時は L として 4.7mH のものしか手に入らず,それで代用してみたのだが,VR を回しても発信音は一向に聞えてこず,実験は失敗に終わった。
その後,秋葉原の東京ラジオデパート3F・シオヤ無線電機商会で 4mH ちょうどのチョークコイルを見つけた。この店は僕にとってパラダイスとでもいうべき店である。バリキャップ 1SV149 はもちろんのこと,幻の AM ラジオ用 IC LA1050 など,ラジオ関係のパーツの品ぞろえは,もう,最強といっていいほどである。バーアンテナも定番以外に聞いたことのない品番もいくつかある。バーアンテナ用のフェライトコアも5~6種類はあったろうか。ちなみに,山水トランスの同等品もかなりの種類がそろっている。もちろん ST-11 の同等品も手に入る。そういう意味では,今回作ったミニミニ金属探知器はこの店だけで必要なパーツをすべて(乾電池は売ってるかどうかわからないが)そろえることができる。
こうして念願の 4mH のチョークコイルも手に入れたのだが,VR を回しても,回すときに発生するザリザリいう耳障りなノイズ以外,音は聞こえない。またもや失敗である。
「ハンダ付けをていねいにし」なければならない「たいへん微妙な発振器」であるがゆえに,ちゃんとはんだ付けをしないブレッドボードではうまくいかないのは当然のことなのかもしれない。素直にユニバーサル基板やラグ板にはんだ付けして組み立てればよいのだが,そうやって作っても正常に動くかどうかわからない。製作に踏み切るためには,ブレッドボードで試作したものが動くという動作保証が欲しいところである。
そこで,もう少し粘ってみることにした。悲しいかな,発振の原理を理解していないため,C や L の数値をどう変更すればよいか全く見当もつかない。シオヤ無線で一緒に買った 2mH のチョークコイルに差し替えてみたが駄目だった。C の容量を変える気にはとてもなれない。こうなると,僕がいじれる回路の定数は選択肢がほとんどない。残るは抵抗のみである。
トランジスタを使用しているとはいえ,コイルとコンデンサで構成された発振回路である。分類的にはハートレー型の発振回路に近いようだが,ぴったりそのままという感じではないのでよくわからない。それはともかくとして,コイルとコンデンサが使われている以上,発振周波数はコイルとコンデンサの値が決めているのであろう。そしてそれ自体は聞こえてくるはずの音の高さを決めるだけであって,回路が発振するかどうかにはあまり影響がないのではないかと想像される。そうすると,発振するかどうかの決め手は抵抗だということになる。
実験中にこのように推理したわけではないが,今にして思えばある程度理詰めで対処法がこのようにわかったのではないかという気がする。実際に実験していたときには,とりあえず VR の可変域をもっと広くしたらどうかと何も考えずに思い付き,10kΩより少し大きめの 20kΩに変えてみた。
これが功を奏したのである。
VR を回すと相変わらず嫌なガサガサ音で耳がやられるのだが,ほんの一瞬だけ,「ピ」と音が聞こえる瞬間があった。つまみ(といっても,半固定抵抗器を使ったので,つまみはドライバーで回していたのだが)を「ピ」が聞えたあたりでゆっくり回したり,戻したりする作業を経て,ついに発振音が持続的に聞こえるスポットを探り当てることに成功した。聞こえる音に注意を払いながらボリュームを調整するこの作業は,バリキャップで ラジオのチューニングをするのと非常によく似ている,
本によると,「ビィービィー」もしくは「ピィーピィー」という発振音が聞こえてくるとのことであったが,僕が聞いたのは管楽器が鳴っているような「プオーン」という控えめな音だけであった。ほんの一瞬通り過ぎるだけの「ピ」音は継続して鳴らし続けるのは非常に難しく,つかまえるのに成功したのは一回だけである。「プオーン」の方は何度試してもわりあい簡単にとらえることができるので,それを使うことにした。
ミニミニ金属探知器をミニ・ブレッドボードに組んだ様子の写真は以下の通りである。
ゴミみたいなものが散らかっていると思うかもしれないが,クリップ,アルミフォイルの切れ端,ボリュームの調整になくてはならないプラスドライバは探知機能を調べるための試料である。指が示しているところらへんに「402」という数字の書かれた黒くて円いものが見えるが,それが 4mH のチョークコイルである。金属としてはここに挙げたものの他,一円玉や十円玉などの硬貨も試した。また,ネオジム磁石も試料に用いた。
金属や磁石をコイルのすぐそばに近づけると,発振音は「プオーンンン~?」と高くか細くなって完全に聞こえなくなる。発振周波数が高くなり過ぎたのか,それとも発振が止まってしまったのか定かではないが,コイルのインダクタンスが変化し,回路がその影響を受けたであろうことは間違いない。期待通り金属探知器の機能を持っていることがわかった。
なお,写真に写っている指をもっと近づけるとどうなるかというと,音がほんのわずか低くなる。指をコイルの腹に触れさせるとビィーという,それまでとは違った音色の発信音に変わり,音量も大きくなる。水などの入ったペットボトルを触れさせても同じ現象が起こる。何が起きたのか,理論的なことは全くわからないが,水分を多く含むものをコイルに近づけると金属を近づけたときとは逆の現象が起きるようである。こうした実験結果を見ると,このデリケートな装置は金属以外のもの(もしかすると誘電率の高いもの?)の探知にも使用できそうである。
今気が付いたのだが,せっかく周波数カウンタのついたマルチテスタを持っているので,それを使って周波数変化くらいはちゃんと追ってみるべきであった。実験したら追記することとしよう。
この本にはサイリスタを使用した回路例がいくつかある。サイリスタも名前は知っているが触ったことのない半導体なので,この本との再会記念にサイリスタにも手を出してみようと思っている。