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行列の積の計算法の段階別学習法。

2013-05-06 23:58:27 | mathematics
行列の積の計算の仕方を学ぶ順番は次のようにすると習得しやすいかもしれない。


(1) 成分の個数が等しい,1行の行列(行ベクトル)と1列の行列(列ベクトル)との積を身に付ける。

ベクトルの内積を習ったことがあれば,それと同じ計算であるから習得は難しくないだろう。

気を付けるべきことは,具体的な数値をかけたり足したりする計算は慣れていないとよく間違えるということだろうか。そうした単純な計算を大量にこなす作業は案外慣れていないものなので,あらかじめ間違えやすいものだと意識して慎重にとりかかるべきだろう。


(2) 行列の型に関する積の条件を身に付ける。

左の行列の列数と右の行列の行数が等しくなければ行列の積は定義されないということをしっかり頭に入れておく必要がある。また,計算の結果として生じる行列の行数は左側の行列から,列数は右側の行列から受け継ぐという「遺伝」現象も合わせて覚える。行列の積の計算の仕方がよくわからなくなったときに,積の行列の型がどうなるかを把握することで計算の指針が立つかもしれない。

なお,積の条件を調べる際には横が行で縦が列という基本事項が身についていないと苦労するので,この段階でその事実を徹底的に身に付けるとよい。


(3) 行ベクトルと2~3列からなる行列との積,または2~3行からなる行列と列ベクトルからなる行列との積の計算の仕方を身に付ける。

この段階を間に入れることで,より一般な型の行列同士の積の習得がスムーズになるのではないかと期待される。


(4) 複数の行からなる行列と複数の列からなる行列の積を身に付ける。

2次正方行列同士,2次正方行列と2×3型の積,2×3型と2次正方行列同士の積などや,段階 (1) とうっかり間違えやすい列ベクトルと行ベクトルの積など,さまざまな型の行列同士の積の計算練習を行う。その際,計算結果の行列の各成分は,行番号を左の行列から,列番号を右の行列から受け継ぐということ,つまり成分の行番号と列番号は元の行列のそれぞれから受け継ぐという「遺伝」があることをよく理解することが肝心である。段階 (2) で鍛えた行方向と列方向を正確に読み取る能力がここで大活躍する。このような「遺伝」は,母親と父親から半分ずつ遺伝子を受け継ぐという生物の遺伝とよく似ている。これは数学とは直接関係ないイメージであるが,中学校の理科あたりで学んだような他の分野の知識であっても,新しく学ぶ内容をすでに知っている似た知識と結びつけると強く印象に残るし,習得が容易になるのではないだろうか。

また,積を計算する行列のサイズが大きくなると計算量も増えていく。「ワタシハ ケイサン キカイ デス」と抑揚のないロボット声で一言つぶやき,計算マシーン・モードに入って計算していくとよいだろう。


なぜ「行列の積」を内積のような計算をベースに定義するのかについては,「積をそのように定義するといろんな応用ができて便利らしい」という程度の理解で済ませ,あまり悩み過ぎないことが肝要である。「積」という名前はついているが,すでによく馴染んでいる通常の数の積とは全くの別の,「行列」という新しい対象について新しく定義された新しい計算法なのだと割り切るのがよいかもしれない。1次変換を行列で表すという,線形代数の少し先の理論において,行列の積がちょうど1次変換の写像としての合成に対応するという見方が可能になると,3つの行列の積に関する結合法則が,写像の合成に関する結合法則にぴったり対応していることがわかるだろう。このような観点から行列の積の定義の由来を理解するという行き方もある。理論を学ぶ際に新しい概念や計算法の起源がわからず,受け入れられなくて立ち往生してしまうことがあるが,我慢して学び続けるとその先の理論で答えがわかるかもしれない。そうやって行きつ戻りつしながら理論の全体像を織り上げていくのが,一つの理論を学ぶということなのだろう。
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