日々雑感

心に浮かんだこと何でも書いていく。

長崎カステラ6-1

2018年05月21日 | Weblog

長崎カステラ

「明日から来なさい」
僕は先生のお誘いに甘えて、午前中は先生の自宅。午後は大学へ通うようにした。身分は日本楽劇協会社員(会員)
「冷蔵庫の中に長崎カステラが入っているので食べよう」
「はい」、、、前のテーブルにお皿を置いた。
「君も食べなさい」
「はい。いただきます」僕は再び席に着いた。そして長崎カステラをいただいた。
気が利かんな。カステラだったら、コーヒーなり、日本茶なり飲み物が必要なのに。 何かいわれはしないか。そう思って先生の顔を見た。

れから再度「いただきます」と言って、顔を見たら、涙ぐんでおられるように見えた。
僕は急に胸が熱くなり、涙がこぼれた。

涙をこらえながら泣いている涙顔で二人は向き合った。
カステラに寄せる先生と僕の想いは、多分同じだったんだろう。

「君。腹が減ってね。かたらちの実をくったがあれはまずくて食えなかったよ。」
幼い頃、今日食べるものにさえ、こと欠いたあの飢えた時代を乗り越えて、今こうして美味しいカステラを口にする。
子供の頃の嘘みたいに苦しんだ、頃の思い出が一挙にこみ上げてきた。
「からたちの実は不味くて食えないんだよ。北原白秋に話したら、
白秋が「からたちの花」を書いてくれた。
そこですぐ作曲して、あのからたちの花が生まれたんだよ。」

「そうでしたか。先生も若いじぶん苦しい時代をお過ごしだったんですね。僕もずいぶん飢えの苦しみを味わったが、先生。思いは一緒でしょうか。」

そこで話は終わって、カステラの方へ手が動いた。
もう60年も前の話だが、山田耕作先生のご自宅でカステラをご馳走になった時の思い出話は、今なお鮮烈に僕の胸で輝いている。